25話 王からの伝言
ブラッドの話を、
笛は聞き返した。
『……今なんて言ったの?』
「地球人の顔など見分けが付かんのでな。
気づくのが遅れたが、
あの地球人は俺のテンカウントに耐え抜いて、
10秒後の世界を生きている人間だ」
『あっあなた!
流花になんてことするのよ!
許せないわ!
あんな危険な技を流花に向けるだなんて!』
「落ち着け。
あいつは生きているし、
負けたのは俺だ!」
『でもさ!』
「不思議で仕方なかった。
どれほど攻撃しても
当たっている感覚がしないのだ」
『それは、
流花は最強の防御が能力だもの……』
「バカが、
それだけでは理屈に合わない。
特殊な防御能力を持っていたとして
俺のテンカウントを完封など不可能だ」
『でも流花は、
昔からああだから』
「異能の種だ——」
『えっ!』
「そうとしか考えられない。
ただの能力者ではない」
『流花が異能の種?』
「まぁいい。
お前の目があるのだから、
ゆっくりと分析させてもらう」
笛とブラッドは、
流花と9体の侵略者が相まみえる場所に
到着した。
——————
一方、
洞窟内に戻り、
ゲートの入り口まで帰ってきた4名。
勝来がゲートを殴りながら吠える。
「くそっ!
やはりこっち側からはゲートを通れない!
援軍が来てくれてボスを討伐するか、
せめてロック解除用のブレイキットを
持って来てもらわないと……」
一方、地球側では、
本部より援軍を向かわせない指示が出ている。
いくら待っても誰も助けには
来ないのだ。
伊安は通信機の周波数を何度も変えて、
外部との連絡を図っていた。
「お願い!
繋がって!
笛も流花も頑張ってるの!」
しかし、
一向に繋がりそうになかった。
「!」
その時、
伊安はあることを思い出した。
それは伊安と笛、流花だけに
渡されている、
超小型通信機のことだった。
防星官のシャツの第一ボタンに
それは縫い付けられている。
ダンジョン内のような異空間では
通信が乱れることが多々ある。
それを解消するために
人体に悪影響を及ぼしかねない
強力な電波を発して、
如何なる状況下でも
通信を可能にしてくれるボタン型通信機器だ。
それは政府非公認であり、
もちろん防星省非公認。
持っているのは同期の3人だけのアイテム。
作ったのは——そう、
同期のマッドサイエンティスト
木庭奈留。
——その人だ。
伊安は第一ボタンを握りしめた。
「あの子の作ったものだし……
絶対にろくなものじゃない。
もともと完全遮断されている上層部の会議を
盗聴するために作ったものらしいし……。
それに一度使ったあと気分が悪くなったから
あの子が使わなくなったものだし……」
ボタンの先端に小さな膨らみがある。
それを押せば、
通信機を持つ防星官に繋がると聞いている。
「捨てるのがもったいないって、
わたしたちに無理やり付けたんだっけ
……あの子」
「でも……今日は……」
「奈留……
あなたのすごいところ見せてちょうだい」
伊安は祈るような思いを込めて
ボタンを押した。
——ポチッ!
——ピーッピーッピーッピーッ
「雷鳥だ!
誰だ!?
剛海か!?」
本当に繋がった——
伊安は感極まって
第一声を間違えた。
「奈留っ!
ありがとう!」
「その声は伊安か?
今まで通信が取れず心配していたんだ!
中の状況を教えてくれ!」
「副隊長!
現状報告します。
剛海、氷河、共に重傷。
勝来、伊安は剛海、氷河とともに
ゲート前に避難中です」
「虎落と陀折はどうした?」
「ふたりは……
侵略者の進行を止めるため、
前線にて戦闘中です」
「……なんだと」
「こちらからはゲートにロックが
かけられているため、
戻ることができません。
救援メンバーと
ロック解除用のブレイキットを
送っていただけないでしょうか!?」
「……伊安。
すまないが、こっちでは
侵略者を迎え撃つ準備に既に入っている。
救援メンバーを送ることができない」
「そんな……」
「ブレイキットの手配はするが、
あれは特殊機器に相当するものだ。
使用許可が本部から下りるのに時間がかかる。
1時間……いや、30分待てるのか!?」
「おそらく無理です。
相手は未知の侵略者……
30分後には地球への進行を
許しているかもしれません」
「くっ……。
これほど己が情けないことはない!
何が副隊長だ!」
「あの……
雷鳥副隊長……」
「!?」
「虎落分析官からの伝言なのですが……」
「なんだ?」
「拘置監視室にいる
2体のベーダー星人へ、
ブラッドが呼んでいると
伝えて欲しいとのことです——」
「なに?」
「わたしにはなんのことだか
わかりませんが……
それを伝えれば、
この状況をひっくり返せるって……」
雷鳥は言葉に詰まった。
ベーダー星人捕獲の件は、
第6支部の上層部と一部防星官しか
知らないことだ。
笛はその会議に参加していたので、
知っている話ではあるが、
この件は本部にも上げていない。
雷鳥にとって、
今は捕獲したベーダー星人の話は
触れて欲しくない部分だった。
「わたしにも、
なんのことだかわからない……」
この時、雷鳥は伊安に
そのように返すしかなかった。
木庭の発明でせっかく繋がった
通信だった。
しかし、
残酷にもダンジョンにいる
メンバーへの一助には
繋がらなかった。
ところが、
第6支部の拘置監視室入口では——
「あれ。
今日はどうされたんですか?
外じゃ大変なことが起こって——」
——プシュ!
バタン——。
謎のスプレーを浴びて、
床に倒れ込む流監視官。
そして偽造パスを駆使し、
拘置監視室の最深部である
地下3階に向かう人影があった。
「前回より希釈率上げたし、
計算上6時間ほどで目覚めるでしょう」
その影は地下3階に着くと、
迷うことなく監視室へと向かった。
「加羅ちん……
使ってくれたんだ、あの元盗聴——
いやいや、最強の通信機……嬉しいよぉ」
そして監視室に入ると、
拘置室を見下ろしながら呟いた。
「大丈夫。
ぜーんぶ通信会話は聞いてたからねぇ。
笛ちんの頼みはこのわたしが
叶えてしんぜよう」
そこには犯罪に全身を
どっぷり浸けていることに
いまだに気づいていない、
マッドサイエンティスト木庭奈留の姿があった。




