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完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


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19/20

【初対面】

予約投稿ミスりましてん……

————【神楽 琴音】とのコラボの()()


平日のため学校に来ていた『僕』の耳に放課後を告げるチャイムが響く。

教室のあちこちで帰宅の準備が始まっており、部活動へ向かう生徒、友人と遊びに行く約束をする生徒、一目散に帰宅する生徒など思い思いに過ごす生徒たちが見受けられる。


そんな中『僕』は鞄を肩へ掛け、教室を出ていく。

今まで通りであれば部活に参加させてもらうところだが、最近は部活動へ顔を出すことも少なくなった。

————理由は配信活動。

今日も放課後には【皇 レン】とのコラボ配信の予定が入っている。



校舎を出て空を見あげれば夕焼けへと染まり始めた空が広がっている。

約束の時間までしばらくあるものの【皇 レン】の家まで行く時間や準備もあるためモタモタしない方がいいだろう。


まず向かうは最寄りの駅。

【皇 レン】から送られてきた住所は『僕』の普段の行動範囲から離れてはいるものの電車一本で向かうことができるためありがたい。


————電車に揺られて十数分。

都心部から少し離れた閑静な住宅街がある事で知られる駅で降車すると、スマートフォンに表示された地図を頼りに歩き始める。


「あっちの方か……」


駅近くには高層マンションが並び、離れていけば立派な戸建てが増えていく。

夕方ということもあって買い物帰りの家族連れや帰宅途中であろう会社員たちとすれ違いながら歩を進めていく。




————しばらく歩くと目的地が視界へ入る。


「……ここですね」


『僕』が足を止めたのは四階建ての低層マンション。

白を基調とした重厚感のある外壁。

植え込みまで丁寧に手入れされ、エントランスのガラスも曇りひとつない。

オートロックの先には広々としたロビーが見え高級感のある造りだというのが一目でわかった。


一応何号室だったかを確認してオートロックの機械に数字を入力する。


『————上がりな』


聞き覚えのある声で一言。

その後にエントランスのオートロックが静かに解除される電子音が鳴った。


「……お邪魔します」


小さく呟きながら、自動ドアの向こうへと足を踏み入れるのであった。


エレベーターで目的の階層まで上がり、そこまで多くない部屋数のお陰で【皇 レン】の部屋を見つけるのに苦労はしなかった。


表札は出ていないものの号室の番号が合っているためインターホンを押す。

数秒の間を置いて電子音と共に鍵が解錠される音が聞こえた。

————扉がほんの少しだけ開く。


「入れ」


一言淡々と伝えられる。

けれど扉はそのまま閉まることも開くこともなく、どうやら自分で開けて中へ入れという意味らしい。


「失礼します」


扉を開け静かに室内へ足を踏み入れる。

玄関の扉を閉めれば自動で施錠された。

セキュリティがしっかりしているなと感心し【皇 レン】の方へ顔を向け————


「…………」


————思わず動きが止まる。

目の前に立っていたのは————()()()()()だった。


大きめの黒いパーカーが小さな身体を包み込んでいる。

華奢な手足と幼さを残した顔立ち。

その姿は高校生どころか、中学生と言われても違和感がない。

いや、下手をすれば————小学生だと言われても信じてしまうかもしれない。

配信画面越しでは分からなかった。

振る舞い方、言葉回し、声量。

それら全てが【皇レン】という人物を大きく見せていたのだ。




「————皇さんお邪魔します」


『私』はいつも通りに挨拶をする。

少女は若干驚いたような表情を浮かべて頷く。


「……よく来たな」


その口調だけは間違いなく配信で聞いていた【皇レン】そのものだった。


「驚いたか?」


「……少し」


「正直でいい。

まぁ、あたしに本人かどうか聞いてこなかったのはお前が初めてだよ」


「そうなんですか?

声でわかると思いますけど……」


「……あぁ、お前特殊だったな……。

マネージャーも初めて会った時固まってたんだよ……」


レンは肩を竦める。


「まぁそう思われるような振る舞いをしてる自覚はあるよ」


【皇 レン】が言う通り配信やチャットでも堂々と胸を張り、自信に満ちた立ち振る舞いをしている。

そこから【皇 レン】の実際の姿が幼い少女だと想像するのは難しいだろう。


————そこでようやく、【皇レン】を【真似】するときに感じていた違和感の理由が分かった。


「雰囲気の作り方が上手いんですね」


「……ん?」


「誰もわかってないと思います」


レンは一瞬だけ目を丸くすると、ふっと口元を緩めた。


「最初に言うことそれなんだ」


「違いましたか?」


「いや?合ってるな」


どこか満足そうに頷く。


「あたしは————舐められたくないからな」


短い一言だった。

その言葉だけで十分だった。

この堂々とした配信スタイルは、生まれつきではなく意識して作り上げたものなのだと理解できた。


「まぁ立ち話も何だ」


【皇 レン】はくるりと踵を返す。


「こっち」


『私』もその後へ続いた。

廊下を歩きながら部屋の中へ目を向ける。

家具は最低限で装飾品らしい物もほとんど見当たらない。

生活感が驚くほど薄い。


————その代わり。

【皇 レン】の後ろをついて行った部屋だけは異質だった。


複数のモニターが組み合わされたデスクが三箇所。

最新型と思われるパソコンや整然と並ぶゲーム機。

壁際には数え切れないほどのゲームソフトが並べられた棚やキーボード、コントローラーたち。

明らかに熱量が違う。


「……配信部屋ですか?」


「生活部屋兼ゲーム部屋」


「なるほど」


「ゲーム以外に興味ないから」


【皇 レン】はあっさりと言い切りゲーミングチェアにぴょんと飛び乗る。


「必要最低限あれば十分」


その一言だけで、この部屋の理由が理解できた。


「配信もここで?」


「いや?そういうのはもう一個向かいの部屋に作ってる」


「……なるほど」


ここまで揃えられているのにこの部屋は配信用のものでは無いらしい。

確かに【皇 レン】は生活部屋兼ゲーム部屋と言ったが分けているのはこだわりがあるのだろう。


「気になるなら見ていいぞ」


ゲーミングチェアから動く気はないらしく顎で向かいの部屋を指す。

『私』はその言葉通りに向かいの部屋の扉を開ける。



そこには【皇 レン】が今居る部屋以上に————本格的な配信設備が整えられていた。

両親が『私』に揃えてくれた機材を見たからこそわかるこの部屋のこだわり。


吸音材が隙間なく貼られた壁や数人並んでも十分な広さのデスク。

高性能なマイクやモニターに取り付けられたカメラ。

目の疲労を考えて設置されたであろう照明。

防犯カメラの管理室のようにも思える複数のモニター。


ゲームをただプレイするためだけではない。

勝つために。

魅せるために。

【皇 レン】が積み重ねてきた時間がその部屋には詰まっていた。


「……すごいですね」


「まぁ、そこだけはこだわってる」


ゆっくりと扉を閉めて『私』は【皇 レン】の居る部屋へと戻ると【皇 レン】は空いているゲーミングチェアを指さして座るのを促す。


「そういえばちゃんと自己紹介してなかったな」


「そうですね」


『私』は軽く頭を下げた。


「【空音 ミラ】です」


「……【皇 レン】。

こっちでいいんだな……」


「あぁ、本名の方が良かったですかね?

改めまして————【早川 優梨】です」


【皇 レン】のぽつりとこぼした言葉に反応して『私』が改めて名乗れば、それを聞いてやってしまったという表情を浮かべる。


「ぐぅ……————だ……」


【皇 レン】にしては珍しい消え入りそうな声。


「すみません聞こえなかったです」


「…………」


「皇さん?」


「…………」


「聞こえませんでした」


『私』が聞き返せば心底嫌そうな表情を浮かべる。

少しの間葛藤するような様子を見せたかと思えばため息を吐いて改めて【皇 レン】は名乗った。






「————【白雪(しらゆき) (あい)】……」


耳が赤くなっているのを見るに恥ずかしがっているようだ。

『私』が口を開こうとすると【皇 レン】は手を突き出してきて静止する。


「待て何も言うないいか?あたしは【皇 レン】だ【皇】でも【レン】でも好きに呼んで良いから本名は呼ぶな?わかったか?フリじゃないぞ?」


一息の間にそう言った【皇 レン】は肩で息をして『私』を見つめていた。


「わかりました皇さん」


「よし。お前は良い奴だ」


ほっとした様子でゲーミングチェアに身体を預ける【皇 レン】。

その様子は配信で『全員、覚悟はいいか?』と堂々と言い放つ【皇 レン】とは似ても似つかない。

————けれど。

そのギャップこそが、彼女という人間なのだろう。











「————あと」


「はい」


「あたしの見た目の事だけど……」


「可愛いですね」


「くっ……!あ、あんまり可愛いとか言うな……!」


「……?わかりました……?」


「……お前……やっぱり変なやつ……」


「そうですか?」


「普通はここぞとばかりに弄ってくるんだよ……」


「弄った方が良ければ……」


「いらん。やめろ」





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