4話 ある晴れたOFFの日
ダンジョンゲートを使って
地球にやってくる侵略者に対抗するため、
各国は能力者を集めた防衛組織を作った。
日本では、その役割を担う国家機関を
防星省と呼ぶ。
一方、民間にも
個人で侵略者との戦闘を生業とする、
ブレイカーと呼ばれる者たちが存在する。
——————
「笛ちゃん、
どうしたの急に帰ってきて?」
「うん。
この前、みんなでご飯行く予定だったのに
ドタキャンしたでしょ。
駅前に新しいお店ができていたから、
お詫びに買って来た」
笛はOFFの日、
実家の事務所に顔を出した。
彼女の実家は
父親と妹のふたりでブレイカー業を営んでいる。
「笛ちゃん、体調不良であの日から3日間
仕事休んでたんでしょ?」
「えぇ、そうよ」
「……それにしては」
「!?」
「太ったよね?」
妹の帝呼が
お構いなしに、もっとも気にしている
言葉で刺してきた。
笛は速やかに反論態勢に入る。
「太ってないわよ!
訓練も毎日しているし、
21時以降はなにも食べてないし、
最近は特に食べる量も減らしてるのよ!」
すると、
事務所の奥から父親である、
狩が姿を見せた。
「おうおう!
騒々しいと思えば
笛ちゃん帰って来てたのかよ!」
「パパ」
「おぉう!?」
「なにっ?」
「笛ちゃん。
この前会った時より太ったか?」
「いい加減にして!
太ってないわよ!」
怒る笛を見ると、
さらに揶揄いたくなる
意地の悪い妹の帝呼――
「まぁまぁ、そんなに太らないの――
あっ、そんなに怒らないの……
だったわ」
――ブチブチッ
笛の血管が切れる音が響く。
「帝呼ぉ!」
その時、
身体の内部で囁く声――
「あの男……。
俺を殺した地球人どもの中にいた気がする。
父親だったのか」
「!」
その一言に、
笛は凍りついた。
「地球人の中には
変わった能力使いが多かった。
俺たちはそいつらに翻弄されて
負けたわけだ……」
今までの笛の怒りは、
体内にいる侵略者の
その言葉で消え去ってしまった。
「あれ?
もう突っかかってこないの、
笛ちゃん?」
「……わたしも暇じゃないのよ。
今から待ち合わせがあるから帰るわ」
そう言うと、
笛はそそくさと事務所を出て行った。
「なになに?
本当に怒っちゃったの?」
「タイコリンが揶揄うからだぜ。
姉ちゃんをもっと敬えよ」
「これでも、めっちゃ敬ってるんだけど」
狩と帝呼は
いつもと様子の違う笛を気にしながら、
去っていく背中を眺めていた。
――――――
「なぜ、家族の元から離れる?
この後の予定などあるまい」
「自分を殺したかもしれない相手と……
一緒にいたくないでしょ?」
「!」
「それと急に復讐とか言い出して、
わたしの身体を使って、
家族を襲っても困るからさ」
「バカなことを……」
「気を遣ってあげたのに、
何よその言い方!」
「俺たちは殺そうとして
返り討ちにあったのだ。
無念ではあるが、恨みなどない」
「……」
「ベーダー星人は
星を狩る者と言われている連中だ。
もっとも嫌われた宇宙人だ。
たくさんの星を襲い、
たくさんの異星人を殺してきた」
「……友好的にって考えがないの?
あなたたちって」
「ないな……
兵器目的の実験で作られ、
捨てられた連中の集まりだ。
戦うことしか頭にない」
「なんだか……気の毒ね」
「だからこそだろうな。
殺すことが当然な分、
殺されることも当然と考えている。
強いものが勝ち、弱いものは負ける」
「……極端な考え方ね」
「そうか……
地球人に危機感が無いだけに思うが」
「……それは、
当たっているかもね」
街が何やら騒々しい。
何かあったのだろうか?
その時だった――
「笛ちん!」
声のする方を見ると、
木庭が手を振って歩いてきた。
彼女も休暇のようだが、
ボロボロの研究着のままだった。
「木庭……
あなた、いつもその格好なの?」
「えっ?
これ、よそ行きの研究着なんだけど
変かな?」
笛には返す言葉が思い浮かばなかった。
「研究用の備品の買い出しなのよ。
最近研究費が絞られてさぁ……
欲しいものも好きに買えないのよ」
「あなたが求められているもの以外の
研究ばかりしてるからでしょ……」
「否定はしない」
木庭の提案で、
2人は近くのカフェに入ることにした。
笛に予定など無い。
今日の予定は
しっかりと穴が空いてしまった。
カフェでの暇潰しは
ちょうど良かった――
木庭は先日から、
笛に対して何かあると踏んでいる。
今日のこの出会いは
絶好のチャンスだと思っていた。
店員に案内されて、
2人は席に着いた。
そして、
すぐさま口を開いたのは木庭だった。
もちろん、
ベーダー星人の体液を飲んでからの
変化について——
のはずだったのだが、
「笛ちん、太った?」
「ぶっ飛ばすわよ」
即答だった。
「ごめん……
ベーダー星人と関係あるんじゃないかって
思ったんだけど」
「なんでそれが“太った”になるわけよ……
あいつがそんなしょうもない影響を
わたしに与えるわけないでしょ!
もし、そうなら絶対に許さないわ!」
「!」
「……何よ?」
「あいつがそんなしょうもない影響を
わたしに与えるわけないでしょ——
その言い方から察するに、
何かもっと大きな影響があったのね?」
「ななっ……ないわよ」
「笛ちん……
嘘下手だもん。
やっぱり何かあったわね?」
「……ないってば」
「言ってごらん、メリーゴーラン……」
言えるわけがない。
体内にベーダー星人を宿しているだなんて――
そんな者が、
国家公務員である防星官に
いて良い訳がない。
もしばれたなら、
研究材料として扱われてしまう。
それならまだいい。
最悪、侵略者として扱われる
可能性だってある。
防星官の職からは、
間違いなく弾かれる。
——宇宙人を宿す地球人。
——世界でも聞いたことのない例。
だからこそ怖い。
前例がないということは、
誰にも扱いがわからない――
もし同じような人間がいたとしても、
みんなバレないように、
ひっそりと生きているんだと思った。
興味津々の目で、
木庭は笛を見ている。
笛は呼吸を整え、
冷静に木庭へ伝えた。
「本当に何もな――」
笛が口を開いた瞬間だった。
――ボボボボーンッ!
「ぎゃあぁあーっ!」
大きな爆発音と共に、
人々の叫び声が聞こえた。
ただごとではないと感じ、
笛と木庭が外へ出る。
すると、
駅の反対方向から人々が走って
逃げて来るのが見えた。
「何かあったのかしら!
さっきから騒々しいとは思っていたのよ!」
「侵略者かな!?
やっぱり家で研究しとけばよかった!」
2人のスマホに連絡が入る。
《血洗市――
オフィスビルに発生した100cmの
ダンジョンゲートより侵略者あり》
「笛ちん!
100cmくらいなら、
ブレイカーさんが出動してるよね?」
「イレギュラーがあったと見るべきだわ……。
民間ブレイカーが襲われて
ダンジョン攻略に失敗したのかも」
「ってことはゲートから
侵略者が攻めてくる!?」
道の向こうから、
大きな影がゆらめいて見えた。
人のようで人ではない何かが、
ゆっくりとその姿を見せていた。




