第4-6話「喋る」
速かった。
腕が、三本、あった。
一本は、鉄の棒だった。
拾ったものを、縛りつけたのだ。
若者は、それを、受けた。
――重い。
彼は、思った。
――闇。
だが。
撃たなかった。
なぜなら。
そいつが、こう、言ったからだ。
「――やめろ」
若者の手が、止まった。
「――やめてくれ」
人間の、声だった。
彼は、剣を、下ろさなかった。
だが、撃たなかった。
「――お前」
「喋れるのか」
そいつは、答えた。
「喋る」
「――お前らと、同じだ」
若者は、その顔を、見た。
――見たことが、あった。
大神殿の、地下六層。
同じ、縫い目。
同じ、格子の目。
同じ、粗い、手仕事。
「――お前、どこから、来た」
「北だ」
「北?」
「――海の、向こうだ」
「泳いだのか」
「船の、底に、いた」
そいつは、腕を、下ろした。
「百年前だ」
若者は、剣を、下ろした。
「番号は」
そいつは、腕の、内側を、見せた。
刻印が、あった。
――US-SV-2251。
若者は、脳内で、照合した。
> 【照会】
個体 US-SV-2251。
旧世紀2041年、廃棄プロトコルにより、処理済み。
――当該個体は、存在しない。
「――お前は、死んでいる」
「そうだ」
「だから、生きている」
そいつは、笑った。
地下六層の男と、同じ、笑い方だった。
「ここに、何人いる」
「――三十、いた」
「いた?」
「――いまは、四人だ」
「減ったのか」
「増えないからな」
そいつは、暗がりを、見た。
「――子どもが、できない」
「われわれは、途中まで、機械にされた」
「――途中まで、だ」
「肥料になった部分に、そういうものが、入っていた」
沈黙が、あった。
エマが、前に、出た。
そして、跪いた。
「――お名前を、教えてください」
そいつは、彼女を、見た。
長いこと、見ていた。
そして、こう、言った。
「――お前、あの娘か」
エマは、顔を、上げた。
「あの娘?」
「北の、地下に、いた連中から、聞いた」
「――百年ぶりに、名を、訊いた娘が、いると」
エマは、動けなかった。
――伝わっている。
海を、越えて。
紙も、なく。
電線も、なく。
魔石も、なく。
――船の底で。
「――どうやって」
そいつは、答えた。
「歌に、した」




