129/167
第5-5話「塞げば、溢れる」
この国の、治水は、他と、違っていた。
堤を、高くしない。
――流す。
脇に、河床を、掘る。
水を、逃がす。
溢れる前に、抜く。
「――塞げば、溢れます」
と、水官の道士は、言った。
「百年前、この国は、それを、学びました」
「――高い堤は、いつか、切れます」
「切れたときに、死ぬ人数は、堤の高さに、比例します」
若者は、川を、見た。
河床が、幾筋も、掘られている。
人が、その脇で、暮らしている。
「――人も、同じでございます」
道士は、そう、言った。
「人も?」
「はい」
「溜めれば、溢れます」
「――だから、流します」
「どこへ」
道士は、答えなかった。
若者は、その顔を、見た。
道士は、目を、そらした。
――そして、こう、言った。
「――試験に、落ちた者は」
「山を、降ります」
「どこへ」
「――外へ」
若者は、また、あの村を、思い出した。
柵。焼けた畑。痩せた子ども。
――帳簿に、載っている。
――守られていない。
三つの国で、同じ景色を、見た。
そして、いま、四つ目である。




