23話 最強の盾
剛海たちは、
剣を持った獣人の侵略者8体に
包囲されていた。
それらの手には、
殺した人間たちの首を束にして握りしめられている。
氷河はすでに深手を負い戦闘不可。
剛海は震える足を、
彼女の専用武器である大剣で支えるように
立ち上がった。
「副隊長!」
戦闘要員である勝来が駆け寄る。
「来るな!」
剛海は勝来を制止した。
彼女の視線は、
取り囲む8体の獣人の侵略者ではなく、
彼女の目の前にいる体長3mはある侵略者だった。
そいつは盛り上がった全身の筋肉を
見せつけるかのように立ち、
無機質な表情で剛海を見下ろしていた。
「勝てない……
副隊長が殺される」
『ふむ。
分析の目で見ずともわかる。
もって15秒くらいだろうな』
「インパクト値が28t――プロテクト値が32t……。
インパクト値がコーアン星人と変わらない。
プロテクト値だけなら……超えてる」
『これほどの力を持つのに俺が知らぬとはな。
やはり宇宙は広い』
「そんなことに感心している場合じゃないわ」
ブラッドと会話をしている笛に
剛海が声をかけた。
「虎落。
あのデカブツの能力分析できるかい?」
「……インパクト値が28t、
プロテクト値が32tです」
「インパクト値が28tだって!
このプロテクターの耐久値が約10t。
わたしの能力を100%引き出しても
耐久限界は18tほどだよ」
「……」
「――直撃したらアウトってことかい?」
剛海が率いるメンバーの中に、
笛がいる。
笛の能力は分析――
彼女の目にはすでに、
剛海と侵略者の戦力差が、
あまりにも大きく映っていた。
「手の打ちようがない……
って顔に出しすぎだ。
虎落……」
「えっ!」
「この時点で諦めてどうする……
ここでわたしたちが踏ん張らないと、
日本が侵略されてしまうよ」
剛海の全身の筋肉が隆起する。
彼女の能力は筋肉操作——
これより100%の能力発動に入る。
血管という血管が浮き上がり、
目が血走る。
心臓の音が大地にまで響いた。
彼女は分厚くて長く、
重厚感のある大剣を振り翳した。
「こいつらはわたし1人でやる!
君たちは氷河を回復させつつ、
撤退するんだ!」
そう言うと、
剛海がデカブツと呼んだ侵略者に飛びかかった。
剛海の大剣が振り下ろされる。
しかしその斬撃は
デカブツの片腕によって簡単に弾かれた。
渾身の力を込めて振り下ろした斬撃でも
ビクともしない。
「ふざけてるね!」
剛海は一度距離をとった。
「!」
その時、剛海は気付いた。
獣人の侵略者8体が動こうともしていない。
デカブツと剛海の戦いを、
ただ黙って見守っているようだった。
「……ふふふ、そう。
これは大将戦ってことね。
ここでわたしを討ち取ったと同時に、
ここにいるものすべてを殺すってことか……」
「グフフッ」
「無表情な化け物だと思ってたけど
笑うんだ……。
むかつくね」
すると、今まで口を開かなかった
デカブツが話し始めた。
「お前……。
地球の……女……という者か?」
「……?」
「そうだな。
装飾用の首はもう十分だ。
コイツらは繁殖用に使えるか調べるために
持ち帰ろう」
剛海は大剣を構える。
「舐めんな……。
お前らの好きにされるくらいなら、
舌噛んで死んでやるわ……」
「……死にたければ死ねばいい。
侵略が始まれば代わりはいくらでもいる」
「!」
剛海は怒りに震えた。
目の前のデカブツを睨みつける。
「お前の戦闘力の低さからして、
繁殖の器としてもゴミほどの
価値でしかない」
次の瞬間——
「言ってくれるよなぁ!
オラァ!」
挑発に剛海が飛びかかった。
侵略者は振り下ろされた大剣を
拳で撃ち返し——
叩き折った。
「なっ!」
「グフフフッ」
もう片方の拳が剛海の身体を撃った。
――ボキボキボキボキッ!
「キュッ!」
骨の砕ける音と、
喉から息が漏れ出るような
聞き慣れない声を発して、
剛海の身体は吹き飛ばされて
地面に叩きつけられた。
「副隊長!」
剛海から反応がない。
隊員たちが助けに動こうとすると、
獣人たちが立ちはだかった。
「あっ……」
蛇に睨まれた蛙――
隊員たちは動けなかった。
低くうねるような声で笑いながら、
地に伏せた剛海に近づくデカブツ。
意識を失った剛海の前に立ち
声を上げた。
「実験用に持ち帰る。
邪魔になるので両腕を引き千切っておけ」
2体の獣人が剛海の身体を起こし、
プロテクターと制服を破り始めた。
――まさに地獄絵図だった。
目の前で、
副隊長が拷問を受けて攫われていく。
その現実に
全員が恐怖で動けない中——
彼女だけが動いてしまった。
「や……やめ――やめろぉー!」
対侵略者用の拳銃を構え、
笛が大きな声を上げた。
分析官の笛の力では、
どうにもならないことは
わかっているのに……。
その笛の姿を見た侵略者たちは、
一様に大声をあげて笑い始めた。
――グフフフフ!
――ケタケタケタ!
――ギャハハハハ!
身体の感覚がなくなるような
恐怖の笑い声。
それでも、笛は剛海を見捨てられなかった。
『おい。
これは勝算あっての行動か?』
「わたしが倒してやる!
馬鹿野郎!」
『お前は存外短絡的なところがある。
早死にするタイプだ』
「副隊長から離れろ!」
『ここで俺と変われば俺の存在がバレる……
お前が守りたかった今までの生活を失う——
いいのか?』
「わたしは……防星官!
守る者は……目の前の命!」
『ふむ。
それがお前の答えなのだな』
「仲間を見殺しなんかできない!」
『わかった。
それでは望み通り——』
笛の身体の優先権を、
ブラッドに入れ替わるその時だった——
「笛ちゃん!
みんな!
副隊長と氷河くんを連れて先に逃げて!」
その声が聞こえると同時に、
剛海を掴んでいた獣人2体が
弾かれるように吹き飛んだ。
声の主は、
侵略者たちの前に立ちはだかる。
「早く!
副隊長を連れて行って!」
勝来が素早く剛海を担いで退いた。
その場の全員が彼女を無言で見つめている。
「とにかくゲートの入口まで戻って、
みんなで救援を待つの!
きっと誰か来てくれるから!」
彼女は両手の拳を握り締め、
大きな胸の前で打ち合わせた格好だ。
全身から金色のオーラが放たれ、
笛たちから侵略者たちを遠ざけるように
光の壁が張り巡らされた。
獣人8体が飛びかかるも、
その光の壁はビクともしなかった。
「それまではここから誰も通さない!」
第6支部・護衛隊の陀折流花が、
最強の盾である力を発動させたのだ。




