3話 侵略者の主張
笛を襲おうとしたボンドロ星人たちは、
身体を切断されて崩れ落ちた。
「!」
「へっ?」
「なに!」
笛はもちろん、
隊員たちも驚愕した。
『愚かな。
誰が誰の相手をしようとしているのか』
「……あなた。
……何をしたの?」
切断されたボンドロ星人を
呆然と見つめる笛。
そこに氷河の声が聞こえた。
「虎落!
無事か!?」
「……うっ、うん」
駆け寄る氷河に、
笛が振り向いた。
「!?」
笛の鼻から、
光り輝く鼻水が伸びているのが
見えた。
「お前、
ビビりすぎて鼻水が出まくってるぞ!」
「えっ?」
「これ使え」
氷河がハンカチを手渡した。
「あ……あはは、ごめん。
鼻水とか……
恥ずかしいなぁ……」
他の隊員たちが駆け寄ってくる。
「虎落、今のどうやって倒したんだ!」
「なんか、光の鞭みたいなのを出して、
叩き切っていたように見えたけど!」
「お前、あんな能力持ってたのか!?」
みんなが興味津々に
笛を見ている。
彼女はこの時、
焦りと同時に、
ベーダー星人に対して怒りが込み上げていた。
ボンドロ星人を倒したのは
確かに笛だ。
だが正確には、
笛の——鼻水。
さらに正確にいうと、
笛の鼻から輝く液体の
一部を出して攻撃した、
ベーダー星人が倒したのだ。
はたから見れば、
超長い鼻水――いや、
鞭に見えたのかもしれない。
みんなが驚きの声を上げる中、
笛は小声で囁いた――
「どうして……鼻から出たの?」
『身体を勝手に動かすなと言ったのはお前だ』
「!」
『身体を動かせないなら、
俺が動くしかない。
俺が出られる穴は、
鼻か耳しかないだろ』
「……とんでもないところから
出るんじゃないわよ」
『安心しろ……
鼻水が長いくらいで、
身体の中に宇宙人がいるなど誰も思わない。
誰も俺の存在に気づくことはない……。
良かったな』
「良くないわぁ!」
みんなの前で、
笛が絶叫した。
防星官の仲間たちは、
普段はおとなしい笛の
その様子を目の当たりにして
絶句している。
「あとで説教よ……」
『なぜ、俺が説教されねばならん。
お前を助けたのだぞ』
「鼻から出たからよ……」
『ふむ。
耳の方が良かったということか……
難しいぞ、地球人』
家に帰ってから、
この侵略者には説教が待っているのだった。
————
その後、残る3体のボンドロ星人を発見。
その中にいたボス個体の駆除に成功し、
ゲートを外側からブレイキットで破壊した。
ボスの駆除からゲートの破壊までが、
ダンジョンの完全攻略への段取りとなる。
隊員たちは、
ダンジョンから戻ると
支部に戻る準備に入った。
移動車に乗ろうとすると、
笛を氷河が呼び止めた。
「虎落!」
「何よ?」
「……こんな時になんだが」
「?」
「休暇を取っていた3日間で
少し太ってないか?」
「!」
——ガスッ!
笛は氷河の腹部を思いっきり殴った。
「イッテェー!
なんてことしやがるんだ虎落!
俺、小隊長だぞ!
お前の上官なんだぞ!」
「上官ならもっとデリカシーを
持ってちょうだい!」
氷河と笛の喧嘩が始まった。
「はいはい、そこまでよ。
同期で喧嘩なんかしないで」
その喧嘩を止めに入ったのは、
同じく第6支部の同期である
伊安加羅だった。
氷河と笛の喧嘩は、
ひとまず収まった。
これは第6支部・同期3人の
よくある光景だった。
しかし、
どうも納得のいかない氷河は、
第6支部に帰還したあと
笛が任務中に
“とんでもなく長い鼻水を垂らしていた”
と、仕返しのように
言いふらしていた。
氷河の精神年齢は子供だった——
同居人に命を救われた笛だが、
前途多難は続いていく。
——————
笛の自宅マンション――
「いい加減にしてくれる……」
『何がだ?』
「鼻から出て来たことよ!」
『ならどうすれば良かった?
放っておけば、お前は大ダメージを受け、
俺の生命にまで実害を及ぼしただろう』
「でも鼻の穴はやめて!」
『それなら今度からは
耳の穴から飛び出すことにしよう』
「それも嫌よ!」
『難しいぞ、地球人』
「……」
『では目から出ればいいのか?
ただお前の能力に支障が出るだろう』
「あぁもう!
2度と出てこなくていいのよ!
あんなことにならないように
前線には出ないから!」
『ふむ』
「わかった!?
だから、わたしのことは放っておいて!」
『……わかった』
笛の今までの日常は、
少しずつ侵略され始めていた。
休暇を取った3日間――
笛はこの侵略者を、
あの手この手を使って追い出そうと試みた。
しかし、
その努力は報われなかった。
それどころか、ベーダー星人の意思で
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚――
五感を自由に共有したり、
切り離したりできることがわかった。
SSS級――
国家滅亡危機クラスのダンジョンで
日本人は侵略者の攻略に成功した。
そのはずが、
今は彼女の身体が侵略されかけている。
ベーダー星人は、
笛の全身の血管というダンジョンに
迷い込んで、
未だに侵略できずにいる。
この場合、何をもって
侵略に成功したというのかわからない。
侵略者の存在は、
笛の中で大きな不安として残り続けている。
『おい。
ところで今夜は何を食べるのだ?』
「食べないわよ。
太ったって言われてるのに……」
『愚かな……
お前はもっと食べるべきだ。
身体に栄養が足りていない』
「放っておいて!
侵略者の言いなりにはならないわ!」
『……』
「絶対に!
絶対に身体から追い出してやるから!
覚悟してなさい!」
それきり、
侵略者は黙り込んだ。
しかしその夜、
笛が眠りについたあと——
ベーダー星人はひとり呟いた。
「さて、
ようやく寝たか……」




