26話 磁界
監視室から拘置室を見下ろすと、
拘束用の椅子に座らされている
ランブとシャンが見えた。
木庭はマイクにスイッチを入れて
ふたりへ話しかけた。
「やぁ!
久しぶり!」
「……」
返事がない。
そういえば
前回もブラッドの名前が出るまで、
防星官の誰が呼びかけても反応が
なかった。
やはりブラッドという単語は
彼らにとって格別の意味があるのだろう。
「おっほん……。
時間がないんだった。
急ぐか……」
木庭はマイクを持って、
彼らに本題を伝えた。
「あなたたちの王、ブラッドが——」
——ザッ!
ふたりが一斉に木庭を見上げた。
「ちょっと!
興奮してその椅子は壊さないでよ!
まだレプリカのままなんだから、
それを壊されたら、さらなるレプリカが
必要になっちゃう!」
その言葉を聞くと、
ふたりは少し落ち着いたように見えた。
木庭はその姿を確認すると、
話を続けた。
「ブラッドがあなたたちを呼んでるみたい——」
次の瞬間、
ランブの椅子が砕けた。
シャンは最初から
拘束されていなかったかのように
立ち上がった。
「あぁっ!
やっぱり壊したぁ!」
ランブとシャンは、
ランブの右手で拘置所の壁や扉に
穴を開けながら、
木庭のいる監視室までやってきた。
「ひいぃぃっ!
もっと普通に来てぇ!」
「おい」
「はいぃぃ!」
「ブラッド様と笛殿は何処だ?」
——————
流花は獣人8体と3mはあるデカブツの
猛攻にひとり耐えていた。
「おい」
その呼びかけに流花は振り返った。
「笛ちゃん!
どうして!?」
腕を組んだ笛が、
少し離れた位置に立っていた。
「避難してって言ったでしょ!
万が一に備えておいて!」
「ふむ。
そういうカラクリだったか……」
「笛ちゃん!?」
「能力名は磁界……。
ご丁寧に以前の能力名までわかるのか。
間違いない、こいつは異能の種だ」
「?」
ブラッドは笛の分析の目で
流花の能力を紐解いた。
——————
能力名——磁界(旧超耐久)
発動時、半径10m以内に磁界を発生。
磁界内のすべてのものを
N極の性質へ変更。
本人をN極、S極に性質を切り替えることで、
引力、斥力の効果を発動させる。
——————
「俺の攻撃は
すべて斥力によって弾かれていたわけだ。
本体に接近するほど反発力は上がるのか」
「なにを言っているの?
笛ちゃん!?」
「俺の攻撃は確実に届いていた。
しかし、磁界の能力で最小限に
ダメージを抑えたうえ、
超耐久の能力でテンカウントを耐え切った」
「……」
「合わせている両手の拳が切り替え装置か。
両手に力を発動させればN極、
片手のみに力を発動させればS極」
「……笛ちゃん?
分析でそこまでわかるの?」
「隠していたのだな?
異能の種を知らぬことで、
己の覚醒に恐れを持った。
実験に回されるとでも思ったのだろう」
「あっ……」
図星のようだ。
流花の表情が曇った。
「笛ちゃん……
このことは……」
「案ずるな、
俺も似たようなものだ」
「えっ?」
笛は磁界の中へと入っていった。
流花の背後を通り過ぎ、
侵略者に向かって歩いてゆく。
「笛ちゃん!
何しているの!
わたしの能力わかったんでしょ!?
助けに来なくてもいいの!
わたしならあいつらを
磁界で引き留めながら
攻撃されても斥力で弾くことができる!」
「ふむ……」
「笛ちゃん!
お願い!
言うことを聞いて!」
「今は笛ではない……」
「!?」
「こいつはお前のことなど
誰にも言わない。
だからこいつのことも……
黙っていてもらおう」
「だから、
さっきから何の話をしているの!?」
ブラッドは9体の侵略者の前に立ちはだかった。
そして組んでいた腕を
ほどきながら告げた。
「テンカウント」
「?」
「今から俺は10秒間……
全能力を10倍に引き上げてお前たちを始末する」
「!」
ブラッドは
いつものように左足を前に出し、
右足を後ろに置いて、
腰を少し落とすような構えをとった。
そして侵略者たちに微笑みかける。
「さぁ。
お前たちは10秒後の世界で、
生きていられるかな?」
その言葉を言い終えた後――
赤い閃光がほとばしった。
その閃光は、
獣人8体を瞬く間に殴り潰したあと、
デカブツへ四方八方からの攻撃を与えた。
骨を砕く音だけが一帯に響き渡った。
それは地獄の10秒間――
笛の身体の負担を考えると、
全盛期の5分の1程度の出力。
それを10倍に引き上げる能力。
9体の侵略者を始末するのに
10秒は十分すぎる時間だった。
獣人8体に2秒——
剛海が手も足も出せなかった
デカブツですら3秒で始末した。
笛は倒れる9体の死体の
真ん中に立っていた。
「……今の、
見たことある!」
「……だろうな。
お前には直接向けたことがあるくらいだ」
「無茶苦茶に殴ったり蹴ったりしてくる
ベーダー星人の技!
なんで笛ちゃんが同じ技使えるのぉ!?」
「……」
すると、
このタイミングで身体の主導権を
笛に戻した。
「わたしも……
いろいろあってさ……。
たまに強くなるんだ……あははっ」
「……どういうこと?
ますますわからないんだけど」
流花が涙を浮かべている。
「笛ちゃん。
来てくれてありがとう……」
「えっ?」
笛に抱きつく。
「すごく寂しかったようぅ。
カッコつけて逃げてって言ってたけど、
笛ちゃん来てくれた時、嬉しすぎて
涙腺崩壊しかけてたんだぁ!」
「痛い!
痛いよ、流花!
あなた身体大きくて力強いんだから!
手加減しなさいよ!」
「ふえぇーん」
「はいはい、泣かないの!」
笛は流花が落ち着くのを待ち、
彼女へひとつの指示を出した。
「あの要塞は、
わたしひとりで行ってくるから
流花も撤退して欲しい」
「エェッ!
それはダメだよ!
危険すぎる!
一緒に撤退しよう!」
「わたしも撤退したいんだけどさ。
わたしの中の奴がやる気満々なの」
「……?」
「何言ってるか、
よくわかんないよね?」
「うん……。
でも今は二重人格みたいなものだと
思って話を聞いてる」
「ここから脱出できたら説明するね」
「うん……」
「それじゃ、
流花はゲート入り口まで戻って、
みんなを守ってあげて、
わたしは全部終わらせてくるから」
流花は笛の言葉を聞くと、
ゲートの出入り口に向かって歩いて行った。
ここから先はブラッドがひとりで戦うようだ。
「ひとりで大丈夫なの?」
『ボスを倒さねば、
ゲートのロックは解除されない』
「待ってたら地球の援軍が来るかも……」
『笑止。
俺がなんとかせねば
先に地球が侵略されてしまう。
地球が侵略されるということは
俺もその支配下に入るわけだ……』
「……なるほどね」
『地球人だけの問題ではないわけだ……』
「その考えでいてもらえると助かるわ」
『……しかしひとつだけ、
言っておきたいことがある』
「なっ……なによ?」
『俺を戦わせて、
地球は平和を得る——
それは構わない、勝者の権利だ』
「……」
『ただ、
奴隷にも報酬は必要だ。
今後のモチベーションに関わってくる』
「あなたを奴隷だなんて
思ってないわ!
それに報酬って何を求めるの!?」
『ファミレスだ』
「またそれっ!」
『要塞攻略の報酬は、
ファミレスで好きなものを好きなだけ……
どうだ?』
「いいわよ……それくらい」
『ふむ。
交渉成立だ——』




