【神楽 琴音】②
【神楽 琴音】とのコラボ配信は賑やかなまま進んでいく。
ありがたいことにどれだけ答えても答えきれないほどの量の質問が届いているおかげで話題に困ることはない。
一つ質問に答えればコメント欄が盛り上がり、その流れのまま次の質問へ。
【神楽 琴音】が笑えばコメント欄も笑い、『私』が何気なく答えればまた新しい話題が生まれる。
気付けば配信開始から一時間近くが経っていた。
「————いや〜ホンマに楽しいなぁ!」
『私』の倍以上は喋り続け、配信開始の際から変わらない大きなリアクションを維持しているにも関わらず疲れた様子が微塵も見えない【神楽 琴音】。
「とはいえもういい時間やしなぁ……。
————そろそろ最後の質問にしよか!」
【神楽 琴音】はモニターに向かって両手を合わせる。
「ホンマに皆ごめんな?
最後は【質問箱】からやないんよ」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら言った後に『私』を見てくる。
なんだろうかと首を傾げると【神楽 琴音】は笑う。
「最後はミラちゃんからの質問にみんなで答えんで!」
「……『私』からの質問ですか……?」
「せやせや!
今日の質問結局全部ウチが選んでもうたからなぁ……。
これはトリの質問はミラちゃんにしてもらわなアカンやろ!」
《確かに!》
《ミラちゃん答えてたけど選んでないじゃん!》
《どんな質問が来るか楽しみ!》
《賛成!!》
「…………」
————『私』が聞きたいことと問われる。
そう言われれば普段の『私』なら【質問箱】の中から適当に一つ選び、それを自分の質問として口にしていただろう。
今回に限っては一つだけ思い当たるものがあった。
神代さんから出された宿題。
————同期がどうして私に興味を持ったのか。
それを、まだ聞けていない。
「……じゃぁ一つだけ」
「おっ、何や何や?」
「神楽さんは————どうして『私』に興味を持ったんですか?」
《おぉ……独特……》
《第一印象的な?》
《それは確かに気になる》
《これは聞きたい》
《同期目線ありがたい》
「…………」
質問を受けた【神楽 琴音】は珍しくすぐには答えなかった。
「……いやぁ……改めて聞かれると難しいなぁ」
頭を掻きながら困ったように笑う。
《言い淀むの珍しっ!》
《確かに》
《言葉にするの難しいからでしょ!》
コメント欄では『私』の質問に対してというよりあまり見かけない【神楽 琴音】の様子に驚く声が多く見えた。
「————最初はな?」
【神楽 琴音】は少し照れくさそうに笑う。
「ぶっちゃけ変な子やと思っとった」
《草》
《正直》
《言うと思ったw》
「あんなこと起きたらそりゃそう思うやろ?!
いきなりドッペルゲンガー現れんねんで?!普通ちゃうもん!」
コメント欄にもそれはそうと言わんばかりの反応が流れていく。
「せやから最初はな?
おもろそうな子やなぁって思って興味持ったんよ。
……まぁでも————」
『私』は黙ってその続きを待つ。
【神楽 琴音】は少しだけ視線を上へ向ける。
「配信見てみて……直接会ってみて。
一緒に話して、遊んで、コラボ配信して————」
一つ一つ思い返すように言葉を並べていく。
【神楽 琴音】の頭の中ではその記憶が広げられているのだろう。
「気付いたら普通にもっと話したいって思っとった」
その言葉と共に、今度はまっすぐ『私』の目を見る。
「理由なんて後から考えたら色々あるんやろうけど、ウチは難しいこと考えるタイプちゃうしなぁ」
照れ隠しをするように笑ってから続けた。
「今やったら理由は一個や。
ミラちゃんとおったら楽しそうやった、それだけや」
その一言は、とても真っ直ぐだった。
《おぉ……》
《なんかいい話》
《神楽ちゃんらしい》
《これが同期なんだよなぁ》
《てぇてぇ》
「なるほど……?」
思わずそう呟き言葉を噛み砕く。
『私』が一緒に居ると楽しそう……?
よく分からない内容が反響する。
「あ!絶対分かってへんやろ!」
【神楽 琴音】は勢いよくツッコミを入れた。
《草》
《バレたw》
《ミラちゃん理解してないw》
《このやり取り好き》
「……はい。正直まだよく分かっていません」
むしろこの先理解できるかも定かではない。
「正直でよろしい!」
【神楽 琴音】は声を上げて笑う。
「でもな?」
笑顔のまま、人差し指をこちらへ向けた。
「分からんかったらそのままでもえぇねん」
「……そのまま、ですか?」
「せや。
ウチはミラちゃんが無理して変わる必要なんて無い思っとる。
今までみたいに、人のことちゃんと見て、ちゃんと話聞いて。
そのまま毎日笑っとったら————それで十分やろ!」
「…………」
返す言葉は見つからなかった。
けれど、その言葉は胸のどこかへ静かに残っていく。
《いい同期だなぁ》
《泣ける》
《神楽ちゃん優しい》
《これからも仲良くしてほしい》
《尊い……》
「ほらほら散った散った!
見せもんちゃう……こともないなぁ」
少しだけ照れたように頭を掻いた【神楽 琴音】は、いつもの明るい笑顔に戻る。
「とりあえず!今日の締めはこんな感じでえぇかな!」
「はい、十分だと思いますよ?」
「ほな……今日は来てくれてほんまありがとう!」
「皆さん、今日はどうもありがとうございました」
互いに今日来てくれた視聴者にお礼の言葉を残す。
そして始まりがあれば終わりがあるように。
『私』たちは挨拶の言葉をくちにする。
「————また次の配信で会おなー!」
「————また空を見上げた時にお会いしましょう。」
二人で手を振ると、最後まで《お疲れ様!》《またね!》というコメントで埋め尽くされていた画面はゆっくりと終了画面へ切り替わった。
————配信ソフトを終了させた瞬間。
さっきまで賑やかだったスタジオに静けさが戻る。
「んん〜〜〜〜っっ!!」
大きく背伸びをした【神楽 琴音】は、そのまま椅子へ体重を預けた。
「終わってもうたぁぁ〜!」
「お疲れ様でした」
「ミラちゃんもお疲れさん!」
【神楽 琴音】は満足そうに笑った。
「いやぁ〜、ホンマ楽しかったわ!」
「『私』もです」
そう答えると【神楽 琴音】は嬉しそうに何度も頷く。
「やろぉ?
なんやろなぁ……初コラボやのに初めてって感じ全然せぇへんかった!」
「そうでしょうか?」
「そうやって!
もっと緊張すると思っとったもん!」
「神楽さんがたくさん話を振ってくださったおかげですよ」
「いやいや、ウチはいつも通りやったで??」
まさに気楽に配信をしたのだと言いたげな表情に笑みを浮かべる。
————その時スタジオの扉が軽くノックされた。
「————失礼します」
静かに扉を開けて入ってきたのは神代さんだった。
「お二人とも配信お疲れ様です」
「神代さんやん!
このタイミングってことは配信見てくれとったん?」
「もちろんです!
とても良い配信でした」
神代さんは柔らかく微笑み労いの言葉をかける。
「そういえば神楽さんには伝えてなかったんですが最後の質問。
————あれが私がお願いしていた宿題です」
「……へ?」
間の抜けた声を出したのは【神楽 琴音】だった。
「え、あれ宿題やったん?!」
『私』の方を向いて目を見開いている【神楽 琴音】。
恐らく確認しているのだと思いこくりと首を縦に振る。
「うわぁ〜〜!」
頭を抱えながらその場でしゃがみ込む。
「先に言うてぇやぁ!
宿題って分かっとったらもっとこう……!
ちゃんと話まとめて答えたのに!」
悔しそうな表情を浮かべる【神楽 琴音】の姿を見て『私』は首を横に振った。
「いえ」
「うん??」
「十分だったと思います」
「……へ?」
「神楽さんらしい答えだったと思います。
その時に思ったことを、そのまま話してくださったのが伝わりました」
それは取り繕った言葉ではなく、本当にそう思ったことだった。
「…………」
「だから十分だったと思います」
微笑みを向けて言えば数秒の沈黙。
————そして次の瞬間。
「や、やめぇぇぇぇ!!」
【神楽 琴音】は耳まで真っ赤に染めながら頭を抱える。
「またサラッとそういうこと言うぅぅ!!」
「思ったことを言っただけなんですけど……?」
「それが照れるんやってぇ!」
その様子を見ていた神代さんが小さく笑った。
「ふふっ……!」
「神代さんまで笑わんといて!
というか神代さんならミラちゃんのこういう所わかるやろ!?」
「そうですねぇ……」
「ほらぁ!!!」
【神楽 琴音】は勢いよく神代さんを指差した。
「やっぱそうやんな?!」
「はい、間違いなく」
神代さんは迷いなく答える。
「本人は思ったことをそのまま口にしているだけなところがですね……」
「せやろ?
うんうん……神代さんも苦労しとるみたいやなぁ」
「なるほど……褒められていないことは分かりました」
「ちゃうちゃうちゃう!!
そこがええところや言うてんねん!」
そんなやり取りをしながら声を上げて笑う【神楽 琴音】につられ神代さんもそして『私』も小さく笑った。
ひとしきり笑った後【神楽 琴音】は荷物を肩へ掛ける。
「ほなウチ今日は帰るな!」
そう言って扉まで歩くと、ふと思い出したように振り返った。
「ミラちゃん!」
「はい?」
「また遊ぼな!」
迷いのない笑顔だった。
『私』も自然と頷く。
「はい。
またお茶、シバキに行きましょう」
「お!えぇやんえぇやん!約束やで?!」
大きく手を振ると【神楽 琴音】はそのまま廊下の向こうへと走って行った。
静かになったスタジオで、神代さんはその背中を見送りながら口を開く。
「……さて。
次は皇さんとのコラボですね」
「ゲームでしたよね?」
「はい。
今日とはまた違った【空音 ミラ】が見られそうで、今から楽しみにしています」
笑いながら言う神代さんの言葉に首を傾げる。
————違った【空音 ミラ】。
それが何を指すのかはわからない————が。
違いならいつでも見えているではないか。
そう思いながら、『私』は小さく頷くのであった。




