5話 それぞれの職務
町は騒然としていた。
ダンジョンゲートから
侵略者の侵入を許してしまったからだ。
防星省・第6支部から連絡が入る。
《血洗市――オフィスビルに発生した
100cmのダンジョンゲートより侵略者あり》
100cmくらいのサイズなら、
民間のブレイカーに依頼が入ったはず。
しかし、防星省・第6支部から
連絡がくるということは、
処理に当たったブレイカーの身に
なにかあったのかもしれない。
人々が逃げ惑いながら走ってくる。
その後ろに侵略者の姿が見える。
笛がメガネを外し、
『分析』の能力を発動させる。
「!」
「……あれは、
タルポルン星人!」
「タルポルン星人!
それって危険度Aランクの侵略者じゃん!?」
「……この前、第3支部を半壊させた宇宙人よ!」
「やばいって!
わたしたちも逃げよ!」
木庭が笛の手を引いた。
「!」
笛は動かない。
「笛ちん?」
笛は慌てふためく木庭を見た。
「わたしたち防星官だよ……。
みんなと一緒に逃げるわけにはいかないよ」
「何言ってるの!
わたしたち戦闘タイプじゃないよ!
何ができるわけでもないじゃない!
逃げるしかないって!」
笛は胸に手を当て、
早まる鼓動を落ち着かせるように
言葉を絞り出した。
「だからと言って逃げてはいけない。
できることをするの。
人々の避難誘導、
防星官やブレイカー到着までの時間作り……」
「わ……わたし無理だから……
研究一筋で生きてきてんだよ……
時間稼ぎなんて10秒にもならないよ!」
笛が走り出した――
「わたしが時間を稼ぐから、
木庭はみんなの誘導を!」
「ちょっと!
笛ちん、大した武器持ってないでしょ!」
笛はタルポルン星人のもとへ
向かって走っていった。
笛の目は、
2体のタルポルン星人の存在を
捉えていた。
「誘導の仕方なんて覚えてないよ!
同じ陰キャなのに、
いつからそんな行動的になったのよ!」
今すぐにでも逃げたい木庭は、
やったことのない避難誘導に
就くことになった。
防星官の到着は早くても5分――
それまで、なんとか笛と木庭で
被害を最小限に食い止める。
笛は携帯していた、
対侵略者用の小型拳銃を取り出した。
押し寄せる人波に押し戻され、
侵略者までは遠い。
タルポルン星人は、
逃げ遅れた人間を次々と殺していた。
「あいつら……許さない」
笛は多少の距離はあったが、
建物の影に身を隠した。
そして分析能力を発動させながら
銃を構える。
侵略者名、タルポルン星人。
インパクト値《攻撃力》7.2t、
プロテクト値《防御力》3.4t
プロテクト値が低く見えるが、
小型拳銃程度が効く相手ではない。
人に当たらない発砲角度と位置を、
目の能力で確認する。
「ロックオン!」
――パンッ! パンッ!
笛の撃った弾丸は、
2体に1発ずつ見事に命中した。
相手がこちらの位置を特定する前に、
再び身を隠して発砲を繰り返す。
それで少しは時間を
稼ぐ予定だった。
しかし予定が狂う。
銃弾が当たり、
よろけた侵略者だったが、
すぐに体勢を整えて笛に視線を向けたのだ。
「!」
笛は慌てて身を隠した。
「もう位置を特定された!?
反応が速すぎる!」
——ドスンッ ドスンッ
気がつけば、
2体のタルポルン星人が
跳躍して笛の前に姿を現した。
「あぁ」
2体の無機質な視線が、笛を見下ろした。
「笛ちん!」
避難誘導をしている木庭が、
笛のピンチに気付いた。
1体の侵略者が腕を振り上げている。
笛は絶体絶命の中、
小型銃を構えて再び発砲――
――パンッ!
振り下ろされた拳の音と、
銃声が同時に重なる。
凄まじい衝撃が、
笛の小柄な身体を襲った。
身体が宙を舞い――
オフィスビルの壁へと叩きつけられた。
「笛ちん!!」
すでに笛は、
木庭の声に答えることはできなかった。




