20話 前夜祭
ダンジョンゲート発生予測アプリ——
空間の歪みや
地域気温の変化、
過去10年間のデータと
直近3ヶ月間のデータをもとに、
ダンジョンゲートの発生を予測して
知らせてくれる有料アプリだ。
発生予測アプリは
防星省でも活用されているほどだ。
日本政府と国内最大手の通信会社が
共同開発したこともあり、
ダウンロード率は70%を超えている。
もちろん
すべての予測が当たるわけではない。
ただ予測の3、4割が当たったりするので、
その仕組みを解き明かそうとする連中も
少なくなかった。
——————
「アプリの予測を見たかい?」
剛海副隊長が、
雷鳥副隊長に声をかけた。
「もちろんだ。
1週間以内に危険度A級の
ダンジョンゲートが発生すると
通知が来ていたな」
「前回は1週間以内にB級の
ダンジョンゲートが発生すると通知が来て、
4日後のSSS級のベーダー星人の
ダンジョンが現れた」
「危険度までは正確ではないようだが、
前もって通知が来るということは
信憑性が高いということか」
「しかもまたこの第6支部の管轄内だ。
勘弁して欲しいね」
「ベーダー星人のダンジョン攻略のため、
日本中の防星官とブレイカーが集められた。
そして、多くの犠牲を払ったばかりだ……。
さすがにSSS級は来ないだろうが、
危険度の高いダンジョンは
今の日本では厳しいものがある」
ふたりの副隊長の会話を、
隊員たちは聞かない振りをして
思いっきり聞き耳をたてていた。
もちろん笛もだ——。
『ふむ。
ダンジョンゲートの発生を予測だと。
笑止……』
「何が笑止よ。
地球の科学もすごいでしょ?
さすがのあなたも驚いてるんじゃないの?」
『ゲートの発生に予測など付くはずがない。
侵略者とてゲートを開くのに手間を要する。
ゲートの開放を知るには、
宇宙からの情報を得ない限りわかるわけがない』
「……どういうこと」
『この国の政府は、
宇宙人から直接……
もしくは他国が掴んだ情報を
もらっているのではないか』
「……」
前回のベーダー星人のダンジョンの際は、
国外退去や物品の買い占めなどが起こらないよう、
政府はあえて緊急性を公表しなかった。
しかし、
公表した後も多くの人はベーダー星人の
襲来に関して
どこか他人事のように受け止めていた。
人々が危機に備えない要因として、
先日襲来したベーダー星人を
倒せたことが一番大きい。
またベーダー星人は、
100年前にも地球に襲来したことがあった。
つまり日本は、
100年前も——
この前も——
ベーダー星人を打ち負かしている。
その安心感が、
人々から危機感を奪っていた。
“防星省がなんとかしてくれる”
“ブレイカーが守ってくれる”
防星省とブレイカーたちの奮闘が、
逆に国民の危機意識を下げていく――
そんな皮肉な結果となっていたのだ。
また、予測アプリが
ダンジョンゲートの発生場所と、
“1週間以内”という期限を示したことも、
人々の心に余裕を与えていた。
世間は忘れているのだ。
明日も、1時間後も、1秒後も、
すべて“1週間以内”に含まれていることを——
この夜、
日本政府から正式に
1週間は外出を控えるように発表があった。
――――――
地球は、
地球人と地球資源を守るため、
他星との交信を控えてきた背景がある。
しかしベーダー星人の話によると、
各国は独自のルートを使い、
異星人と密かに交信していたことがわかった。
どれだけ宇宙の情報を持っているか――
それが、その国の力となっているのだ。
日本はその情報戦において、
大きく出遅れている——
はずだった。
あの日、いくつかの隣国は――
“その日”
“その時”
“その場所”に、
ベーダー星人のダンジョンが
日本で発生することを確実に
知っていたらしいのだ。
それなのに日本政府だけが
知らなかった——
アプリまで作っているのに?
そんなことが本当にあるのだろうか?
——————
1週間以内に
危険度A級のダンジョンが発生すると、
日本政府が正式に発表したその夜——
防星省・第6支部管轄地域の上空に、
直径10mにも及ぶ、
巨大なダンジョンゲートが出現した。




