第3-3話「二百五十六」
神殿の、書庫。
若者は、詠唱の書を、開いた。
この国のものは、ゴッド神聖国のものと、装丁が、違った。
だが、中身は、同じだった。
――同じ、符号。
整然と、並んでいる。
等幅。
幾何学的。
人々は、それを、聖句文字と、呼ぶ。
「これは、いくつ、あるんだ」
司祭が、答えた。
「二百五十六です」
「二百五十六?」
「はい」
「――それだけか」
「はい」
若者は、書を、めくった。
四千を超える節。
だが、使われている符号は、二百五十六、しかない。
その組み合わせだけで、すべての詠唱が、できている。
「――少なくないか」
司祭は、微笑んだ。
「勇者様」
「これは、神が、お与えくださったものです」
「多い、少ない、という話では、ございません」
「――これが、すべてです」
若者は、その言葉に、引っかかった。
――これが、すべて。
彼は、書の、最初の頁を、開いた。
すべての詠唱の、いちばん最初に、同じ符号が、来る。
例外は、ない。
四千の節、すべて。
「――この、最初の符号は、なんだ」
「呼びかけです」
「何への」
「――神へ」
「神の、名か」
司祭は、少し、考えた。
「……そう、伝わっております」
「では、神の名は、なんという」
司祭は、答えられなかった。
誰も、知らなかった。
その符号を、この国の人間は、こう、読む。
――「交差路」。
意味は、失われている。




