第5-3話「科挙」
この国には、階級が、ない。
いや。
――試験が、ある。
年に、一度。
誰でも、受けられる。
合格すれば、上がる。
落ちれば、上がらない。
それだけである。
生まれは、関係がない。
親の職も、関係がない。
「――神の前では、平等でございます」
と、道士は、言った。
若者は、その言葉に、少し、救われた気が、した。
北の国では、生まれで、死ぬ順番が、決まった。
南の国では、生まれで、職が、決まった。
ここでは、試験だ。
「――エマも、受けられるのか」
道士は、答えた。
「番号を、お持ちでしたら」
若者の、顔が、変わった。
「――持っていない」
「では、受けられません」
「なぜだ」
「――答案に、番号を、書けませんから」
彼は、当たり前のことを、言うように、言った。
「神が、誰の答案かを、判定できません」
「――判定できないものは、採点できません」
「――採点できないものは、存在しません」
若者は、口を、閉じた。
平等だった。
――番号を、持つ者のあいだでは。
その夜。
エマは、試験場の、外に、座っていた。
中では、二千人が、筆を、走らせていた。
彼女は、それを、見ていた。
そして、何も、言わなかった。
若者が、隣に、座った。
「――受けたかったか」
エマは、少し、考えた。
「――いいえ」
「本当か」
「……」
「本当か」
彼女は、うつむいた。
「――受けたかったです」
彼女が、そう言ったのは、この旅で、初めてだった。




