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完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


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2/4

【VTuber】

()()()()()()()()V()T()u()b()e()r()()()()()()




————初めての出会いはなんてことはない。




これといった特定の部活動に所属しているわけではなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『僕』はいつも通りそれを終え学友とちょっとした会話をこなして帰宅する。


宿題を終え、食事を終え、入浴を終える。

家族とのコミュニケーションは忘れずに。

そして一人の時間が訪れる。


やりたいことなんてものは相も変わらず『僕』には無く、ただ知るためにインターネットというモノを活用していた。


————『俺』の【真似】は知らなければ出来ない。

そのほとんどが一度見れば充分ではあるものの、見てもいない知りもしないものは【真似】する以前の問題だ。




インターネットの海を漂っていれば見覚えのない単語が目に入った。


「————VTuber……??」


様々な動画配信アプリにおいてアバターを用いて活動する配信者たちの総称。

個人で活動する者、企業に所属する者。

歌を歌う者、ゲームをする者、雑談をする者。

特異的な者も居るようだがそのほとんどが大枠は逸することのない活動形態。


「アバター……」


さらに調べる。

わかりやすかったのは企業所属のVTuberのサイト。

プロフィール————つまりは設定が記されていた。

世界観やキャラクター性。

好きな物や得意なことなどが大まかながら書かれている。


人間、動物、天使、悪魔、エルフ、吸血鬼、果てはAIや擬人化を用いた生命を持たぬモノ。

————与えられたキャラクターとして活動するらしい。


『僕』は理解した。

————【VTuber】はこんな『私』と同類だ。


求められる人物像を【真似】して元からそういうものであったと違和感を感じさせぬように【演じる】。


それは『私』がずっと続けてきたことだった。


優れた生徒————生徒会長を【真似】すればいい。

理想的な友人————人気者を【真似】すればいい。

優秀な社会人————成功者を【真似】すればいい。


たったそれだけの事で。

ただ舞台が現実か画面の向こうかの違いでしかない。






————では見てみよう。

『俺』の同類たちがどのように【演じ】ているのかを。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






最初に選んだのは個人勢の配信だった。

理由は単純で企業に所属していない分より純粋なVTuberというモノの姿を観察できると思ったからだ。

【ライブ中】という現在進行形で配信をしていることを表すタグが記された一人のVTuberを選択する。


画面の中では猫耳の少女がゲームをしていた。

プロフィールを確認する。


猫の国からやってきた箱入りお姫様。

好きなものは魚介類。

苦手なものはアルコール。

特技は身軽な身のこなし。


なるほど、何とも猫という生物らしいプロフィールだ。

『僕』は納得しながら配信へと視線を戻す。




『————いやぁ、昨日コンビニ行ったらさぁ』


「……?」


『俺』は今一度プロフィールを見直した。

————猫の国のからやってきた箱入りお姫様。

そのプロフィールの一文とコンビニという言葉が一致しない。

しばらく見ているとさらに違和感が増えた。


『朝起きるのマジで苦手なんだよね……。

学生の頃からずっとそう』


————学生。

お姫様と言うのであれば教育係の指導を受けている時からと言うのが無難なのではないだろうか?

さらに言うのなら、言葉遣いがお姫様のそれではありえない。

正しく【演じ】られているようには思えなかった。


しかし————

————コメント欄は変わることはなく。

誰もそれについて指摘しない。


《わかる》


《また寝坊してて草》


《安定のクオリティ!》


誰から見ても綻びのある内容。

しかしコメント欄に居る者たちはむしろ喜んでいるように見えた。


————違和感を抱かないのか。




『俺』は数日かけて別の配信者たちも観察した。


観察できる対象はそれこそ数多いた。

登録者の大小、性別の差異、何をモチーフとしているか。




されど——————どれも同じだった。


プロフィールを開けばキャラクターは存在する。

そして確かに【演じ】てもいる。


————だが。

その誰もが徹底してはいない。

プロフィール通りの存在を【演じ】切っているわけではなかった。




「……個人勢だから……?」


それまでの結果にそう結論付けた。

個人勢だからなのか設定に対する作り込みが甘い。

ふとした瞬間に違和感が顔を出している。

そういえば『私』も両親に違和感を抱かれたことがあった。

【真似】をし、【演じる】とはそういうものなのかもしれない。


————やはり彼らもまた『私』の同類なのだろう。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






————『俺』は次に企業勢へと観察対象を移した。


こちらは情報量が違った。


広大な世界観。

魅力を伝える紹介動画

読み込みがいのある設定資料。

その者を丸裸にでもするつもりのプロフィール。


そのどれもが詳細に作り込まれている。

————なるほど。

個人勢との差はここか。

これほどまでに土台が作り込まれていれば違和感なく【演じ】続けることもできるのだろう。




——————だが、結果は変わらなかった。


三百年以上の永きを森で生きるエルフは近所のコンビニで購入した新作アイスの話を熱弁し、


同種が誰しも頭を垂れる高貴な吸血鬼は昼に食べた牛丼に紅生姜をどの程度までなら入れていいのか苦悩し、


人々を正しき道へと導く慈愛の天使は対戦型ゲームで絶叫し、


魔界を統べる最強の悪魔は実家に出たという小さな虫を怖がった。




『僕』は首を傾げた。

————おかしい。


設定へと目を移し、そして配信を確認する。

何度見比べても、誰を見ても結果は変わらない。


彼らは確かに【演じ】ている。

それと同時に【演じ】ていなかった。


————誰もが設定から外れている。

それなのに。

『僕』が感じる違和感は破綻の香りがしなかった。


————少なくとも。

両親が『私』に感じていたであろう違和感とは別物だろう。




ならばこの違和感を最も理解しているのは誰だろうか。


————答えは簡単だった。


違和感の発生源を見るのではない。

それを観測している者たちを見るべきなのだ。


彼らは日々その配信を見続けている。

設定も言動もその変化も。

最近存在を知った『僕』より遥かに長い時間をかけて観察している。


————答えはコメント欄に自ずと現れるだろう。


『僕』は視線を画面の端へと移した。


《森を抜け出しすぎてそろそろ怒られそう》


《森のエルフとは》


《これはコンビニのエルフ》


《それでこそ〇〇!》


「……?」


『俺』は目を細めた。

もう一度読む。


《それでこそ〇〇》


————意味が分からない。

設定から外れているのであれば本来はエルフらしくない、設定を守れ、世界観が壊れているそんなコメントがあってしかるべきだろう。

だがそんな空気は一切なく、誰も咎めていない。

それどころかこの違和感を歓迎していた。


《こういう所がクセになるんだよなぁ》


《安心と信頼のヤツ!》


《今日もいつも通りで良かった良かった》


好意的なコメントが流れてゆく。

『俺』は首を傾げる。

それは————そう思うのは何故だ?


もっと観察しなければいけない。




『僕』はマウスを動かす。

そして何人も見ていく。




《まーた牛丼食ってる》


《牛丼って高貴な食べ物だったんだ……!!》


《それでこそ◎◎》




————カチッ。




《これは音響兵器》


《何処に導かれるのやら……》


《こういうのが✕✕よ!》




————カチッ。




《虫という矮小かつ最強越えの種族》


《なお数も膨大なもよう》


《そういう△△が好きなのよ》




————共通していた。

誰も彼らを設定上のキャラクターとして見ていない。


()()()()()()()()()()()()()


何を見ているのかは————


————『俺』には分からなかった。


視聴者が見ているモノも。

好ましく思う理由も。

「その人らしい」と呼ぶ根拠も。


『俺』には何一つとして説明できない


————()()

その何かが欠けてはいけないものなのだという確信があった。




恐らくそれが【自分】というものなのではないかという予感がする。


————()()()()()()()()()()()


VTuberたちは————【自分】を持っているのではないだろうか?


学校で出会った友人たちと同じように。

前世で出会った同僚たちと同じように。


————『俺』が持っていないものを。

『私』と同類だと思っていた彼らが。




————何故だろう。

VTuberだからだろうか。

それとも別の理由があるのだろうか。


————知らない。

実は彼らが元から持っていたのか。

それともVTuberという在り方の中で見つけたのか。


————確かめてみよう。


今までそうしてきた。

存在を知り、観察し、そして【真似】した。

そうすればその存在を再現することができた。


————なら今回も同じだ。

『私』と同類だと思っていた彼らを。

【自分】を持っているように見えるVTuberたちを【真似】すれば。

彼らが持ち『俺』が持たない【自分】を見つけられるかもしれない。


そしてそれが『俺』の根源的問いへの回答となり得るかもしれない。




————だからVTuberになってみよう。

【自分】を知るために————。







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