16話 成れの果て
木庭が深夜番だったその日――
それは決行された。
早番だった笛は深夜に支部へと戻った。
もちろんブラッドに、
ブラッドの死体と、
捕獲された2体のベーダー星人を会わせるためだ。
この日のこの時間が
1番警戒の薄い時間だった。
ここしかないと木庭は判断した。
2人の副隊長はおらず、
研究員の深夜番は木庭が担当。
そして拘置監視室の担当者が新人だった。
「今夜なら可能なのね?」
「……うん。
監視室の当直が、
わたしの後輩で着任したばかりの子だから
簡単だと思う……」
「あなたのことだから、
いろいろ心配で仕方ないんだけど……」
「1番心配なのはわたしだよ……
バレたら始末書なんかで済まないよ、これ……」
2人は拘置監視室へ向かって歩いた。
「地下何階にいるんだろ?」
「死体も2体のベーダー星人も
最下層の地下3階に保管されているよ。
国家最高機密扱いだけど、
副隊長、実は防星省にも話を上げていないみたい」
「えっ!?
それってまずいんじゃないの?」
「ふふふっ。
雷鳥副隊長。
わたしと同じ人種かも……」
「違うでしょ。
防星省に言えば回収された上で、
世界協定に則って処分されるからでしょ」
「だよね」
「下手したら、隣国にうまいこと言われて
国が勝手に差し出してしまうかもしれない」
「エェッ!
日本ってそんなに立場低いの?」
「木庭。
あなた研究ばかりしていないで
世界情勢をもっと知るべきだわ」
そうこうするうちに、
監視室の前へ着いた。
「笛ちん、これを」
木庭がカードを渡した。
「これは?」
「偽造パスカード。
これがあれば、支部の中はだいたい動けるよ」
「あなた……
これこそバレたら始末書なんかで済まなくない?」
監視室へ入ると、
右側に事務室がある。
「流くん」
「あっ、先輩!」
「エレベータールーム、開けてもらってもいい?」
「調野班長のパスカードはお持ちですか?
かざしてもらえれば扉が開きますよ」
「OKー!」
木庭がパスカードをかざすと、
奥の扉が開いた。
「一応僕も立ち会いますね。
こんな時間の面会は本来は禁止なんですよ……」
「うんうん、ごめんねー」
「あと面会時間は5分です。
ただ班長からの許可もあるようですし、
木庭先輩ですから多少の延長は目を瞑ります」
「君は本当にかわいいね。
今度抱き締めてあげようね」
「……それは結構です」
監視部の流を先頭に、
3人はエレベーターへ乗り込んだ。
「調野さんのパスカードって貸してもらえたんだ?」
「貸してもらえるわけないでしょ。
偽造カードよ……」
「……あなた。
もう引くに引けないことしてるんじゃ……」
「共犯ってことで……お願い。
笛ちん……」
流が笛へ声をかけてきた。
「失礼ですが、分析班の虎落さんですよね?」
「え?」
「防星学校時代から
虎落さんの分析能力は凄かったと
教官から伺っていました。
お会いできて光栄です!」
「そんなこと……ないですよ」
3人は最下層の地下3階へ到着した。
エレベーターを降りると、
目の前には大きな扉、
その奥に最高機密を保管する拘置監視室がある。
また、
別部屋には数々の侵略者の遺体や、
遺留物が保管されているらしい。
防星官でも滅多に入れる場所ではない。
パスカードを使って扉を開けた。
薄暗い研究室のような部屋が見える。
左側を見ると、
溶液の入った大型水槽があり、
それに沈められた1つの死体が目に入った。
ベーダー星人と表示されている――
ブラッドの死体だ。
解剖検査に立ち会った木庭だったが、
顔には布が巻かれており、
顔の確認ができていなかった。
——というか顔などにそもそも興味がなかった。
解剖中に発見した輝く水を
いかに部長にバレずに取り出すかだけを
考えていたからだ。
笛と木庭は初めてブラッドの
素顔を見ることになった。
「……めちゃくちゃ男前じゃない。
惚れるわ」
木庭が顔を赤めながら呟いた。
ブラッドは涼しげな美男子といった顔をして
溶液に浸かりながら目を閉じていた。
「……こいつのせいで。
……わたしの安息の日々がぁ」
どんなに美男子でも、
その男に怒り狂っている笛のような女子もいる。
『敗者の成れの果て……』
ブラッドが呟いた。
戦争に負ければこうなる、
彼が1番わかっていることだった。
「見るの嫌よね?」
笛が声をかけた。
『勝者がすべてだ……
勝てていれば俺たちがお前たちに
していたことと同じだ。
負ければこうなる……そういうものだ』
木庭が耳打ちしてきた。
「あんな男前が身体の中にいるなんて羨ましい……」
「本当にぶっ飛ばすわよ」
ブラッドが笛の中から質問を投げる。
笛は面倒くさそうに、流へそれを伝えた。
「この遺体から地球人の科学で何がわかるの?」
「今回はDNA検査しかできていないですけど、
これからは彼らの記憶を覗いていくようです。
この生物の歩みを脳から読み取るんです。
今までの侵略者とは格が違い過ぎますから、
この身体はこの国にとって宝箱なんですよ」
「死体の脳から記憶を読み取るんだ。
すごいことできるのね、研究班って」
「そのあたりの仕事は木庭先輩の範疇ですよね。
いつか僕も先輩と一緒に研究班に混ざりたいです」
戦いに負ければ、
負けた方がこのようになっていた。
そう考えると、背筋が凍った。
「さぁ、拘置監視室にいきましょう」
3人はブラッドの死体を後にした。
――――――
拘置監視室へ向かう中。
ブラッドが囁いた。
『生き残りの2体――
おそらく、ランブとシャンだろう』
「なんでそんなことわかるのよ……」
『あの2人は戦闘能力は高い上に異能の種だ。
おそらく地球人ごときでは殺すことはできない』
「……異能の種?
なにそれ?」
拘置監視室へ着いた。
室へ入ると拘置室が見下ろせた。
かなり広い部屋だ。
その部屋の中央には、
手枷と足枷に繋がれた状態で椅子に座らされた、
兜を被った鎧姿のベーダー星人が2体いた。
『やはりランブとシャンか。
随分と警戒して捕えたのだろうが、
危機管理が甘いようだ』
「?」
流がマイクをオンにして、
ベーダー星人へ声をかけた。
「もしもーし。
君たちに会いたいって人が来てるんだ。
少しくらい話をしてくれないかな?」
「……」
反応はない。
「ずっとこんな調子なんです。
何も言わない、何も食べない、何も反応がない。
一応、一日一回の点滴で栄養は
取らせてはいるんですけど、
自死する可能性もあるので目が離せないんですよ」
笛はブラッドとの付き合いがあるからだろうか、
彼らの考えていることがわかる気がした。
――情報を決して自分から開示したりしない。
死んでから、
地球人が時間をかけて調べればいい。
最後まで、戦士としてのプライドを
守っている気がした。
「彼らが口を開いてくれれば、
遺体の保管や解析作業の負担も軽減されて
楽になるんですけどね」
流がぽつりと呟いた、
次の瞬間だった――
「ランブとシャン。
俺だ、ブラッドだ」
マイクを奪い取り、
笛の身体で、笛の声で、
ブラッドが拘置室の2人へ声をかけたのだ。
「!」
固まる木庭と流――
「虎落さん。
そんなに慌てなくても、
お話できる時間は用意してますから……」
「黙れ地球人、殺すぞ……」
「へっ?」
ブラッドはもう一度マイクへ口を近付けた。
「ブラッドだ――
2人とも、よく耐えた」
今まで何一つ反応しなかった2人が、
同時に笛たちがいる監視室を見上げた。
囚われた日以来、
2人のベーダー星人が
初めて動きを見せた瞬間だった。




