【予定】
同期コラボ開催への同意が思っていたよりも早く取れた後。
グループチャットは予想以上に賑わっていた。
【神楽 琴音】
〔ほんでいつやる予定なん?〕
〔ウチはいつでもえぇよ!〕
〔おしゃべりしよーや!〕
【皇 レン】
〔あたしも夜ならいつでもいい〕
〔ゲームだ。ゲームするぞ〕
【橘 リンカ】
〔私は後半にして欲しいです〕
〔企画に関してはお任せを〕
【久遠 いろは】
〔私もできれば後半に……!〕
〔心の準備をさせて下さい……!〕
〔歌とかどうです……?〕
画面には次々とメッセージが流れていく。
ありがたいことに聞こうとしていた日程調整の希望まで先んじて送られてくる。
「皆さんかなり乗り気ですね」
『それはそうですよ』
神代さんは当然だと言わんばかりに頷く。
『むしろ早川さんは皆さんが乗り気じゃないと思ってたんですか?』
「いえ……そういうわけではありませんが」
言葉を濁す。
同期コラボ自体は珍しいものではない。
先輩よりも同期の方が声を掛けやすい。
配信者同士という関係ならばなおさらだ。
だからコラボの話が盛り上がること自体は理解できる。
————理解できるのだが。
こうも『私』とのコラボに対して積極的になってくれる理由が分からない。
神代さんから聞いた同期たちが『私』に対して興味津々であるという話に関係してくるのだろうか?
神代さんが言った【宿題】————忘れずに聞くとしよう。
『————早川さん?』
「はい」
『日程に関しては私の方で調整して大丈夫ですか?』
「お願いします。
『私』は直近で予定はないので休日はいつでも大丈夫ですし平日も学校終わりの時間で大丈夫なら問題ありません」
『分かりました。では皆さんの希望をまとめてみますね』
『私』の条件を聞いた後、まるで初めからそのつもりだったと言わんばかりに神代さんが手際よくチャットを確認していく。
————数分後。
『————決まりました』
「早いですね」
『皆さん日程の都合が良かったので』
神代さんの言葉を聞きながら『僕』は改めてグループチャットを確認していく。
【神代 彩】
〔皆さんの日程希望を確認しました〕
〔最初は神楽さんで進めようと思います〕
〔問題なければ詳細を個別で調整します〕
簡潔な内容が順番に送られてきたとほぼ同時。
【神楽 琴音】
〔よっしゃああああ!!〕
【神楽 琴音】
〔ミラちゃん遊ぼうや!〕
【神楽 琴音】
〔配信前から遊ぼ!〕
待ち構えてたと言わんばかりに返答が送られてきていた。
「……元気ですね」
『神楽さんですから』
神代さんは少しだけ困ったように笑うのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【神代 彩】
〔お疲れ様です〕
〔同期コラボウィークに関してですがオフコラボをしたいという希望が複数出ています〕
〔早川さんとしてはオフコラボどうですか?〕
同期たちとのコラボの日程が決まり内容に関して神代さんに任せていたある日、そんな連絡が神代さんから届いた。
「オフコラボ……」
画面の文字を見ながら呟く。
今までは配信を見たり見られたりやコメントをしたりされたりという関わりはあった。
————だが。
実際に会うとなると話は別だろう。
とはいえ相手からそういう提案が来ていると言うのであれば答えは一つである。
【空音 ミラ】
〔問題ありません〕
『僕』は一切の迷いなくそう返信する。
知りたいと思ったのは『俺』だ。
相手から提案してきている以上会うことを避ける理由はない。
————むしろ好都合とすら言えるだろう。
神代さんから出された宿題もある。
————何故皆が『私』に興味を持つのか。
それを聞くなら直接会った方が良い。
その方が相手がどう思っているのか判断しやすいから。
【神楽 琴音】
〔ミラちゃん!〕
〔オフコラボ大丈夫やってんな?!〕
〔せっかく会うんやし配信前に一緒に遊ぼうや!〕
【空音 ミラ】
〔分かりました〕
【神楽 琴音】
〔硬い硬い!〕
〔もっと気楽でええねん!〕
〔茶でもシバキに行こや!ってくらいで!〕
〔……って言って分かる?〕
【空音 ミラ】
〔お茶を飲みに行くという意味ですよね〕
【神楽 琴音】
〔通じたわ!〕
〔って、ほらもっと気楽に気楽に!〕
【空音 ミラ】
〔善処します〕
【神楽 琴音】
〔絶対分かってへんやろ!?〕
【空音 ミラ】
〔いえ理解しています〕
【神楽 琴音】
〔してへん!!〕
〔絶対してへんやんっ!!〕
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
————神楽 琴音とのコラボ当日。
『僕』はいつも通り指定された時間より少し早く、カレイド・スフィア本社を訪れていた。
広々とした一階ロビーに設置された休憩用のソファー。
その中でも入口がよく見える場所は、いつの間にか『僕』の定位置になりつつあった。
————ここはよく人が見える。
この本社を訪れる人間は限られている。
社員、取引先の業者、そして所属ライバー。
基本的に一般の人が出入りすることはない。
であれば。
神楽 琴音を先に捕捉することは造作もない。
何せ『私』が【神楽 琴音】を【真似】すれば、待ち合わせ場所で彼女がどのように振る舞うかは予測できるから。
『私』は入口を見つめながら【真似】をする。
神楽琴音なら———
————待ち合わせ時間より早く着くように動き出すだろう。
予定よりも早く到着したとしてじっと座って待つタイプではない。
周囲を見回し、誰かを探し、気になったものがあれば近付いていく。
配信でもそうだった。
気になった話題を見つければ迷わず飛び付く。
誰かを見つければ躊躇なく話しかける。
一人だった会話を二人に。
二人だった会話を全員へ。
神楽 琴音とはそういう人間だ。
エレベーターへと迷いなく歩んでいく女性。
若干の寝不足な雰囲気と腕時計を気にしている所を見るに————マネージャーだろう。
————違う。
荷物を持った女性が入ってくる。
ラフな格好ではあるものの規格化されたであろう服装と手に握られた封筒の束————業者だろう。
————違う。
歳が近い少女が通る。
スマホを手に持ちながらも見ることなく手を腹部に添えながらしゃなりと歩く姿————ライバーだが先輩だ。
————違う。
何度かの確認を過ぎて————
————そしてまた一人少女が入ってくる。
表情は楽しげに鼻歌でも聞こえてきそうな程にご機嫌な様子だ。
「……【神楽 琴音】だ」
『私』は迷いなくその場から立ち上がりその少女に向かって駆け寄る。
————そこで思いとどまる。
危なくまたドッペルゲンガーと呼ばれるところだった。
『私』は【神楽 琴音】の【真似】を止め、【空音 ミラ】の【真似】へと切り替える。
ゆっくりと少女————【神楽 琴音】に近づいて行く。
「————【神楽】さん?」
そうであるという確信を持って少女に声をかける。
びくりと身体を震わせゆっくりと振り向く【神楽 琴音】。
「人違いとちゃいますか————」
困ったような声音で表情は笑顔で。
頭を掻きながらそう言いながら。
『私』の姿を見た【神楽 琴音】はピタリと動きを止めた。
「————み、【ミラ】ちゃんなん……??」




