19話 未来への取引き
「俺の望みはまっとうされた。
感謝するぞ、地球人――」
そう言うと、ブラッドは笛と入れ替わった。
「喋りすぎだよ……。
喉乾いたし……」
笛は不機嫌そうな態度を見せたが、
満足そうなブラッドの様子に
悪い気はしていなかった。
そして、
自分たちの王に久しぶりに会えて、
感情を見せたベーダー星人のふたり。
彼らもまた、
口には出さないが
満足のいく時間となった。
——しかしただ1人。
この中で人生を詰みかけている
者がいた。
偽造パスカードの作成と貸与。
監視官に対する傷害。
拘置室の拘束用椅子2台破損。
そしてベーダー星人の拘束解除――
言わずもがな、
すべての主犯である——木庭だった。
「いやあぁぁー!
わたしだけ犯罪者!
いやあぁぁー!
ベーダー星人も目の前にいるし、怖あぁー!」
騒ぐ木庭には目もくれず、
ランブとシャンが、
突然笛の前で跪いた。
「地球人……。
あなたのお名前を聞いても?」
シャンが話しかけてきた。
「わた……わたし?」
「はい」
「虎落笛……です」
「笛様ですね」
「!?」
「わたしどもは今更抵抗など致しません。
ブラッド様は我々に生きろと仰られた。
わたしたちの命は笛様に委ねられます。
これからどうすればいいのかご助言賜りたい」
「えぇっ!
どうすればって言われても!?」
ランブは破壊した拘束用の椅子を見た。
「これを見れば、
我々が脱走を試みたと地球人は思うだろう。
さらに我々の立場は厳しくなると思うのだが――」
残念ながら、
笛には何も思い浮かばなかった。
今、
唯一頼れる仲間といえば……。
こいつだ——
「あのさ……木庭……」
「みんな共犯者ーっ!」
「木庭っ」
「そうだわ!
ベーダー星人が脱走して、
全部無茶苦茶にして逃げたって
ことにすればいいのよ!」
「木庭っ!
いい加減にして!」
「はっ!」
「落ち着きなさい!」
「わっ……わたしは一体……」
笛の一喝が効いたのか、
木庭が静かになった。
「これからのことを話し合いましょう」
「主犯が一番悪い。
主犯は言い出しっぺの笛ちんだから!
わたしは脅されてやったことだから!」
「木庭、今そんな話はしていないの……。
この状況をどうするのか?
彼らの今後をどうするのか?
を考えているのよ」
「えっ?」
話し合う2人に、
ランブとシャンが顔を向けた。
「我々は笛殿とブラッド様の指示に従う。
笛殿がブラッド様であり、
ブラッド様が笛殿である以上。
笛殿も我らの王——」
「おっ……王!」
「ブラッド様はベーダー星の王だ……
何を驚いている?」
「ちょっとだけ偉い目の上官じゃないの!?」
まさか体内に居座っている男が、
ベーダー星の王だったとは
笛は想像もしていなかった。
「我々の処遇を教えていただけませんか?」
シャンが急かす。
ただの一分析官に、
侵略者に対しての権限など微塵もない。
ましてや、
今夜の侵入自体バレるようなことがあれば、
懲戒レベルの処分を受けるだろう。
笛が黙り込む中……
突然、木庭が寄ってきた。
「次の面会のタイミングで
わたしと笛ちんを名指しで呼ぶのよ」
木庭の表情は
何か悪巧みをしている時の顔をしていた。
笛はすかさず聞き返した。
「彼らがわたしたちを
知ってたらおかしくない?」
「大丈夫。
ごつい彼が、俺の能力を見抜いた地球人と
ブラッド様を解剖した地球人と話がしたいと
言えばいいのよ」
「研究に立ち会ったの、
あなただけじゃないでしょ?
違う人が呼ばれるんじゃ……」
「大丈夫。
もしそんなことになったら、
その日の担当研究官全員を動けなくするから」
この子——全員に毒を盛る気だ。
笛には一瞬で木庭の考えていることがわかった。
「ベーダー星人、よく聞いてちょうだい。
面会中、
知り得る宇宙の情報を教える――
そして日本人の力になる――
それだけを言えばいいから」
「木庭……。
それを侵略者に堂々と教えるってことは……」
「上層部が欲しがっているのはその2点。
あと、他国と繋がりのある侵略者情報を
持っていれば完璧よ」
呆れた顔をして、
笛が木庭を見る。
「だって面会って、
結局はその話に持っていきたいだけでしょ!?
前もって教えてあげてる方がスムーズじゃん!」
「あなた、
いったい何を企んでいるの……?」
「だからベーダー星人様!
今夜侵入してきたことや、
椅子を壊したことは一切言わないでぇ!」
「……やっぱり、そうきたか」
そんな木庭に、笛が指摘する。
「ベーダー星人は
素直に拘束されてくれそうだけど、
椅子はどうするの?
これって代えあるの?」
「そうか!
椅子がないことが一番ヤバいのよ!
適当な椅子を見繕って、それを代替に使って、
監視カメラをいじくって……」
あとのことは木庭に任せよう。
なんだかんだで、
木庭ならこの状況からでも
見事に逃げ切るだろう――
笛はそう思った。
――――――
その後のことを、
笛は詳しく知らない。
木庭がすべて上手くやってくれたようだ。
すべての監視カメラの映像偽造、
パスカードの使用状況の操作、
破壊した拘束用椅子のレプリカ作成、
木庭は犯罪者へ片足どころか
完全に全身を突っ込んでいた。
そんな木庭が唯一焦ったこと、
それは、監視官・流の意識が
2日間戻らなかったことだ。
意識が戻ったからよかったものの、
最悪の場合、
どこかに高跳びする準備をしていたようだ。
——————
数日後に行われた面会で、
ランブとシャンは
笛と木庭に会いたいと告げた。
2人との面会が実現すると、
第6支部の上層部が見守る中、
彼らとの会話が滞りなく始まった。
そして――
彼らは木庭から授かった魔法の言葉を使う。
「知り得る宇宙の情報を教える――
日本人の力になる――
他国と繋がりのある侵略者情報も提供する――」
この日、防星省・第6支部は——
第6支部の中でも、
ごくわずかの者しか知らない
政府すら未承認である
侵略者との交渉を行った。
日本側が彼らの命を保障する代わりに、
ランブとシャンは宇宙と侵略者に関する
情報を提供する。
政府にも他支部にも知らされない、
第6支部とベーダー星人だけの取引。
この密約が、
やがて日本に大きな転機を
もたらすことになる。
ランブとシャンの情報によると――
地球は――
世界は――
日本が予想していたよりも、
ずっと先に進み——
そして汚れていた。




