魔物たちから農園を守れ!
「……これは、本当にまずいことになったわね」
アリシアは菜園の外に広がる光景を眺めながら、手にした白菜をぎゅっと抱え込んだ。つい先ほど、危うくおやつ代わりに奪われそうになった、最後の一玉だ。
苔に覆われた背中と、頭から伸びる曲がった角。あの角付きの魔物は、相変わらず図々しくその場に居座り、引きちぎった葉を「むしゃむしゃ」と咀嚼している。おまけに、挑発するように大きなげっぷまでした。
その背後の茂みからも、負けじとバキバキッという大きな音が響いてくる。まるでスーパーの特売日に、我先にと押し寄せるおばちゃんたちのようだ。
次の瞬間、見慣れない魔物たちが次々と茂みをかき分け、川へ向かって駆け出してきた。
一匹は淡い茶色の甲殻に覆われた、小さな暴走戦車のような魔物だった。湿った岩の上を縦横無尽に走り回り、背中に生えた小さな緑の植物が、揺れるたびに激しく振り回されている。
もう一匹は丸い耳を持つ小柄な魔物。体は小さいのに、破壊力はなかなかのものだ。お尻を突き出して草むらを猛烈に掘り返し、泥や落ちた木の実をあたり一面に撒き散らしている。
そのうちの一粒が、見事にアリシアの額へ命中した。
彼らは散歩に来たわけではない。
これはもう、魔物界のビュッフェを巡る争奪戦だ!
しかも、彼らの目にはアリシアの姿など映っていない。あるのは食べ物と水だけだった。
アリシアは額についた果汁を慌てて拭い、魔物たちの騒がしい動きを目で追った。
そこで初めて、川の両岸がすっかり様変わりしていることに気づく。
もともとむき出しだった岩肌は、いつの間にか分厚い苔に覆われていた。水辺には実をたわわにつけた低木が何株も生え、空中では小さな虫たちが群れを成して飛び回っている。
森全体が、まるで市場のような賑わいに包まれていた。
この森は、ただ賑やかになっているのではない。
完全に、生き返ったのだ。
そして、アリシアが苦労して切り開いた菜園は、よりにもよって彼らの通り道のど真ん中にあった。
「つまり……あの子たちはわざわざ襲いに来たんじゃなくて、私の菜園が、あの子たちの国道のど真ん中に建っていたってこと!?」
踏み潰され、もはや木片と化した柵を見て、アリシアは頭を抱えた。
最初は川に近く、土も肥えているから、絶好の土地だと思っていた。
まさかここが、森の生き物たちの水飲み場へ続く通路だったなんて。
ただ柵を高くしたところで、あの勢いで突っ込んでくる魔物たちなら、人も柵もまとめて吹き飛ばしてしまうだろう。そうなれば、菜園は今よりひどい有様になるだけだ。
「うう……落ち着いて。力ずくでどうにかしようとしちゃ駄目」
アリシアは大きく息を吸い込み、混乱の中から打開策を探そうとした。
しかし、目の前の状況は考える時間すら与えてくれない。
戦車のような甲殻の魔物が、パキッと苔むした石を踏み砕き、危うく足を滑らせる。丸耳の魔物は飛んでいる虫を追いかけ、茂みの中で見事な宙返りを披露したかと思えば、アリシアの足元に激突しそうになった。
そして、すべての騒動の元凶である角付きの魔物はというと、口をもごもご動かしながら、再びアリシアの腕の中にある最後の白菜に狙いを定めていた。
よだれを垂らしながら近づいてくる姿を見て、アリシアは思わず叫んだ。
「どうしてあんたが一番目ざといのよ! これ以上、私の白菜に近づかないで!」
もう優雅に構えている余裕などなかった。
アリシアは勢いよく杖をつかみ、菜園の周囲に向かって大きく振り回した。
力ずくで塞ぐのは無理。ならば、土地を譲るしかない!
アリシアは歯を食いしばり、杖を振るって魔法を発動させた。
菜園の境界を三メートルほど内側へ移動させ、川に近い側には新たに「魔物専用通路」を整備する。さらに、食べられやすい大切な野菜たちは、根ごと移植して一番奥の木柵の内側へと移した。
そして、明け渡した緩衝地帯には、食べ尽くされても惜しくない、成長の早い野草をまとめて植える。
ぶつぶつと文句を言いながらも、アリシアは木の根を操り、川岸の緩んだ土をしっかりと固定していった。これ以上、暴れ回る魔物たちに川岸を崩されてはたまらない。
こうして、てんやわんやの大改修がようやく終わった頃には、戦場のようになっていた菜園にも、どうにか秩序が戻っていた。
アリシアはその場に、だらしなく座り込んだ。
顔についた汗と泥を拭い、ようやく一息つけると思ったのも束の間。
背後から、また聞き覚えのある「ガサガサ」という音が聞こえてきた。
振り返ると、あの図々しい角付きの魔物が、またしても柵のそばに陣取っていた。
首を長く伸ばし、柵の向こうにある白菜を、今にも泣き出しそうな顔でじっと見つめている。
しばらく眺めたあと、どうやら本当に食べられないと悟ったらしい。しぶしぶ頭を下げると、外側に植えたばかりの野草をむしゃむしゃと食べ始めた。
「……もういいわ。食べなさい、食べなさい。お腹いっぱいになったら、さっさと帰ってね」
魔物は実においしそうに草を食べ、嬉しそうに尻尾まで振っている。
その間の抜けた姿を見ていると、アリシアも諦めがついたのか、小さくため息をついた。
少なくとも、今回は彼らのために用意したものを食べているのだから。
そのとき、川辺から「パチン」と乾いた音が響いた。
ようやく落ち着いたかと思われた甲殻の魔物が、濡れた岩によじ登ろうとして足を滑らせたのだ。
そのまま体をひっくり返し、腹を上に向けた状態で斜面を数メートルも滑り落ちていく。
転倒した拍子に、背中に生えていた小さな植物もあちこちに揺さぶられ、丸い種がいくつか葉の間から飛び出した。種はパラパラと音を立てながら、岩の隙間へ転がり込んでいく。
アリシアは驚き、転んだ魔物に怪我がないか確かめようと近づきかけた。
しかし、ふと目に留まったのは、種が落ちた場所だった。
ちょうどそのあたりを、淡い金色の光の粒が水の流れに乗って漂っていたのだ。
アリシアはしゃがみ込み、興味深そうに顔を近づける。
「これも、森の奥から運ばれてきた種なのかな?」
甲殻の魔物は、ひっくり返ったまましばらく呆然としていたが、ようやく体勢を立て直すと、頭をぶるぶると振った。そして何事もなかったかのように、のんびりと川岸を這い始める。背中の植物が、そよ風に揺れていた。
アリシアは、偶然土の中へ入り込んだ種を見つめた。
そこでふと、少し前に自分で植えた金色の種を思い出す。
この魔物たちのように、毎日仲間を連れてきては大騒ぎする生き物が増えていくのなら、これから先、この場所はますます賑やかになり、ますます手に負えなくなっていくのだろう。
アリシアは苦笑しながら、種の上に湿った土をそっとかぶせてやった。
立ち上がった彼女は、背後で腹を満たした角付きの魔物が、満足げにげっぷをするのに気づかなかった。
魔物は尻尾を揺らしながら、ゆっくりと川沿いを歩き、森へ帰っていく。
ところが、少し進んだところで、背後からかすかな物音が聞こえた。
土の中から、細長い蔓が一本、そっと顔を出す。
それは静かに伸びると、角付きの魔物の後ろ足へするりと巻きついた。続いて、柔らかな若葉が何枚か、泥の間からゆっくりと開いていく。
角付きの魔物は足を止め、足元を見下ろした。
いったい何が起きたのか、よくわかっていない様子だった。
そして、その背後。
先ほど岩の隙間に転がり込んだ種のうち、一つに、小さなひびが入っていた。
殻の奥から、淡い緑色の芽が、そっと顔をのぞかせていた。
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