【皇 レン】②
「————これで終いだな」
モニターに表示されるゲーム画面には【皇 レン】の完全勝利を告げる『PERFECT』の文字が大きく映し出されていた。
《うおぉぉぉぉっ!!!》
《王強ぇぇぇ!!》
《今日も容赦なし!》
《初心者相手のお手本になってる……?》
《相手が敗ける手本としては美しいのでは?》
【皇 レン】は大きくリアクションを取ることもなくコントローラーのレバーから手を離す。
「まぁこんなもんだ」
その口ぶりには勝った喜びではなくできて当然という響きしかない。
「んじゃ次————」
そう言って『私』の方を向いてニヤリと笑う。
「————お前の番だな」
「はい」
『私』は渡されていたコントローラーに触れる。
先程までは【皇 レン】を見ていたためしっかりと触るのは初めてだ。
ボタンの配置と押し込み具合。
レバーの位置と可動域。
ひと通り確認して浅く頷く。
————問題なく【真似】できる。
《ミラちゃん頑張れ!》
《初プレイ楽しみ!》
《初めてで相手の体力半分も削れたら十分だからね!!》
《リスナーならワンチャン接待してくれるかもだけど……》
《ランダムマッチでリスナーマッチングは無理ゲー……》
《そもそもしたとして誰も手加減してくれなさそう》
《……まずは操作確認だ!》
先程【皇 レン】がやっていた通りにゲーム画面を進めていく。
「そうそうそれ選んで」
「ありがとうございます」
【皇 レン】の促しで操作が間違っていないことを再度確認する。
そして【対戦相手を探しています……】という文言が表示されて瞬き程度の時間。
モニターに『私』の対戦相手が表示される。
『私』はキャラクター選択画面にて迷うことなくカーソルを動かす。
「そのキャラでいいのか?」
「分かりやすいので」
選んだのは————先程【皇 レン】が使用していたキャラクター。
《お?》
《同じキャラ?》
《初心者なら別キャラでも……》
《そのキャラはレン様が使ってるから簡単そうに見えるだけで結構テクいやつ……》
《初めてだし楽しむべーし!》
コメント欄を横目で見ながらそれとなくキャラクター変更を促されるが『私』は変える気は全くなくそのまま対戦開始へと進む。
【————Lady……FIGHT!!!】
開始を告げる電子音が鳴る。
モニターにはバックステップで相手から遠ざかっていく『私』のキャラが表示される。
————最初に距離を取る。
先程【皇 レン】も同じ動きをしていた。
《ミラちゃん下がりすぎたら端っこになるからヤバい!!!》
《初心者には流石にこの手の格ゲーは怖いか……?!》
《とりあえずボタン押してみよ!!》
《相手冷静に近づいてきてるぅ……!》
『私』の操作にコメント欄が阿鼻叫喚の様相となりつつあった。
そして『私』のキャラがバックステップで進まなくなる。
《そこ端っこぉぉぉお!!!》
《と、とりあえず攻撃攻撃!!》
《ワンチャン何とかなれ……っ!!!》
近づいて来た対戦相手のキャラが飛び込んでくる。
その軌道。
放たれる技の有効範囲。
こちらに届くタイミング。
————何の問題もなかった。
「こうですね」
『私』のキャラが対戦相手の攻撃を受け流して反対に攻撃をするという現象が起きる。
《ェ?!ジャストパリィナンデ?!》
《初心者っ?!》
《ぐ、偶然……??》
硬直する対戦相手の背後へと回り込み立ち位置を入れ替える。
迷いなく。
一切の淀みなく。
————先程【皇 レン】が見せたコンボへと繋げる。
《うまっ!?!?》
《これ特殊コンボルート?!》
《初心者ができる動きじゃないだろ!?》
《あれ?でもこれって……》
『私』が行うプレイに驚いていたからか何かに気がつく人が少しずつコメント欄に現れ始める。
そうこうしているうちも始まったコンボが途切れることはない。
《このキャラの特殊コンボルートって……》
《確キルか自爆かのデッドアライブでーす……》
《王の配信で見すぎて忘れてたけど成功率くっそ低いやつ》
《生放送で成功してる人なんてレン様くらいしか……》
《……あれ?》
《レン様くらいしか……?》
《ちょ、ちょっと待てよ……??》
対戦相手の体力が三割を切り終盤へと差し掛かる。
《これってやっぱり……?》
《なんか見覚えがあると思ったら……??》
《王のプレイと同じじゃね……???》
同じ距離。
同じタイミング。
同じ選択。
同じコンボ。
そして————『PERFECT』の文字。
「ふぅ……お疲れ様でした」
配信部屋、コメント欄に静寂が訪れる。
ゆっくりたっぷり三秒間。
その後にコメント欄が爆発した。
《????????》
《待って待って待って!》
《まんまだったよな!?》
《同じだったぞ!?》
《レン様の試合そのままじゃね!?》
《鳥肌立った……》
《もはやニワトリになった……》
《まーたおかしなこと起きてますやんさ……》
《完全再現……?》
《え、何これ夢?》
同じような内容がコメント欄を凄いスピードで流れていく。
隣では【皇 レン】が無言でただ、ゲーム画面だけを見つめている。
ゆっくりと身体ごと『私』の方を向きその目だけが、わずかに細められていた。
「…………」
小さく息を吐き口角がゆっくりと吊り上がる。
モニターの光に照らされた【皇 レン】の瞳が、今まで見たことがないほど楽しそうに細められた。
「お前————」
少女らしい幼い顔立ち。
その頬だけがほんのりと赤く染まっている。
「おもっしれぇなぁ……♡」
三日月のように歪められた口が【皇 レン】の興奮度合いを表していた。
【皇 レン】は肩を震わせ確かに笑っている。
それは今まで配信で見せてきた余裕の笑みではない。
堪え切れないものが込み上げてきたような笑いだった。
「皇さん?」
『私』が声を掛けるとゲーミングチェアから身を乗り出してこちらまで来てしまいそうな程に前のめりになる。
「なぁミラ」
「はい」
「————もう一回やれ」
《!?!?!?》
《きた!!》
《追試だぁぁぁ!!》
《もう一回見せろ!!!》
《偶然か確認する気だ!》
「同じキャラじゃつまらん」
【皇 レン】はキャラクター選択画面を開き迷いなくカーソルを滑らせる。
「これ使え」
「このキャラクターですか?」
「そうだ」
「分かりました」
指定されたのは先程まで使っていた魅せプレイ用のキャラクターではなく、日頃から【皇 レン】が愛用しているキャラクター。
「あと一つ」
【皇 レン】は楽しそうに笑った。
「…………?」
「もっとあたしの真似見せてくれよ」
コントローラーのレバーを弄びながら言う。
「お前ならできるんだろ?
あたしの配信見てるって言ってたよな?
全部見せてくれよ」
求めている。
【皇 レン】は『私』がその全てを【真似】出来るのかを知りたがっていた。
『私』は頷いてゲーム画面でそのキャラクターを選択する。
「面白くなってきやがったなぁ……!」
————その姿は、その笑みは、飢えに飢えた中で獲物を見つけた猛獣のようだった。




