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完全模倣VTuberは自分が分からない  作者: 妃羅


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12/16

【相談】

初配信から一週間。

【空音 ミラ】としての活動は()()()()()調()だった。

登録者数然り、同時接続者数然り、アーカイブの再生数然り。

全体的に緩やかな増加傾向にある。


『私』の配信の影響なのかは定かではないのだがカレイド・スフィア所属のVTuberたちの数字も増えているらしい。

神代さん曰く————『私』が【真似】したことにより本家と比較しようという人たちが一定数居るらしく、同期だけでなく先輩方の配信も予習がてら見ている層があるとの事だ。






「————それでは本日の雑談配信はここまで」


『私』がそういえばコメント欄が加速する。


《もう終わりかぁ……》


《ミラちゃんの雑談はテンポが良くてつい聞いちゃうんだよね》


《時が加速している……》


《そろそろ雑談以外も見てみたいなぁ》


《毎日配信ありがたい……》


流れてゆくコメント欄を一つ残らず追い内容を把握しながら締めの言葉へと移行する。


「————また空を見上げた時にお会いしましょう」


配信機材を操作してBGMのみ残して音声を切る。

配信画面は今まで映っていた【空音 ミラ】の姿から用意して貰った終了画面へと移り変っている。

一週間の定期配信を経て見慣れた画面。

ここから一分間ほど続くことが視聴者にも浸透してきたのか感想のようなコメントが流れている。


「……雑談以外の配信……」


終了間際にもあったコメント。

『私』は学生のため配信時間をそこまで長く取らずその分毎日配信を行うという方針になっている。

神代さんからは毎日配信も無理はせずにと言われていたのだがそこまで大変な事でもないためその方針のまま活動をしていた。

ただ、雑談配信のみで一週間程配信すると視聴者も違う味を味わいたいらしくこういった内容のコメントが増えつつあった。


————しかし。

『俺』は何をするべきなのか掴み損ねていた。

一体誰を【真似】すれば視聴者たちは違う味を味わえるのだろうか。


『俺』はモニターに流れてゆくコメントを見つめる。

————雑談以外。

視聴者たちが言うそれは具体的に何を指しているのだろう。

ゲーム、歌、絵を描く、ASMR、演奏、料理、食レポなどなど。

配信という文化には様々な形が存在する。

実際に観察してきたVTuberたちもそれぞれ異なる活動をしていた。

【神楽 琴音】なら————雑談。

視聴者からの質問に答えるというものもあった。

【皇 レン】ならゲーム。

参加型のゲーム配信やRTA挑戦などもあった。

【久遠 いろは】なら歌。

アカペラを含めて意見を集めて歌うというものがあった。

【橘 リンカ】なら企画。

企画を考える企画すらも視聴者を楽しませる要素にするというものがあった。


同期たちを見るだけですらここまであり、先輩方も含めれば更に増える。


————選択肢は多い。

多すぎるとも言えた。


それなのに————皆、自分のやりたいことを知っているように見えた。

少なくとも『俺』にはそう見える。


「……」


何をするべきなのだろう。

何をすれば【空音 ミラ】になるのだろう。

明確な【真似】をする対象がいないということは正解がない。

正解がないということは。

『俺』自身が決めなければならないということだ。


————それは難しい。


様々な存在から必要な部分だけを【真似】して違和感が出ないように繋ぎ合わせる新たな【真似】を行えるようにはなった。


————しかしそれができたとして未だに『俺』は【らしさ】というものを【真似】できそうにはなかった。


だからこそ『俺』は知る必要がある。

もっと————今よりも。


そんなことを考えているとスマートフォンが震えた。

画面に表示された名前を見れば神代さんからの連絡。


『本日打ち合わせの予定ですが大丈夫ですか?』


ありがたいことに毎回神代さんは確認をしてくれる。

『私』が毎日配信をしているからだろうか。

体調などを気遣うメッセージが入ることもあった。


『今後の活動について相談しましょう』


「今後……」


表示されたメッセージの内容を確認して呟く。

そうだ神代さんが言っていたではないか。


————相談、することにしよう。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






配信終了時刻から三十分ほど。

『僕』は既に打ち合わせの準備を終わらせパソコンの前に居た。

正確にはこの三十分の間パソコンの前から動いていないだけなのだが。

開始時刻になるのを確認して『僕』は送られてきていた会議用URLを開く。

デスクトップから画面が切り替わり、数秒後には見慣れた人物が表示された。


『————お疲れ様です』


「お疲れ様です」


画面越しの神代さんは軽く手を振る。

まだ会社にいるのだろう。

背後には見覚えのある会議室の壁が映っていた。


「まずは一週間お疲れ様でした」


「ありがとうございます」


「毎日配信でしたからね」


そう言いながら神代さんが資料を共有する。

そこにはこの一週間の活動記録。

登録者の増減数。

同時接続者数。

アーカイブの再生数。

高評価率。

様々な数字が分かりやすくグラフと共に並んでいた。


「数字も順調です!」


「そうなんですね」


「そうなんです」


何度となく交わされてきた『僕』とのやり取りに神代さんは苦笑した。


「もう少し喜んでもいいんですよ?」


「喜ばしいことだと思っていますよ」


「まだまだ活動は始まったばかりなので頑張りすぎないようにしてくださいね?」


神代さんが心配そうに言った。

どうやら『僕』の反応からなにかしら心配するようなことを考えているように捉えたようだ。


「それに数字以上に良かったことがあります」


「良かったこと?」


「————毎日配信を続けられたことです」


そう言って真っ直ぐとこちらを見たまま柔らかな表情を浮かべて話を続ける。


「途中で無理をする様子もありませんでしたし、体調面も問題なさそうです」


「問題ありません」


「本当に?」


「本当です」


「……なら良かったです」


少しだけ安心したように笑う。

どうやら数字よりもこちらを気にしていたらしい。


「この一週間の配信は内容としては雑談配信のみですが早川さんのトークスキルと模倣能力でかなりの満足度を与えられています」


続いて真面目な表情を浮かべた神代さんは意図して会話を切り替えた。


「だからこそ————そろそろ別のこともやってみませんか?」


「別のこと」


「はい」


共有されていた画面が切り替わる。

そこには様々な企画案が並んでいた。

流行りのゲームのプレイ。

人気アニメの歌枠。

視聴者参加型の相談企画。

雑談以外にもVTuberが行う活動は数多い。


「何かやりたいことはありますか?」


いつも通りの質問だった。

神代さんの声色も穏やかだ。

おそらく『僕』からの返答も予想しているのだろう。

だからこそ先に選択肢を提示してくれている。


————()()

今回は神代さんに()()()()()()()()()()()


「あります」


「————え?」


神代さんが止まった。

画面越しでも分かるほどの静止。

今までの『僕』とのやり取りに慣れた神代さんだからこそ今回の『僕』の発言に驚きを隠せないらしい。


「あります」


『僕』が繰り返す。

神代さんは数秒ほど固まり。

そして静かに姿勢を正した。


「聞いてもいいですか?」


その声は驚いているようでいて、どこか嬉しそうでもあった。


「もっと知りたいです」


「知り、たい……?」


「VTuberの皆さんを、もっと」


神代さんが瞬きをする。

だから続けた。

『僕』の発言の意味がはかりかねているだろうから。


「皆さん違います」


「……」


「考え方も、話し方も、配信の方向性も」


話しながら頭に浮かぶのは同期たち。

神楽琴音。

皇レン。

久遠いろは。

橘リンカ。

同じ四期生で同じ新人。

彼女たちはスタートは一緒だが既に【自分】というものを持っているように思えた。


「だから知りたいんです」


『俺』は素直にそう言った。

静かな時間が流れる。

神代さんはしばらく黙り込んだ後に口元を隠すように手を当てた。


「神代さん?」


「……いえ」


口角が上がっているのが見えた。

どうやら笑いそうになっていたらしい。


「そうですか……。

それは良いですね」


その表情はどこか満足そうだった。


「では————【同期コラボウィーク】にしましょう」


「同期コラボウィーク?」


「はい」


神代さんは迷いなく答える。


「観察したいなら実際に話した方が早いです。

なので同期の皆さんに協力してもらいましょう」


そう言って共有されていた画面切り替える。

そこには既に四期生の名前が並んでいた。

先程共有された企画案にはなかったがどうやらこのコラボのことも考えてはいたのだろう。

————まるで最初から準備していたかのようにこの画面を出してきたのだから。


「せっかくですし一人ずつ順番にやりましょう」


神代さんは楽しそうに笑った。


「きっと面白くなりますよ」


「神代さん実は準備してましたね?」


「マネージャーですから」


神代さんは少しだけ得意げに笑った。




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