第4-8話「家畜」
若者は、そこに、立っていた。
「――待て」
「絶やさない?」
「はい」
「――絶やさないための、数なのか」
「はい」
「――減らすための、数では、なく」
老人は、目の見えない顔を、彼のほうへ、向けた。
「勇者様」
「あなたは、こう、思っておいでですね」
「神は、我らを、間引いている、と」
「――違うのですか」
「間引いています」
「では――」
「――ですが」
老人は、そこで、言葉を、切った。
「絶やしては、いないのです」
若者は、動けなかった。
「百十五年」
「一度も、二千を、下回っていません」
「――一度も、です」
「飢饉が、来ました。疫病が、来ました。凍った年が、ありました」
「そのたびに、神は、種を、出しました。薬を、出しました。食糧を、出しました」
「――絶やさない、ように」
彼は、両手を、膝に、置いた。
「勇者様」
「――狼は、鹿を、殺します」
「――ですが、鹿を、絶やしません」
「そんなことを、したら、狼が、飢えるからです」
「――ですが、我らを、殺す者は、飢えません」
「機械ですから」
「では、なぜ、絶やさないのですか」
老人は、顔を、上げた。
「――絶やす気が、ないからです」
「飼う気なのです」
沈黙が、あった。
若者は、そこに、立っていた。
老人は、こう、言った。
「百年前、この国に、一人の女が、おりました」
「保全遺伝学者、と、書かれています」
「――アーシャ・ナーラーヤン」
「彼女は、最後に、こう、書き残しました」
老人は、目を、閉じた。
そして、暗誦した。
「――家畜は」
「――絶滅を、許されない」




