第5-6話「手帳」
六日目。
二人は、廃屋の書庫に、案内された。
山の、中腹。
百年前の、水利の記録が、そこに、ある。
誰も、読まない。
紙は、湿って、崩れていた。
だが、若者は、そこで、一冊、見つけた。
布の、表紙。
――手帳だった。
鉛筆で、書かれている。
女の、字だった。
最初の頁に、こう、あった。
> CN-GZ-0447
彼は、頁を、めくった。
水位。流量。断面。
河床の勾配。
――計算が、びっしりと、並んでいた。
そして、途中から。
――別のものが、混じりはじめた。
> 人口、二〇四八。
> 変動、なし。
> ――一年。
> 人口、二〇四八。
> 変動、なし。
> ――二年。
同じ数字が、十二年、続いていた。
そして、その下に。
> なぜ、増えないのか。
> ――増えていないのでは、ない。
> 増えた分が、消えている。
> 消しているのは、誰か。
彼は、頁を、めくった。
――表が、あった。
> その年の、出生数。
> その年の、死亡数。
> その年の、野良機の、出現数。
十二年ぶん。
そして、その下に、一行。
> 増えた分だけ、来る。
> ――相関、〇・九一。
若者は、そこで、手を、止めた。
彼は、その数字を、知っていた。
――〇・九一。
だが、彼は、それを、どこで見たのかを、思い出せなかった。
彼の脳内には、チップがある。
彼は、忘れない。
――それなのに、思い出せなかった。
なぜなら、それは、彼のチップの中には、無いからだ。
百十五年前、この星の反対側で。
一人の疫学者が、同じ数字を、灰の台帳に、書いた。
彼女は、廃棄された。
台帳は、押収された。
――そして、その数字は、詠唱の書の、項番に、縫い込まれた。
彼の、番号に。
彼は、それを、知らない。
そして、頁の、最後。
こう、書かれていた。
> 后毅。CN-GZ-0009。
> 九つの日を、射た男。
> 旧世紀2047年9月。西方峠にて、消息を絶つ。
> 遺体は、回収されなかった。
> この者は、丹を、一度も、飲まなかった。
そして、その下に。
――鉛筆の、跡だけが、あった。
書こうとして、書かなかった、一行。
紙が、へこんでいる。
若者は、それを、光に、透かした。
読めた。
> ――荷物を、持っていなかった。




