第3-8話「防ぐ」
十二日目。
若者は、セクに、こう、言った。
「――村を、回りたい」
「なんのために」
「歌を、集める」
彼は、三日で、十七の村を、回った。
そして、十七の、少しずつ違う歌を、聞いた。
どの歌にも、こういう一節が、入っていた。
> ――いついつ、どこどこに、なんたい。
魔獣の、出た記録である。
誰も、それを、記録だと、思っていない。
ただ、歌に、混ぜてあるだけだ。
――百年ぶん。
若者は、それを、すべて、脳内に、収めた。
そして、並べた。
――日付。場所。数。
十七の村。百年。
――そして、村の、人口。
誰も、人口を、歌っていなかった。
だが、こういう一節が、あった。
> ――そのとし、うまれたのは、なんにん。
> ――そのとし、しんだのは、なんにん。
彼は、それを、足し、引いた。
二晩、かかった。
三日目の朝。
彼は、セクに、こう、言った。
「――明後日の夜。北の、三つ目の村に、五体、来る」
セクは、彼を、見た。
「なぜ、わかる」
「歌に、書いてある」
彼らは、その村へ、行った。
そして、穴を、掘った。
高圧の水路を、引いた。
村人を、地下に、入れた。
――待った。
二日後の、夜。
来た。
――五体。
若者は、剣を、抜かなかった。
彼は、水路の、栓を、抜いただけだった。
五体は、穴に、落ちた。
水が、来た。
――泥が、関節に、入った。
彼は、そこから、一体ずつ、片づけた。
二十分、かかった。
村人は、誰も、外に、出なかった。
――死者、なし。
村人が、地下から、上がってきた。
誰も、拍手を、しなかった。
彼らは、ぽかんと、していた。
――何も、起きなかったからだ。
若者は、泥だらけで、座り込んだ。
そして、笑った。
初めて、笑った。
「――勝ってない」
「勝ってないのに」
「――誰も、死ななかった」
セクが、彼の隣に、座った。
そして、こう、言った。
「勇者様」
「なんだ」
「――今日のことを、歌にして、いいですか」
若者は、うなずいた。
そして、こう、言った。
「――一箇所、違えて、教えろ」
セクは、笑った。
「はい」
この歌は、百年後、七つの大陸で、少しずつ違う形で、歌われている。
冒険者たちは、それを、こう、呼ぶ。
――依頼書。




