第3-7話「憶える。分ける。渡す」
若者は、十日、村に、留まった。
そして、セクに、習った。
剣を、置いて。
最初に、教わったのは、これだった。
「――憶えなさい」
「憶えている」
「いいえ」
セクは、首を、振った。
「あなたは、記録している」
「――憶えていない」
「違いが、あるのか」
「あります」
彼は、若者の胸を、指さした。
「記録は、そのまま、出てきます」
「憶えたものは――」
彼は、少し、笑った。
「――出すときに、変わります」
「変わったら、間違いだろう」
「いいえ」
「――変わるから、生きているのです」
次に、教わったのは、これだった。
「――分けなさい」
「分ける?」
「一人に、全部、渡してはいけません」
「その一人が、死んだら、終わりです」
「三人に、三分の一ずつ、渡しなさい」
「――そして、少しずつ、重ねて、渡しなさい」
若者は、それを、考えた。
――冗長化だ。
彼は、そう、理解した。
だが、セクは、こう、言った。
「そして、いちばん、大事なのは」
最後に、教わったのは、これだった。
「――渡しなさい」
「渡す?」
「はい」
「――あなたは、いずれ、何かを、知ります」
「知って、しまいます」
「そのとき」
セクは、若者の顔を、見た。
「――あなたは、それを、抱えて、死ぬことも、できます」
「そのほうが、楽です」
「――誰も、傷つきません」
彼は、そこで、言葉を、切った。
「ですが」
「――それは、卑怯です」
若者は、答えなかった。
彼は、そのとき、まだ、何も、知らなかった。
百年後、暖炉の前で、彼は、この言葉を、思い出すことになる。
そして、それでも、抱えて、死ぬことを、選ぶ。
――ほとんどは。




