6話 それぞれの思惑
タルポルン星人が
気を失った笛のもとへと向かう。
もう1体は、木庭の方へ向かって歩いてくる。
「や……やっぱり無理だったのよ!
あんなのに非戦闘員のわたしたちが
立ち向かっていいわけない。
とっとと逃げないと……」
立場を忘れ、
避難誘導もせず逃げようとする木庭。
『わたしたち防星官だよ……
みんなと一緒に逃げるわけにはいかないよ』
ふと笛の言葉が思い返される。
「知らん知らん……
すべて命あってのものでしょう。
笛ちんは頑張りすぎなのよ……
こんなことわたしの仕事じゃない――」
『だからと言って逃げてはいけない。
できることをするの――
人々の避難誘導、
防星官やブレイカー到着までの時間作り……』
木庭は頭を抱えた。
「わたしは研究がしたくて防星官になった……
人々を守るために防星官になったわけじゃない!
だから職務放棄にはならない!」
だけど……
だけれども……
木庭の足は逃げるのではなく、
侵略者の方へ向いて動き出していた。
「宇宙人の体液を飲んだ
笛ちんの研究が終わっていない!
実験材料が奪われそうなのに逃げるだなんて、
それこそわたしの職務放棄だわ!」
木庭はポケットから何かを取り出して、
目の前にいるタルポルン星人へ投げつけた。
――ピカッ!
一面を眩しい光が包み、
侵略者の視界を潰した。
「ギギギギギッ!」
タルポルン星人はうめき声を上げながら、
目を押さえた。
木庭が開発した、
護身用の目潰しアイテムだ。
その隙に、
木庭は笛の倒れている場所へ向かう。
しかし——
「あぁっ!」
すでに、
倒れ込んでいる笛の前に
タルポルン星人が立っていた。
木庭は、ほとんど使ったことのない
対侵略者用の小型銃を取り出す。
「動くな!
動けば撃つ!」
裏返る声。
木庭にとって、
初めて口にしたセリフだ。
その声につられ、
侵略者が木庭へ目をやる。
向けられた視線に、
恐怖で全身が震える。
「笛ちん!
動いて!
すぐに逃げて、お願い!」
笛から応答はない。
「笛……ッ」
背後にタルポルン星人の気配を感じた。
ダンジョンゲートから、
もう1体の侵入を許してしまったのだ。
3体の侵略者。
恐怖で、木庭は動けなかった。
振り返った瞬間に殺される気がした。
背後に1体。
木庭の前に1体。
そして笛の前に立つ1体も、
木庭を見ている。
笛に意識があっても、
この状況下では逃げられない。
「いっ……
意識がない方が幸せだったかも——」
「!」
次の瞬間——
笛が立ち上がっていることに気づいた。
まっすぐな目で木庭を見ている。
目が合った木庭は、
実験材料に――いや、
親友に向かって、
無理だとわかっていながら
最後の思いを伝えた。
「逃げてっ!」
――ジュバッ!
一瞬のうちに、
上半身と下半身が切断された。
「ゲハッ!」
血を吐きながら崩れていく木庭――
の、
目の前にいるタルポルン星人――
「!」
切断された侵略者の上半身が
地面に転がった。
その状況に、
理解が追いつかない木庭。
そして、
木庭の視線の先に、
真紅のオーラに包まれた笛が
手刀を振り抜いている姿が見えた。
「……笛ちん?」
木庭が笛の名を叫んだ。
すると笛は、
ゆっくりと目を閉じ、
大きく息を吸って吐いた。
「緊急事態だ……。
身体は勝手に使わせてもらう。
このままではこいつらの
好きにされてしまうからな……」
「?」
「タルポルン星人ごとき蛮族に、
やられたとあってはさすがに恥だ……」
まるで別人のような存在感。
それは誰もが一目瞭然でわかるほど
異様な威圧感だった。
笛を襲ったタルポルン星人は、
すでに頭を潰され、
絶命していた。
木庭の背後にいるタルポルン星人が、
笛の異変に気付き威嚇を始めた。
「ど……どうしちゃったの笛ちん?
なんか変だよ?」
笛が木庭に向かって歩いてくる。
「……笛ちん!?」
その呼びかけに、
笛が答えた。
「勘違いするな、そこの地球人。
俺はブラッド――
笛などではない」
「えっ?」
「身体を勝手に使うなと言われているが、
死ぬよりマシだろう……。
そう思わないか、地球人?」
笛の身体を完全侵略したブラッドが、
今、動き出す。




