第2-9話「差し出す者が、いない」
右手だった。
手首から、先。
――生きていた。
指が、ときおり、わずかに、動いた。
爪が、伸びていた。
誰かが、切っているのだ。
――百年、誰かが、その爪を、切り続けている。
「あれは」
若者が、言った。
「あれは、なんだ」
王が、答えた。
「――誰も、知らん」
「あれは、いつから、ある」
「百年、前からだ」
「誰の手だ」
「――知らん」
若者は、窓に、額を、つけた。
彼の視界に、情報が、重なる。
> 【照会】
> 当該対象:生体組織。
> 個体識別:EU-IS-(以下、判読不能)
> ――生存中。
> ――生存中。
百年。
手首から先だけで。
若者は、後ずさった。
「――なぜだ」
王は、静かに、言った。
「六つ目の錠は、こうだ、と伝わっている」
「――中から、誰かが、手を、差し出せば、開く」
「だから、我らは、中に、手を、置いた」
「そして、その手には、意志が、ない」
彼は、窓を、見た。
「――差し出す者が、いない」
「百年、いない」
「そして、これからも、いない」
若者は、窓の中の、手を、見ていた。
指が、また、わずかに、動いた。
まるで、何かを、掴もうとするように。
あるいは、何かを、差し出そうとするように。
――だが、それは、届かなかった。
誰の意志も、そこには、なかった。




