表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/23

【会議】

————VTuber事務所【カレイド・スフィア・プロダクション】。


『数多の個性が集まり、一つの美しい世界を創り出す』という理念を掲げるVTuber事務所である。


業界最大手にはまだ及ばないものの、その自由な活動方針と所属タレントたちの高い人気によって近年急速に知名度を伸ばしている中堅企業。




————三期生デビューから一年余り。

カレイドは満を持して四期生オーディションを開催した。

毎回経営陣の予想を遥かに超える応募者が集まる。

それでもカレイドが応募の門戸を狭めることはなかった。


————曰く、全ての原石を見逃す訳にはいかないから。


————曰く、個性に優劣など存在しないから。


————曰く、数多の個性が集まることで世界は完成するから。


その考えのもとデビューしたタレントたちは、それぞれの個性を武器に人気を博している。


————『カレイドの新人にハズレなし』


それは個性を見出すスタッフたちと、その個性を余すことなく発揮するタレントたちによって積み上げられた結果であった。
















「————では四期生最終選考を始めます」


その場にいるのはカレイド・スフィア・プロダクションの上層部メンバーたち。

それぞれのテーブル上にはオンライン面接まで済ませ絞られ()()()()()()()()()()応募者たちの情報シート。


「今回四期生は五名でのデビューを予定しています。

————皆様意見をどうぞ」


「私はこの子推しね」


そう言って一枚の情報シートを上げたのはタレント統括の女性社員だった。


「この子は外せないと思うわ」


「あぁ、歌の子か」


何人かが頷く。


「歌唱力が突出しています。

技術だけでいうなら現所属タレントと比較しても上位クラスです」


「確か配信経験もあるんだったな」


「機材の使用方法に関しては問題がない、という程度のようですが」


資料を確認しながら広報担当が答える。


「面接ではだいぶ緊張している様子だったけど……」


「そう!歌ってくださいと言った瞬間に空気変わったよね」


「鳥肌立った」


「正直、歌だけで採用理由になるレベルだと思う」


反対意見は出なかった。


「俺はこの子だな」


今度は広報担当が資料を持ち上げる。


「あぁ、競技勢の子か」


「ゲーム上手かったねぇ」


面接官の一人が思い出したように笑う。


「全国大会出場経験あり」


「実績だけでも十分です」


「配信経験はほぼ無いみたいだけど」


「だーいぶ負けず嫌いなのは気になるが……」


「でも質問への返答も面白かったですよ?

どうしても勝ちたい理由を聞いたら」


資料をめくりながら社員が読む。


「『ゲームでくらい無双したいじゃないですか』だったか」


「確かにその返しは面白いし嫌いじゃないな」


「性格的には伸びるタイプだと思います」


こちらも大きな反対意見はない。


「私はこの方ですね」


マネージャー代表が静かに資料を差し出す。


「あぁ……!」


何人かが苦笑する。


「面接官を笑わせ続けた子か」


「一時間があっという間でしたね」


「こっちが質問してるはずなのに気付いたら話に巻き込まれてた」


「雑談能力は今期トップでしょう」


「緊張している様子は欠片もなかったね」


「というより誰とでも仲良くなれそうだった」


「コラボ適性も高そうです」


「場を回せる人材は貴重だからな」


こちらも好意的な意見ばかりが並ぶ。


「この子もいいと思うんだけどねぇ」


企画担当の社員が疲れたような声音で言った。


「あぁ〜……あの子ね……」


再び何人かが苦笑する。

今度は困ったような雰囲気で。


「何かありましたっけ?」


「あったも何も。

面接なのに逆に質問攻めにされた」


「そうそう」


「『御社で今まで失敗した企画は何ですか?』とか聞いてきた子だ」


「普通逆だろ……逆……」


広報担当が吹き出す。


「確か『面白い配信者になるには面白い失敗を知るべきだと思ったので』とか言ってましたね」


「発想が独特なんだよな……」


企画担当が資料を軽く叩く。


「歌もゲームも突出していない。

配信経験も少ない」


「————だけど企画書は凄かった」


「あの二十ページ超えのやつね……

あれ全部実現可能だったから余計怖い」


「行動力もあるし編集もできる」


「企画屋としてはかなり有望ですね」


こちらも大きな反対意見は出なかった。

四名に関しては元々合格が決まっていたようなものであった。

誰もが一目で理解できる武器を持っている。

故に必要だったのは選考ではなく、認識の共有だ。

そして————それは既に終わった。


残る席はあと一つ。

先程までのスムーズかつ口数の多い時間とはうって変わって会議室に静寂が落ちる。

テーブルに置かれた最後の資料へと自然に視線が集まった。


そこに書かれた名前は————


————早川(はやかわ) 優梨(ゆうり)


歌が突出しているわけではない。

ゲームの実績があるわけでもない。

トークで場を支配したわけでもない。

企画書を大量に送り付けてきたわけでもない。


————にもかかわらず。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「————……さて」


最初に口を開いたのはマネージャー代表だった。


「正直に言います。

————私は少し不安です」


資料へ視線を落とし数名が頷いた。

反対というほどではない。

しかしその言葉の理解はできる。

そんな反応だった。


「能力は間違いなく本物です」


「そこに異論はない」


タレント統括も同意する。


「録音かと思うレベル……。

あの模倣は————異常だった」


「声だけじゃない。

仕草も視線も間の取り方も再現していました」


「あんなことができる人間は見たことがない」


————しかし。

広報担当が腕を組む。


「問題はそこじゃないんだよな」


再び沈黙。


「この子————何がしたいのか分からないんだよ」


資料を指で叩く。


「それなんですよねぇ」


企画担当も苦笑した。


「歌いたいわけでもなければゲームが好きなわけでもない。

有名になりたいわけでもないしアイドルになりたいわけでもない。

————じゃあなんで来たんだ?」


資料を一枚めくる。

『VTuberを理解したい』


「……意味が分からない」


誰かが率直に言った。

過去そんなことを言った者はいない。


「いや、本当に意味が分からない」


「理解したいって何だよ」


「研究者か何かか?」


苦笑が漏れる。

他の者たちも似たような反応だ。


————その中で一人だけ。

社長は愉快そうにニコニコと資料を眺めていた。


「————皆はどう思う?」


突然振られた質問に社員たちが顔を見合わせる。

しばしの沈黙の後に一人目が口を開いた。


「私は……先程も言いましたが少し不安です。

能力は確かに本物……そこについては誰も異論ないと思います」


マネージャー代表の言葉に皆が頷く。


「問題は活動理由です。

皆何かしら原動力があります

————でも彼女にはそれが見えない」


「……確かに」


広報担当も腕を組みながら考えるように口を開いた。


「正直、デビュー後の姿が想像できないんだよな」


「同感です」


企画担当も頷く。


「面接中もずっと不思議だった。

『VTuberになりたい』んじゃなくて『VTuberを知りたい』だったからな」


「……興味がなくなったら……?」


誰かがぽつりと呟く。


「……自分の答えを見つけたらそこで終わるんじゃないか……?」


誰も否定しなかった。

————否定できなかった。

誰しもがその姿を想像できたから。










「————いや」


静かながらよく通る声が空気を切る。

————社長だった。


「私は逆だと思うなぁ」


全員の視線が集まる。

社長は資料から目を離さないまま続けた。


「皆はあの子に()()()()と言う。

でも……私はそうは思わない」


資料を一ページをめくる。




「————むしろ彼女ほど必死な応募者を見たことがない」


「……必死?」


誰かが首を傾げる。

その言葉の意図を測りかねている様子。


「だってそうだろう?

君たちが他の子たちからは感じ取れた熱が彼女からは感じられなかった。

————それなのに彼女はここまで来た」


社長の笑みが少しだけ薄れる。


「資料を見ていて少し感じた。

面接を見ていて思った。

彼女は何がしたいか分からないんじゃない。




————自分が何をしたいのか分からないんだよ」


会議室が静まり返る。

その言葉に思い当たるところがあるのか考えるような顔をする者が数名。

社長はふっと笑う。


「だからVTuberを知りたいんだろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()


資料を持ち上げる。

そして社長は会議室を見渡した。


「うちはどういう会社だい?」


誰も答えない。

答えが分からないわけではないむしろ————答えは嫌という程知っている。

社長は自ら続けた。


「————全ての原石を見逃さない。

————個性に優劣はない。

————数多の個性が集まって世界になる」


指を一本立て資料を軽く持ち上げる。


「ならこの子のも個性だろう?

歌が上手い子がいる。

ゲームが上手い子がいる。

トークが上手い子がいる。




————()()()()()()()()()()()()がいる」


最後の言葉だけは至極真面目な表情で社長は言う。


「むしろ今までいなかったタイプだ」


そう言って再びニコニコと笑う。

————誰も口を開かずしん、とした会議室。


社長のその言葉を聞いて。

何人かは納得し、何人かは不安を覚え、それでも全員が理解した。


————社長は既に決めている。


「それじゃぁ————四期生五人目として……。

————早川(はやかわ) 優梨(ゆうり)採用する」


反対意見は出なかった。


————こうしてカレイド・スフィア・プロダクション四期生最後の一人が決定した。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






オンライン面接から数日。

いつもと変わらぬ日常を過ごしていた『俺』の元に一通のメールが入る。


【カレイド・スフィア・プロダクション四期生オーディション合格のお知らせ】


画面を見る。

届いた内容に驚きはなかった。

特段受かると思っていたわけでも落ちると思っていたわけでもない。


「……受かった」


事実を確認するように呟く。

嬉しいのか嬉しくないのかと問われれば自分でもよく分からない。

————ただ。


「これでVTuberになれる」


その一点だけは理解できた。

既にメールの内容は記憶しているため何度も読む必要はない。

流石にそのままという訳には行かず両親への報告をしようとリビングへ向かう。




「————お母さん、お父さん」


「どうしたの?」


「どうしたんだ?」


声をかけた瞬間、二人とも食い気味に反応した。

返事だけでなく身体ごと『僕』の方を向くおまけ付きだ。


「受かった」


ただ一言事実を伝えると数秒沈黙。


「…………え?」


「オーディション」


お母さんからの絞り出したような声に一言返しさらに数秒。


「…………え?」


「受かった」


続いてお父さんからの同じような声にもう一言返した。



「「えっ!?!?」」


仲がいいことに二人とも同じような反応で身を乗り出してくる。


「本当に!?

嘘じゃない!?」

め、メール見せて!」


「お、落ち着け母さん!

まずは落ち着いて郵便受けをだな……!」


「アナタこそ落ち着いて!

今どきはメールで送られてくるのよ!!」


しばらくの間興奮した様子の両親のやり取りを見ながら『僕』は二人が見たがっている合格の証拠であるメールの準備をしておくこととする。






「「————おめでとう!!」」


落ち着いた両親がメールを確認すると同時に抱きしめてくる。

まだ合格しただけだと言うのに、自分のことではないのに泣き出しそうなほど喜ぶ両親。

そこまで喜ぶことなのだろうか。

『僕』には分からない。


————でも。

二人が心底嬉しそうなのは分かった。

その姿を見ていると自然と少しだけ胸の奥が暖かくなる。


————から。


「……うん」


『私』は少しだけ笑う。

少し前に観た映画に出ていた少女のように。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ