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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】第3章:律法国 ―― 書けないことは、唱えられない

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第3-6話「わざと、違える」


「八代目?」


 若者が、訊いた。


 セクは、うなずいた。


「初代は、ムサ」


「百年前の、人です」


「――女神から、じかに、習った」


「女神とは」


「タンディ様」


「――紙を、信じなかった、女です」


 若者は、村を、見回した。


 誰も、紙を、持っていない。


 誰も、字を、書かない。


 ――だが、全員が、憶えている。


「これは、何を、伝えているんだ」


「系譜です」


「系譜?」


「――誰が、何をしたか」


「それを、名前で、繋いでいく」


 セクは、そう言って、また、歌った。


 若者は、聞いた。


 そして、脳内に、収めた。


 ――一度で。


 彼は、次の村へ、行った。


 そこでも、同じ歌が、歌われていた。


 だが。


 ――違っていた。


 三箇所。


 名前の順番が、違う。


 一つ、名が、多い。


 節が、半音、高い。


 彼は、三つ目の村へ、行った。


 ――また、違っていた。


 彼は、セクのところへ、戻った。


「――間違っている」


 セクは、笑った。


「はい」


「なぜ、正さない」


「――正しません」


「なぜだ」


 セクは、地面に、指で、丸を、書いた。


 そして、その中に、点を、打った。


「一つの、正しい歌が、あるとします」


「それを、書き留めます」


「――そして、それが、燃えたら」


 彼は、丸を、手で、消した。


「――終わりです」


 彼は、今度は、地面に、点を、たくさん、打った。


 ばらばらに。


「二千人が、少しずつ違う歌を、憶えている」


「消すには、二千人、殺さねばならない」


 若者は、その点を、見ていた。


「――だから、わざと、違えるのか」


「はい」


「わたしは、弟子に、教えるとき」


「――一人ずつ、一箇所ずつ、違えて、教えます」


「そうすれば、二人の弟子から、正本は、復元できません」


「――そして、どちらも、失われません」


 若者は、長いこと、黙っていた。


 彼の脳内には、チップがある。


 彼は、忘れない。


 ――だから、彼は、正本を、持っている。


 彼は、生まれて初めて、そのことを、恥じた。



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