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完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


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3/3

【オーディション】

————だからVTuberになってみよう。

【自分】を知るために————。




そう結論付けたからには動き出しは早い方がいい。

ここ数日VTuberたちの配信を見たことにより【真似】をし配信活動をすることは問題ない。


雑談であろうとゲーム実況であろうと歌を歌うことだろうとその気になればなんだって今すぐにでもできるだろう。




————だが、それだけでは恐らく意味はない。


『俺』が知りたいのは配信技術でもアバター制作でもない。

同類だと思っていたVTuberたち。

彼らが持ち『私』が持たない【自分】というモノだ。




————で、あるならば。

まずは彼らの軌跡を【真似】しようではないか。


いかにしてVTuberになったのか。

『私』は再びネットという広大な海から必要な情報を拾い上げる。

配信環境。

アバター制作。

動画編集。

配信ソフト。

活動に必要な知識は数多いがしかし。

それらは本質ではないように思えた。


今の『私』が知りたいのは技術ではない。

VTuberという存在へ至る過程だ。


————見るべきは企業勢だろう。

個人勢も存在する。

だが『俺』が【自分】を持っているように見えた者たちの多くは企業勢だった。


『僕』は幾つもの企業サイトを巡った。

それこそ新興、中堅、トップ関係なく。

所属タレント一覧。

活動履歴。

紹介動画。

公開されているインタビュー。

例え既に見た情報であったとしても改めて確認する。


————そうしているうちにある文言が目に入る。


「……オーディション?」


多くの企業サイトに目立つように存在している。


————新人募集。

————VTuberオーディション。

————ライバーオーディション。


名称に多少の差はあれど意味は同じだ。


ひとまず募集ページを開く。

活動内容。

応募条件。

歓迎される経験。

求める人物像。


『僕』は一行ずつ目を通した。






「————なるほど」


小さく呟く。

当たり前のことのようだがVTuberとは突然生まれるものではないらしい。

企業は候補者を募り、選考し、育成し。

そして————タイミングが来れば世へ送り出している。

————つまり。

このオーディションが彼らの出発点だ。


『私』が観察していたVTuberたちもまた、少なくとも企業勢であるならば一度はここを通ったということになる。


『僕』は募集要項を上からもう一度読み返した。


予定している活動内容。

求める人物像。

配信経験者歓迎。

継続的な活動意欲。

コミュニケーション能力。

歌唱経験。

演技経験。

どの企業でも様々な条件が並んでいる。


————だが。

『私』からすれば難しいとは思わなかった。

何せここには企業が欲しいと願うモノの答えが載せられている。




————【真似】すればいい。

今までと同じように。

どのレベルを求められたとてそのレベルに達している者を【真似】すればいいだけだ。


『僕』は最後に開いた企業の【四期生オーディション開催!!!】と書かれたバナーを開く。

必要事項に始まり自己PR、志望動機、経験などなど。


『私』は迷うことなく入力を始めた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






オーディション応募から数日後。

企業側からのメールが届く。

1ヶ月程度は早くともかかると思っていたが随分と早い返信だ。

形式ばったメールであるが簡単に言えば一次審査を合格したらしい。

特に感慨はなかった。

落ちたのであれば別の企業を受けるだけ、通ったのであれば次へ進むだけ。

『俺』にとってはその程度の認識だった。


『僕』はメールに記されていたオンライン面接の希望日時についてという内容に素早く返信する。


『私』は一階に居る両親に話をするために自室を出るのであった。





















————オンライン面接当日。

『僕』はほとんど一新レベルで環境の変わった自室で開始時間を待っていた。


————一次審査を合格したあの日。

流石に両親に話さずにいるわけにはいかず説明を試みた。

『私』がVTuberという活動をやりたいということ、そして既に一次審査は合格しオンライン面接を控えているという内容をそのまま。

すると両親は顔を見合せ今までにない程の笑顔で『私』の頭を撫で喜びの色を見せた。


そこからはトントン拍子で話が進み『私』がいらないと言うのにもかかわらずまるで押し付けて来るかの勢いでパソコン本体や周辺機器、デスク、イスなどが新調されたのだ。


これも両親からの愛だと言うことは分かるので素直にお礼はしておいた。











「————そろそろか……」


『私』は企業側から送られてきたリンクを開き準備完了を相手に知らせる。

そうすればすぐに画面が切り替わり私のパソコン画面に三名の大人の姿が現れた。

————三人ともが面接官なのだろう。


『俺』はいつも通り【真似】をし【演じ】る。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






『————本日はどうぞ宜しくお願いいたします』


画面に映った少女がそういった後に頭を下げる。

文句のつけようなどこれっぽちもない完璧な佇まい。


面接官Aが一瞬固まる。


「あ、はい。よろしくお願いします。

それではまずは自己紹介をお願いします」


早川(はやかわ) 優梨(ゆうり)と申します。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます』


面接官たちが少女の姿に感心を示す。

————年齢相応ではない。

言葉遣いと相手を真っ直ぐと見る視線。

美しい姿勢のまままるで時間が止まったかのように動かない。

さらには会話の間の取り方。

全てが完成されているといってよかった。

面接官Bが驚いたような雰囲気で口を開く。


「かなり面接慣れしていますか?」


『いいえ。

そのように感じていただけたのならとても嬉しく思います』


「では人前で話す機会が多かったとか?」


『生徒会に所属させていただいておりますのでそういった機会は頂くことは多いです』


「なるほど……落ち着かれていたのでそうなのかなとは思っておりました。

早速となりますが————弊社を志望した理由を教えてください」


『はい。VTuberという文化に強い興味を持ち色々な方々を拝見させて頂くうちに特に御社所属タレント様の活動には共通する特徴があるように感じました。

その環境で活動することでより深くVTuberというものを理解できるのではないかと考えたからです』


「なるほど……特にどなたが印象的でしたか?」


『○○さんです。

視聴者との距離感の作り方や配信構成が非常に参考になりました』


「かなり研究なさっているようですね」


『はい。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


少女のその言葉に三人の面接官が硬直する。


「す、全て……??」


『はい。

御社所属タレント様の物はデビューから本日までの全てに目を通しております』


「……全員分を……全て……??」


流石に嘘だろうと思う三人であったが少女の淀みない言葉に本当かもしれないと思わされるものがあった。

面接官Cが興味本位で口を開く。


「ち、ちなみにどれ程の期間がかかったのでしょうか?」


『八日です』


その回答に少女の言葉が嘘だと確信した様子の面接官たち。


「八日では時間がかなり足りないと思うのですがどうでしょう?」


『はい。必要な情報は一度確認すれば記憶できますので複数端末で再生速度を加速させて並行して視聴させて頂きました』


「…………そ、そうですか…………」


少女の回答に冷や汗を一筋垂らす。

そこで面接官Aが話題を変える。


「えっと……では好きな配信者の方について教えて頂けますか?」


『好き、ですか』


少女が今までの回答とは違い少し考える素振りを見せる。


『————分かりません』


面接官が首を傾げる。

数ある質問の中でもかなり簡単で答えやすい内容のはずだが少女からの分からないという回答。


『参考になる方は沢山いらっしゃいますし観察対象として興味深い方も沢山いらっしゃいます。

ですが————【好き】という感覚は少々理解が難しいです』


面接官たちが再び固まり顔を見合わせる。

どこか変わった感性の持ち主なのかもしれない。

しかし受け答え自体は極めて真面目だった。


「では早川さんの長所を教えてください」


『————模倣です』


「模倣?」


『はい』


「具体的には?」


『大抵のことなら模倣可能です』


再び淀みのない言い切るような言葉。


「……例えば?」


『では実演させていただきます』


少女は迷いなく答えた。


『————何を【真似(模倣)】すればよろしいでしょうか』




面接官Bが咳払いをして口を開く。


「では私を真似ることは可能ですか?」


少女は不思議そうに数度瞬きをすると口を開いた。


『はい。可能ですが』


「ですが?」


『その程度で大丈夫なのでしょうか?』


「……ええ大丈夫です」


『かしこまりました』


そう言って少女は一度口を閉じる。


————数秒。


本当にただそれだけだった。

特別な何かをしている様子は全くない。

少女が再び口を開いた。


「————()()()()()()()()()()()()()()()()


面接官Bの顔から表情が消えた。

声音、話す速度、抑揚。

間の取り方といった癖。

その全てが今しがた自分が発した言葉と()()()()()()()()()()

録音を再生したと言われた方が納得できるほどだ。


「…………」


()()()()()()()()


その言葉もまた自分だった。

自分で無意識のうちに声を出したのではないかと思うほどに。


「いや、その……」


()()()()……』


反射的に返した言葉すら追従される。

面接官Bが口を閉じれば少女も口を閉じる。

————まるで鏡だった。




「……もう、大丈夫、です」


「……()()()()()()()


面接官Bが思わず椅子へ深く座り込む。

少女も同じような角度で椅子へ深く身を預けた。


「っ!?」


今度は声だけではない————姿勢まで同じだった。

ここで面接官Aが慌てて止める。


「す、ストップ!」


少女が動きを止める。


『何か問題がございましたでしょうか?』


少女から聞こえてきたのは初めに聞こえてきた少女自身の声。


「いや……その……」


面接官Aは言葉に詰まる。

問題があったわけではない。

むしろ完璧だった。

————完璧すぎた。


『模倣精度が不足しておりましたか?』


「いや、逆です」


面接官Cが思わず呟く。


「逆に怖いほどそっくりでした……えぇ」


少女はその言葉の意味を理解できなかったがその場にいる面接官三人が真似について理解したようで良かったと頷く。


少しして落ち着いたのか面接官三人が視線を交わす。

最初は余興のつもりだった。

特技が模倣だというのなら少し見てみよう、その程度だった。

想定していたのはちょっとしたモノマネ芸人くらいのもの。


————だが。

今目の前で披露されたものはそれとは別物だった。


面接官Aが小さく咳払いをする。


「……ありがとうございます。

長所については理解できました」


『はい』


「それでは最後に一つだけ」


『何でしょうか』


「もし————弊社に所属した場合、どのような配信者になりたいですか?」


『————分かりません』


三人の面接官が少女の回答に対して予想外だと言わんばかりの表情を浮かべる。


『まだ分からないのです。

ですので知りたいと思っています。

そのために今回応募いたしました』


面接官Aが首を傾げる。


「一体何を知りたいのでしょうか」


少女はにこりと笑って答えた。


『VTuberというものを』




『もっと理解したいと思っています』


面接官たちは顔を見合わせる。

変わった子だ。

だが不思議と目が離せないのは間違いない。




「————分かりました。

それでは本日の面接は以上となります」


『ありがとうございました』


深々と頭を下げる。

相も変わらず完璧な礼だった。

その姿は通話が終了するまで微動だにしなかった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






オンライン面接が終わり完全に接続が切れた自室。


「……??」


『俺』は首を傾げる。

あれで良かったのだろうか?

それが正直な感想だった。


もっと見応えのある【真似】も用意していたのだが……。

具体的にいえば所属タレント全員を順番に【真似】しそれぞれの会話を再現するようなものを。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






本日最後のオンライン面接が終わり数秒の沈黙。

最初に口を開いたのはCだった。


「……なんですかあの子」


「……分からん

————分からんが」


Aが疲れたように眉間を押さえる。


「間違いなく今期で彼女以外にインパクトを感じる人間は現れんだろうよ」


Bが苦笑する。


「問題はそこじゃないでしょう?

————採るんですか?」


————再び沈黙が落ちた。





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