第2-8話「隔離区画」
六日目。
王が、二人を、地下へ、案内した。
階段が、長かった。
三百段。
降りるほど、寒くなった。
最下層。
そこに、扉が、あった。
鉄では、なかった。
白い、金属だった。
――百年、錆びていない。
扉の前に、碑文が、あった。
石に、直線ばかりの文字が、刻まれている。
「読めるのか」
若者が、王に、訊いた。
「――読めん」
「では、なぜ、置いてある」
「代々、こう、伝えられている」
王は、暗誦した。
「――六つの錠、あり」
「一、猫の足音」
「二、女の髭」
「三、山の根」
「四、熊の腱」
「五、魚の息」
「――そして、六」
王は、そこで、口を、閉じた。
「六は?」
「――伝わっていない」
若者は、碑文を、見た。
そして、隣を、見た。
エマが、碑文の前に、立っていた。
彼女は、動かなかった。
――読んでいた。
そこには、五つの錠が、こう、書かれていた。
> 一、発行されていない、鍵。
> 二、署名されていない、証。
> 三、記録されていない、時刻。
> 四、観測されていない、事実。
> 五、存在しない、証明。
――どれも、この世に、存在しない。
そして、六つ目。
> 六、隔離区画の内側から、
> 生きた人間が、
> 自らの意志で、
> 手を、差し出すこと。
エマは、そこで、目を、閉じた。
――内側に、人は、いない。
入れば、死ぬ。
入って、生きて、手を差し出せる者は、いない。
――だから、永遠に、解けない。
彼女は、そう、思った。
そして、扉の、小さな窓を、見た。
中が、見えた。
白い部屋。
中央に、台。
台の上に、透明な、槽。
――液体で、満たされていた。
その中に。
――手が、あった。




