13話 テンカウント
「テンカウント」
ブラッドの特殊能力名を
笛の口が呟いた。
次の瞬間――
赤い閃光がほとばしった。
その閃光は、
ギルの全身に巻き付くように
四方八方から攻撃を繰り返し、
倒れることすら許さなかった。
不気味な何かを殴り潰す音が、
怒涛のように洞窟内に響き渡った。
最初の一撃でギルの顎は砕かれ、
すでに意識は飛んでいた。
そこから地獄の10秒間――
観衆は自分たちの王の、
その惨劇を見ていることしかできなかった。
10秒後――
その場の全員の目は、
ギルの髪の毛を鷲掴みにして
持ち上げているブラッドを見ていた。
「ふむ。
最初の1秒で殺してしまっていたか。
まぁ、残りの9秒は余興だと思ってくれ」
笛の目に映る、
ギルのデータには赤文字で、
状態――死亡。
と、記されている。
「まったくもって便利な目だ。
敵の生死まで見抜いてくれるのか……」
ギルの死。
それはコーアン星人の敗北を意味した。
敗北とは敵からの侵略を許し、
すべての自由を奪われるということ。
そこには、己の生死すら含まれている。
「あぁ……ああぁぁーっ!」
「うわぁーっ!!」
「にっ、逃げろぉ!」
蜘蛛の子を散らしたように、
観衆たちは逃げ惑い始めた。
敗戦を夢にも思っていなかった彼らは、
観覧席からの出口すら確認していなかった。
逃げ惑う人々が出口で詰まり、
その場から誰も動けない。
蠢くコーアン星人の群れの中に、
ブラッドが立っていた。
そして冷淡な表情を向けながら、
彼らに告げた。
「言ったはずだ。
この場にいる以上、
俺に殺される対象に入っている
ということを忘れるな……と」
「ヒイィッ!」
笛は……
いや——ブラッドは、
次々にコーアン星人を素手だけで
始末していった。
その姿は嬉々として
殺しているわけでもなく、
必要だから殺しているわけでもなく。
ただ——
目の前にいるから殺す。
あの言葉を
体現しているかのようだった。
『ブラッド、やめて!
彼らに戦意はない!
星に返せばいいじゃない!』
笛の声も耳に入らず、
ブラッドは命乞いをする者にも
容赦なく鉄槌を下した。
数百体に及ぶ観衆たちの命は、
ブラッド1人の力で、
5分と持たなかった。
そして、
その時は突然訪れた。
『ブラッド!』
「!?」
『何者かがこっちに来るわ!』
「2、3、4体……面白い。
新手か?」
『……違う。
この感知反応は……』
「?」
『救援部隊の剛海小隊よ!』
「地球人の仲間か」
『まずいわ!』
「?」
『みんな倒れているのに、
敵が全滅していて、
わたしだけ立っているのは
どう考えてもおかしい!』
「頑張ったら勝てたとでも
言い切ったらいいだろ」
『そんなレベルの敵じゃなかったでしょ!
どう考えてもこれってSランクダンジョンよ!』
「ふむ。
しかし、なんとも便利な目だな。
お前の仲間を感知したと思えば、
到着時間まで教えてくれるのか」
『どうしよ?
なんとか誤魔化さないと……』
「普通なら仲間の功績を喜びそうなものだが、
なぜ倒せたのかを調べられるのか?
変わっているな、地球人」
『わたしって非戦闘員よ。
それがSランクダンジョンの
ボスを倒したって知れたら
絶対に研究対象になる。
間違いなく今の生活が失われる……』
「……」
『……死んだフリしかない』
「なんだそれは?」
『わたしもやられたフリして
倒れておくのよ!』
「勝ったのになぜ倒れる必要がある?」
『説明はあとよ!
倒れてちょうだい!』
「待て、
やはり意味がわからない。
なぜ倒れな——」
『食後にデザートを付けてあげる』
次の瞬間、
剛海副隊長率いる小隊が、
笛たちのいる闘技場に到着した。
「なんだ……これは?」
剛海は目に映った光景に絶句した。
ミルチャ星人の洞窟ダンジョンに、
不釣り合いな闘技場があり、
その上にミルチャ星人の死体が
無数に転がっている。
そして観覧席には、
山のように転がる未確認の宇宙人の死体。
「!」
剛海は、
闘技場で無数の死体に紛れて倒れている、
3人を発見した。
「氷河!
影井!
伊安!」
闘技場に向かって走り出す。
「良かった!
息はある!」
「!?」
「虎落はどうした!?」
剛海の脳裏に最悪の状況が浮かんだ。
「副隊長!
虎落分析官はこちらです」
笛だけは、
観覧席で倒れているところを発見された。
「分析官も意識は失っていますが、
生きています!」
「虎落も無事か。
良かった……」
剛海は胸を撫で下ろした。
「でも、どうして虎落だけ
あんなところに倒れているの?」
笛の倒れている場所。
それだけは、
剛海の中で大きな疑問として残った。
あれだけ死んだフリを拒絶していた
ブラッドだったが、
笛の提案に乗ったようだ。
「とにかくみんなを運んでここから離脱する!
状況がわからん以上、帰りも気を抜くな!」
「はっ!」
救援部隊が氷河たちを担ぎ上げる。
そんな中——
「食後にはプリン&ティラミスコンビセットだ。
約束は守ってもらうぞ」
『分かってるわよ……。
あなた、どれだけファミレス好きなのよ……』




