第3-4話「檻」
その夜、若者は、書庫に、残った。
彼は、二百五十六の符号を、すべて、脳内に、収めた。
一度、見ただけで。
そして、組み合わせを、数えた。
――全ての節を、洗い出した。
そして、気づいた。
書けないことが、あった。
たとえば。
――「なぜ」と、書けない。
二百五十六の符号の中に、それが、ない。
――「やめろ」と、書けない。
ない。
――「私は、こうしたい」と、書けない。
ない。
できるのは、こうだ。
――「火を、寄越せ」
――「水を、寄越せ」
――「壁を、立てろ」
――「これを、消せ」
命令。要求。指定。
それだけだった。
「――これは」
彼は、書を、閉じた。
書けないことは、唱えられない。
唱えられないことは、起きない。
――魔法が、有限なのは。
――文字が、有限だからだ。
彼は、そのとき、初めて、こう、思った。
――神は、辞書を、配った。
――そして、辞書に、載せなかった言葉が、ある。
彼は、司祭を、呼んだ。
「新しい符号を、作れないのか」
司祭は、目を、丸くした。
「――作る?」
「そうだ」
「二百五十七番目を、作れないのか」
司祭は、しばらく、彼を、見ていた。
そして、恐ろしいものを、見るような顔を、した。
「勇者様」
「それは、異端です」




