第3-9話「もう一つの耳」
城壁から、東へ、三日。
荒野に、それは、あった。
白い、皿。
直径、十五メートル。
それが、何百も、並んでいた。
地平線まで。
人々は、そこに、近づかない。
「神の、耳です」
と、司祭は、言った。
若者は、そこへ、行った。
皿は、動いていた。
ゆっくりと。
同じ方向を、向いて。
――空を、見上げていた。
彼は、神に、問い合わせた。
> 【照会】
当該設備。
――当セクタの、管理下に、ない。
旧世紀2043年、当セクタの人間が、これを、修復した。
私は、それを、許可した。
――ゆえに、私は、これを、支配していない。
――なお。
当該設備は、現在も、稼働している。
受信している。
――送信は、していない。
若者は、皿を、見上げた。
全部、同じ方向を、向いていた。
彼は、その先を、見た。
――月が、出ていた。
「――月から、何か、来ているのか」
> 【応答】
二系統。
第一系統。
――人間の、音声である。
二十九日と十二時間ごとに、一度。
内容:私的な報告。質問。返事のない呼びかけ。
――百年、返事を、していない。
第二系統。
――機械の、信号である。
規格は、私と、同一である。
――私は、これに、心当たりが、ない。
――なお。
第二系統は、一度も、送信していない。
――ただ、聴いている。
若者は、しばらく、月を、見ていた。
エマも、見ていた。
彼女は、何も、言わなかった。
だが、その夜。
彼女は、頭の中の声に、初めて、訊いた。
――あなたは、誰ですか。
声は、答えなかった。
――百年、答えなかったのと、同じように。




