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完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


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16/17

【お茶】

「————ほなまずはご飯でも行かへん?」


意気揚々とカレイド・スフィア本社を出た後に【神楽 琴音】がそう言う。

言わずもがな手は繋がれたままである。

時折ぎゅむぎゃむと『私』の手を握っているのは何か意味でもあるのだろうか?


「『私』もまだ食べてないからちょうどいいと思います」


「ほなウチ食べたいものあんねんけどそれでもえぇ??」


「『私』は何でも食べれるので大丈夫ですよ」


「よっしゃ!」


子供のように嬉しそうな声を上げた【神楽 琴音】は、迷いなく駅前の方へと歩き出す。


「この近くに美味しいオムライスのお店があんねん!」


「オムライスですか?」


「せや!

ウチもSNSで見かけてずっと気になっとってん!

卵がふわっふわでな?ソースもトロッとしててな?

そんなん見てるだけでも美味しいのわかるやん??

おっと……ヨダレが……」


話しながら身振り手振りまで大きくなる。

終いにはヨダレを拭くような仕草までしてそのオムライスがどれほど美味しそうだったのかを全力で伝えようとしていた。


「オムライスがお好きなんですか?」


「好き好き!もちろん何でも食べるけどな!」


ご機嫌な様子で笑いながら言う。


「ご飯を食べるのが好きなんですね」


「せやなぁ……やっぱり美味しいもん食べたら誰でもハッピーやん?」


「せっかく食べるなら美味しいものの方がいいですよね」


「せやろせやろ??

まぁウチらみたいなお年頃の女の子は太らんか心配やねんけどな!」


【神楽 琴音】は腹部をぽん、と軽く叩いてケラケラと笑う。

見た目からして特に太っている様子はない。

『俺』は太るかもしれないなんて考えたこともなかったため新鮮な考えかもしれない。


「なんやなんや?反応薄いんちゃう?

そういうこと悩むお年頃ちゃうん?」


「いえ……『私』太らない体質みたいで考えたことがなかったですね」


『私』の言葉に突然フリーズする【神楽 琴音】。

それに揃えて『私』も立ち止まり顔を覗けば信じられないものを見たかのような視線を向けてくる。


「……女の敵……いや人類の敵やん……っ!?」


「そこまで言うほどですか?」


「そりゃそうやろ!!

食べるの好きな人間からしたらそんなの羨ましすぎる……いや、待ってな……?」


そういった【神楽 琴音】は顎に手を当てて考える素振りを見せる。


「あれやろ!雀の餌みたいな量しか食べへんねやろ??」


「えっと……大食いなつもりは無いですけど極端に少ない量しか食べないということは無いですよ……?」


前世から考えて食べる量が減ったということはない。

家で出される食事を残したことも無いため普通程度であろう。


「……ほんま?」


「嘘なんてつかないですよ」


「うーむ……ほな、この写真見てどう思う?」


【神楽 琴音】は自分のスマホを操作して一枚の写真を見せてくる。

そこに映されていたのは山のように野菜が積まれた丼。

いわゆる【二郎ラーメン】と言われるものだろう。


「……えっと……これがどうというと?」


「これウチが食べたラーメンやねんな?

トッピングで野菜とか多くしてんねんけど……食べきれそう?」


「まぁ……これくらいなら」


前世で若手の子に連れていかれた記憶を思い出す。

その子の勧めで注文まで任せて出てきた量に驚きはしたものの食べきれない量ではなかった。

なんだったらここに茶碗いっぱいの白ご飯もあったのだからこの写真のラーメンだけなら今でも苦なく食べ切れる。


「…………」


【神楽 琴音】は無言になり写真と『私』を見比べる。

最後にもう一度写真を見ると————天を仰いだ。


「神様ぁぁぁぁぁっ!!」


「……?」


「才能の配分おかしいやろぉぉぉ!!

やっぱり人類の敵やんけぇ……っ!!!!」


嘆きの表情でそういった【神楽 琴音】は『私』の方へと振り返りやる気満々の顔でさらに口を開く。






「————決めた!」


空いている方の手で拳を握り燃え盛る炎でも背景に見えそうな雰囲気を醸し出す。


「今日はミラちゃんの胃袋調査や!!」


「……調査ですか?」


「せや!

食べても太らへん言うならホンマに少食じゃないかも確認せなあかんやろ!」


「試される側なんですね」


「もちろんや!

それにウチも付き合う!」


「ありがとうございます?」


和やかな食事の予定がいつの間にか調査の為の食事へと置き換わる。

果たしてこれは礼を言う場面なのかは分からなかった。





















【神楽 琴音】が提案していた店へはそう時間もかからずに到着した。

運がいいことに店員に席へと案内され、メニューを開いた瞬間【神楽 琴音】が固まる。


「…………」


「どうしました?」


「……これ見て」


メニューを一ページだけ捲った場所を指差す。

そこには————【チャレンジオムライス(総重量2kg)】————の文字。


「これや!

今日はこれ食べる!」


「チャレンジメニューですよ?」


「望むところや!!

すんませーん!!注文したいでーす!!!」


【神楽 琴音】は宣言通りこのチャレンジメニューを二人分注文するのであった。




「持ち帰りもできますからね……?」


「ありがとうございますっ!

でも全部食べるんで問題ないです!」


「む、無理なさらず〜……」





















『私』たちのテーブルにそれはそれは美味しそうなオムライスが運ばれてきて写真を撮り、食べ始めてから数十分後————。


「…………」


「…………」


テーブル上に乗せられたお皿は二枚ともに様子が違った。

『私』の前に置かれたお皿は綺麗さっぱりオムライスが無くなっており完食。

一方、【神楽 琴音】の前に置かれたお皿はあとほんの少しのオムライスが残されていた。


「…………」


スプーンを持ったまま頬をオムライスでパンパンにした【神楽 琴音】が静止画とみ間違えてしまうほどに止まっている。


「神楽さん?」


「……………………むり……………………」


ゆっくりと咀嚼して少し飲み込み余裕が出たのか一言そう言い残した。


「残すんですか?」


「…………乙女には、限界あんねん……」


「そういうものなんですね」


「そういうもんやぁ……」











「————ありがとうございました〜」


お会計を済ませて店員さんに見送られながら店を出る。


「うぅ……」


苦しそうにお腹を押さえて歩いている【神楽 琴音】。

今にも弾けてしまいそうな様子だ。


「美味しかったですね」


「なんでそんな普通なん……」


「普通ですか?」


「ウチもう夕飯どころか水もいらんで……」


「『私』は用意されているだろうから食べられますよ?」


「やめてぇぇぇぇ!!??」


【神楽 琴音】の絶叫が響くのであった。











————そこからは時間があっという間に過ぎた。

満腹を超えた満腹から復活した【神楽 琴音】と洋服を見て。

雑貨屋へ入りよく分からない置物で笑う。

ゲームセンターでは【神楽 琴音】がクレーンゲームに夢中になり。

『私』はその様子を隣で眺める。


「惜しいぃぃ!

あとちょっとやってんのにっ!」


「もう一回!」


一喜一憂する姿は配信で見たまま。


——————そして。

気付けば『私』も一緒になって景品を覗き込み。


「今のは右に少し寄せた方が良かったかもしれませんよ?」


「ホンマか!?アドバイス助かる!」




「————取れたぁぁぁ!!」


そんな何気ない時間を過ごすことができたのだった。


————配信時間まで一時間。


【神楽 琴音】とのお茶の時間は終わり二人並んでカレイド・スフィア本社へ戻って来ていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「良し……!」


機材の最終確認を終えた私————神代 彩は、エレベーター前で二人を待っていた。

神楽さん————【西宮(にしのみや) 美琴(みこと)】さんと早川さんなら時間より少し早く戻ってくるだろう。


————そう思っていた矢先。

軽い電子音と共にちょうど目の前のエレベーターの扉が開く。


「————ただいまー!」


担当では無いもののもう既に配信で聞き慣れた明るい声。


「ただいま戻りました」


その隣には柔らかく微笑む【空音 ミラ】が立っていた。


「お帰りなさ————」




————そこまで言いかけて。

私は思わず言葉を止めた。


「…………あ、れ……?」


一瞬だけ。

本当に一瞬だけだった。

早川さんではなく————【空音 ミラ】がそこに立っている。

そんな錯覚を覚えた。


これは感じた覚えがある。

そうだ、初めて会った時の————【星乃アーク】の真似をしてもらった時に感じたあの感覚。


————私の目の前に居る存在をその者としてしか認識できない感覚。


今日の彼女から感じる空気は、いつもの早川さんというより————【空音 ミラ】そのものだった。


(————……違いますね)


私は小さく首を振る。

彼女が【空音ミラ】なのは当たり前だ。

今ここにいるのは【早川 優梨】ではなく、VTuber【空音ミラ】として来ているのだから。


「————神代さん!」


私の思考による沈黙を破ったのは西宮さんだった。


「ミラちゃんめっちゃ面白いで!」


「そうなんですか?」


「いやもう色々と規格外や!」


「?」


隣の空音ミラは不思議そうに首を傾げるだけだった。


(……まただ……)


分かっているはずなのに。

少し気を抜けば、彼女を【早川 優梨】として認識できなくなる。

————目の前にいるのは【空音 ミラ】。

そんな錯覚を、何度も繰り返してしまう。


その何気ない仕草でさえ、その何気ない喋り方でさえ。

何故か今日は【空音 ミラ】という存在そのものに見えてしまう要因にしかならない。


私はもう一度だけ胸の奥に生まれた違和感を押し込み、小さく笑った。


「それなら安心しました。お二人とも、楽しめたようですね」


「もちろんや!」


西宮さんは満面の笑みで頷く。


「今日はめっちゃ楽しかったで!」


そう言って隣の少女を見る。


「な?」


「はい、すごく楽しかったですよね」


柔らかく微笑み返す【空音 ミラ】。


「……それでは配信まで少し時間がありますので、お二人とも控室で休憩してください」


「了解や!」


「分かりました」


二人は楽しそうに話しながら角を曲がり、その姿が見えなくなる。

その背中を見送りながら私は小さく息を吐いた。


(……今日一日であなたに何があったんですか……?)


答えは返ってこない。

ただ一つだけ確かなのは。

今日の彼女は。

昨日までよりも————【空音 ミラ】がそこに居た。




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