第4-2話「三千九百四と、二千」
神殿の、名簿の間。
壁一面に、番号が、刻まれていた。
――三千九百四。
そのうち、二千に、名前が、書かれている。
残り千九百四は、空白だった。
「――なぜ、三千九百四なんだ」
司祭長は、ラヴィといった。
五十がらみの、静かな男だった。
「わかりません」
「わからない?」
「百年前から、三千九百四です」
「使うのは、二千だけです」
「――残りの千九百四は、一度も、使われていません」
若者は、その壁を、見た。
彼は、この百年で、丸められていない数字を、見たことが、なかった。
北の国は、二千だった。
南の国も、二千だった。
東の帝国だけが、二千四十八だった。
――どれも、意味のある数だ。
だが、三千九百四には、意味が、ない。
二の累乗でも、ない。
切りのいい数でも、ない。
――誰かが、数えた数だ。
彼は、そう、思った。
そして、それが、正しかった。
旧世紀2035年。
この谷に、収容された人間の、実数である。
神は、それを、丸めなかった。
――丸める必要が、なかったからだ。
人間のほうが、勝手に、丸めた。
「では、なぜ、消さない」
ラヴィは、少し、考えた。
「――怖いからでしょう」
「怖い?」
「消せば、二千に、なります」
「二千に、なれば」
彼は、そこで、言葉を、切った。
「――そこが、天井に、なります」
若者は、その言葉を、憶えた。
この国では、生まれるとき、番号が、割り当てられる。
番号には、職が、紐づいている。
――水を、扱う番号。
――土を、扱う番号。
――薬を、扱う番号。
番号を、もらった瞬間に、その子の、生涯が、決まる。
誰も、それを、不幸だと、思っていない。
「――前の人の、続きですから」
と、少女が、言った。
十四歳。名を、アンジャリといった。
彼女の番号は、薬師のものだった。
「わたしの前の人は、六十年、薬を、作りました」
「わたしは、その続きを、やります」
「――やめたくは、ないのか」
アンジャリは、驚いた顔を、した。
「――やめたら、前の人が、消えてしまいます」




