7話 告白
木庭の目の前に、
ブラッドと名乗る笛が近づいてくる。
タルポルン星人が、
笛に対して構えをとった。
木庭は状況を掴めてはいないが、
――普通ではない。
それだけはわかった。
それと、
タルポルン星人の身体の震え。
明らかに笛に対して、
恐怖を抱いている。
「蛮族程度でも……。
力の差はわかるのだな」
歩みを止めず迫ってくる笛に、
タルポルン星人はいよいよ背を向けた。
逃げるための跳躍。
——ビュン!
しかし、
次の瞬間、笛は跳躍したタルポルン星人より
さらに高く舞い上がっていた。
——ドゴッ!
笛はタルポルン星人を
地面に叩きつけるように殴り落とした。
ズドーンッ!
叩き落とされた
タルポルン星人の手足が
おかしな方向に曲がっている。
「み……見逃して……
何もしない……約束する。
ダンジョンに……帰るから……」
命乞いするタルポルン星人を
見下ろしながら、
笛の中にいるブラッドが口を開いた。
「その程度の覚悟で侵略に来たのか?
殺しに来るのなら、
殺される覚悟も持つべきだ」
「……ゆ、許してくれ」
「許す?
勘違いするな……俺は何も怒っていない」
「そ……それなら……」
「目の前にいるから殺すのだ……」
――ドウンッ!
振り下ろした拳で地面を殴りつけた。
タルポルン星人の頭だけが、
地中深くに埋め込まれた。
そして笛は木庭の方を向き、
無言で飛びかかってきた。
「きゃあぁぁー!」
――ザンッ!
叫ぶ木庭へ襲い掛かろうとしていた、
未確認の4体目のタルポルン星人。
それをブラッドは蹴り斬った。
「ふむ。
この目、これがこの地球人の能力か。
視界で認識できたものを
分析、感知、予測する。
なんとも素晴らしい目だ」
ブラッドは笛の能力を駆使し、
身を隠していた4体目の存在も見逃さなかった。
木庭は腰を抜かして、
しゃがみ込んだ。
「ふ……笛ちん?」
ブラッドは再び見下ろしながら答えた。
「笛ではない……ブラッドだ」
「ブラッドって……。
あの……ベーダー星人の?」
「そうだ、お前に電流を流されたり、
氷漬けにされていたベーダー星人だ」
「きゃあぁぁー!
恨まれてるー!
殺されるー!」
「少し黙れ。
お前は殺さん。
この地球人に、お前を傷つけるなと言われている」
「笛ちん! やさしー!」
「静かにしろ。
この地球人が目覚めるだろ。
今から俺はダンジョンに入って殲滅にあたる。
こいつが目覚めれば俺の楽しい時間が――」
「……はっ!」
笛の表情が一変し、
いつもの顔に戻った。
「!」
「笛……ちん?」
「……」
「あなたは……笛ちん?」
「……うん」
「今……ブラッドっていうベーダー星人が
出てきて暴れてたよ……」
「……」
「聞いてるの……笛ちん?」
笛は額に大汗をかきながら、
無理やり満面の笑顔を取り繕った。
そして木庭にこう告げた。
「いっ異星人に……
身体を乗っ取られたフリでしたー!」
「……」
「……なんちゃって」
遠くの空の音が聞こえるくらい静まり返った。
「……無理あるって……笛ちん」
「……あ、あぁ」
「光り輝く水を飲んだ影響、
思いっきり出てんじゃん……」
笛が狼狽え始めた。
その時だった――
「虎落!
大丈夫かい!」
第6支部の剛海副隊長率いる、
小隊が到着した。
「副隊長!」
「タルポルン星人がゲートからすでに
侵入したと聞いているが
どこにいるんだい?」
剛海副隊長の小隊に見えるのは、
タルポルン星人4体の遺体のみ……
「誰がやったんだい……これ?」
木庭は黙って笛を指さした。
「虎落が!?」
「あぁ、あぁ……うぅ」
笛は気が動転して言葉が出なかった。
そこに侵略者の侵入を聞きつけた、
民間ブレイカーであり家族でもある、
タイガードロップ株式会社の
虎落狩と帝呼が到着した。
「笛ちゃん!
大丈夫か!?
ここにタルポルン星人が現れたって——」
木庭が狩と帝呼の存在に気づいた
その時だった——
「まったく凄まじい強さでしたよ!
虎落家の方々は!」
「へっ?」
木庭が、
訳のわからないことを言い始めた。
「いやぁ!
笛さんの危機に駆けつけ!
この凶悪なタルポルン星人を一捻りとは
家族の愛の力に上限はありませんねぇ!」
狩は放心状態の笛に、
何を言っているのかわからない
初対面の女性を目の当たりにして、
思わず口を開いた。
「おい、姉ちゃん。
何言って——」
「当たり前でしょ!
笛ちゃんがピンチなら、
わたしたち家族はどんな敵にだって立ち向かうわ!」
帝呼が何かを察して、
木庭の話に合わせた。
「そうでしたか。
さすが虎落親方ですね」
剛海副隊長が、
狩に目を向けた。
「なんだよ、剛海要ちゃんかよ。
立派になりやがって……」
ふたりは知り合いのようだ。
「このダンジョン攻略は
我々に譲ってもらってもいいでしょうか?」
「好きにしやがれ。
こんな連中の巣なんかに
タイコリンを連れて入りたくもねぇや」
その後、
剛海の小隊は合流した2つの小隊とともに
ダンジョン内に潜入し、
タルポルン星人のボス攻略に成功。
ブレイキットでダンジョンゲートを破壊し
今回のダンジョン攻略を
完全成功させたのだった。
――――――
その日の夜――
笛は、実家の事務所に帰っていた。
隣には木庭がいる。
応接室に狩と帝呼も腰をかけて、
4人で集まっていた。
沈黙が続く中、
笛が意を決して神妙な面持ちのまま
話し始めた。
「3人に……
3人だけに大事な話があります」
「どうしたのよ?
笛ちゃん、急に改まって……」
「……」
笛はひとりずつの目を見つめながら
告白を始めた。
「わたしの身体の中には、
ベーダー星人がいるの」
「!」
「タルポルン星人を倒してくれたのは、
わたしの中にいるベーダー星人。
ブラッド……」
その場の全員が言葉を失った。
狩と帝呼は、
ブラッドという名前を聞いて、
一瞬だけ血を想像したようだ。
木庭が笛を見る。
「わたしは……直接そいつに
助けてもらってるから
驚かないけど……」
「……うん」
「こうなったの……
わたしのせいでもあるし」
「うん」
「そこは否定してくれないのね」
笛は光り輝く水を飲んでから、
今日までの出来事を3人に伝えた。
家族にはすべてを
知って欲しかったから――
木庭は、
成り行き上――
「笛ちゃん。
どうして侵略者が身体に入ったのよ?」
「うっかり回収したブラッドの体液を
コーヒーにして飲んじゃったの……。
これが本当のブラッドコーヒー
なんちゃって……」
「……」
言い表すのに難しい沈黙が落ちた。
しかし、
その沈黙を破ったのが、
この話の中心人物のブラッドだった。
突然、狩に向かって声をかけ始めた。
「貴様は見覚えがある。
俺の部下と良い戦いをしていた人間だ」
「?」
あの日のダンジョンでの攻防が
思い出される。
侵略者と、
命懸けで侵略を防いだ者が
思わぬ形で再会をした。
「ど、どういう状況なんだよこれ!?
本当に笛ちゃんの中に侵略者がいるのか!?」
「飲み込んだのはお前の娘だ。
どういう教育をしてきたら
異星人を飲むようになるのやら?」
「むっ娘の身体から出ていきやがれ!
笛はまだ汚れなき乙女なんだ!
それを親父の前で身体に挿入しやがって!
ぶっ殺してやる!」
「パパ!
挿入は違うわ!
ずいぶんと意味が変わってくる!」
狩からしてみれば、
愛する娘のすべてを奪われた気分に
させるものになった。
それは、
あの日の攻防よりも辛い現実だった。




