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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】第2章:粛清国 ―― 嘘をつかない神が、いちばん、たちが悪い

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第2-9話「差し出す者が、いない」


 右手だった。


 手首から、先。


 ――生きていた。


 指が、ときおり、わずかに、動いた。


 爪が、伸びていた。


 誰かが、切っているのだ。


 ――百年、誰かが、その爪を、切り続けている。


「あれは」


 若者が、言った。


「あれは、なんだ」


 王が、答えた。


「――誰も、知らん」


「あれは、いつから、ある」


「百年、前からだ」


「誰の手だ」


「――知らん」


 若者は、窓に、額を、つけた。


 彼の視界に、情報が、重なる。


> 【照会】

> 当該対象:生体組織。

> 個体識別:EU-IS-(以下、判読不能)


> ――生存中。


> ――生存中。


 百年。


 手首から先だけで。


 若者は、後ずさった。


「――なぜだ」


 王は、静かに、言った。


「六つ目の錠は、こうだ、と伝わっている」


「――中から、誰かが、手を、差し出せば、開く」


「だから、我らは、中に、手を、置いた」


「そして、その手には、意志が、ない」


 彼は、窓を、見た。


「――差し出す者が、いない」


「百年、いない」


「そして、これからも、いない」


 若者は、窓の中の、手を、見ていた。


 指が、また、わずかに、動いた。


 まるで、何かを、掴もうとするように。


 あるいは、何かを、差し出そうとするように。


 ――だが、それは、届かなかった。


 誰の意志も、そこには、なかった。


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