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58話 仕留める一矢

登場人物の番号と種族

14209番(主人公)

14210番(狐獣人)

11054番(女エルフ)

13882番(人間・少女)

07241番(熊獣人)

08511番(女竜人)

 少女の悲鳴に弾かれたように振り返ると、そこには地面を這うように急成長した不気味な木の蔓に、身体を巻き付けられて宙へと吊り上げられていく彼女の姿があった。


「13882番──っ!!」


 熊獣人が即座に救出に向かおうとするが、彼の足元では、砕けたはずのスケルトンの残骸が強固な骨の枷となり、その巨体を地面に完全に縫い付けてしまっている。


「クソッ! こりゃどうなってやがる……!」


 女竜人が驚愕の声を漏らした。彼女の視線の先──俺たちが文字通り「全滅」させたはずのスケルトンたちが、一体、また一体と、カタカタと骨の音を鳴らして再生を始めていた。だが、その骨格の隙間には、植物の根や蔓が血管のように複雑に絡みついている。トレントの意思で操られる、強化蘇生個体。


「 ────くっ!! 『グオオオオオオオ!!!』」


 身動きの取れない熊獣人が、爪付きガントレットシールドを構えて自身へ、ヘイトを集中させる凄まじい咆哮を上げた。その咆哮を受け、再生したスケルトンたちが一斉に熊獣人へと殺到する。


「07241番!!」

「来るなあっ! 13882番を頼む!!」


 狐獣人が悲鳴に近い叫び声を上げて熊獣人の元へ駆けつけようとしたが、有無を言わせぬ決死の怒声がそれを鋭く制した。己がすべての攻撃を引き受けるから、拘束された少女を救えという命懸けの指示。


(──07241番が全部引き受けて耐える気なら、俺たちが一刻も早く盤面をひっくり返すしかない……っ!)


 俺は奥歯が軋むほど強く噛み締め、心の中で熊獣人の無事を祈りながら、右手の細剣へと視線を落とした。手首に深く突き刺さる管。


「14210番、11054番! キミたちの速さを見込んで頼みがある!」

「あたしの……?」

「イレギュラーだけど作戦は続行だ。二人の機動力を生かした一撃離脱で、再生中のスケルトンから『ツタ』を確実に奪い取ってほしい。連絡は『リンクボイス』が生きてる!」


 俺の早口の指示に、狐獣人が目を見開く。俺は彼女の目を見据えた後、隣の大弓を構える女エルフへと視線を巡らせ、「お願いできるか?」と、この状況の中でできる限りの笑みを作って見せた。


「任せてちょうだい。必ずやってみせるわ!」


 女エルフが深く頷くと同時に地を蹴って走り出し、狐獣人も、後ろ髪を引かれるように一度だけ俺を振り返った後、その驚異的な速度で彼女の背を追った。


「オレはどうしたらいいっ!?」


 熊獣人の咆哮に引きずられず、こちらへ向かってくるスケルトンを大剣で叩き潰しながら、女竜人が俺に指示を仰ぐ。


「08511番は13882番の救出に向かってくれ! 彼女を縛っている蔓は、俺がどうにかする。それと、28班の連中で、少しでも戦う意思がある奴がいたら手伝うように声をかけて!」

「14209番、お前はどうするんだよっ!」


 叫ぶ女竜人の視線の先で、俺は熊獣人に群がるスケルトンの群れへと突進した。当然、足元の「罠」が牙を剥く。踏みしめたスケルトンの残骸が、生き物のように俺の膝下へとまとわりつき、強固な足枷となってその場に固定した。


「これで……少しは、あっちのヘイトが分散されるだろ」


 肉体を拘束される激痛に顔を顰めながらも、俺は不敵に笑ってみせる。


「……っ! 死ぬなよっ!!!」


 女竜人は俺の背後に迫っていたスケルトンをすれ違いざまに両断すると、弾かれたように跳躍し、一足飛びに空中へと吊り上げられていく少女の元へと向かった。


「07241番! 聞こえるか! 俺がアンタの支援に回る! 文句は一切受け付けない!」


 脳内の通信網へ向けて怒鳴るように叫ぶと同時に、俺は細剣の刀身がどこまでも伸長するイメージを脳裏に叩きつけた。

 いつでも力を解放できるよう、あえて繋いだままにしていた右手首の管を、俺の血液が激しく駆け巡る。刀身のカッターナイフの様な模様が脈打つように赤く輝き、シャラシャラと金属の擦れ合う音を立てて蛇のように伸びていく。


 腕を鋭く振り下ろし、まずは俺の周囲のスケルトン、そして遥か上空の少女の元へとイメージを指向させる。

 俺の意思を帯びた細剣の刃は、周囲のスケルトンたちの脚を正確に切り刻んで機動力を奪い、そのまま一直線に、上空約十メートルで少女を締め上げる蔓へと肉薄した。


『14209番……っ! ダメ、です……! ボクは、大丈夫、ですから……っ』


 リンクボイスを介して、蔓の締めつけに耐える少女の苦しげな声が脳を揺さぶる。

 俺は無言のままさらに自身の血を吸わせ、刀身を伸ばし、少女の身体を圧迫していた太い木の蔓を一瞬で細切れにバラバラへと解体した。

 自由になった少女の身体が空中から落下する。だが、下層からはすでに跳躍していた女竜人が滑り込み、バラバラになった蔓の破片が地面に落ちるより早く、少女の身体をしっかりと受け止めた。


『13882番の回収、完了だ! 無事だ!』


 女竜人の確信に満ちた声が脳内に響き渡る。


『私達の方はまだよ! スケルトンがさっきより格段に強くなってる! 植物の根が全身に一体化したような厄介な個体がいるわ!』

『動きが洗練されています……! ですが、唐突な方向転換への対応はまだ甘い。それと、この植物の強化個体どうしは、どうやら視界を共有しているようです!』


 スケルトンへ一撃離脱を行う女エルフと狐獣人の緊迫した報告が、同時に脳内へ届く。


(視界を共有する強化個体か……。なら、もう少し引き出すか……!)


 俺は二人の報告を頼りに、細剣への魔力とイメージの出力をさらに一段階引き上げた。それに比例して、手首の管から恐ろしい勢いで血液が奪われていく。右腕全体の血管が赤黒く発光し、焼かれるような熱と、ジグジグとした鈍い痛みが俺を襲い始める。


『14209番!! お前、何をしているっ!!』


 リンクボイス越しに、俺の急激な魔力の変動を察知した熊獣人の怒声が聞こえた。


『言ったろ! 文句は聞かないって!! アンタを、こんなところで失うわけにいかないんだよ……っ!!!』


 俺は熊獣人へ言い返すと、視界に入るすべての敵を切り刻むイメージで、右腕を振り抜いた。

 伸長した細剣の刀身は、文字通り大蛇のごとくのたうち回り、四方から迫るスケルトンの群れへと襲いかかった。

 腕を強固に噛み合わせて防御姿勢を取った民間人型も、自身の骨を剣に変形させて防ごうとした兵士型も、俺を狙っていた遠距離型も──その圧倒的な速度の前に、ことごとく砕け散っていく。その荒れ狂う刃は女エルフたちが交戦していた強化個体の骨格をも砕いた。


『再生を開始した強化個体から、ツタの採取に成功!!』

『14209番っ!! 今すぐそちらへ向かいますっ……!!』


 女エルフの声と、俺を察して焦燥に駆られた狐獣人の声が同時に響く。

 頭の芯が異常なほど冴え渡る感覚の裏で、立っていられなくなるほどの猛烈な貧血が、津波のように俺の意識を乗っ取りにかかってくる。


(まだだ……まだ、07241番の周囲の群れが残ってる……!)


「耐えろよ……俺の、身体ァッ!!」


 自身の肉体に鞭打つように咆哮し、熊獣人に群がる最後の集団に向けて刀身を放つ。

 まずは熊獣人の周囲を優しく包み込むように大きなトグロの円を描き、その外側へ刀身の先端を抜けさせると、今度は群がるスケルトンたちを外側から何重にも巻き込むように巨大な螺旋を形成した。そして──内と外から、ギリギリと万力のように細剣の幅を狭め、締め上げる。


 刀身を通じて、右手に「骨をすり潰し、粉砕する」生々しい感触が何度もフィードバックされる。確実に、すべてを圧殺している手応え。


「14209番! しっかりしろ!」


 俺の脚を縫い付けていた骨の枷を力任せに蹴り砕き、女竜人が間一髪のところで俺の崩れ落ちる身体を支えてくれた。


「28班の動ける奴らは、13882番の護衛に回して待機させてある!」

「……そうか、助かる。ありがとう……」


 視界が黒色へ染まっていく中、かろうじてそう告げると、脳内に熊獣人の安堵の混じった声が響いた。


『14209番! もう大丈夫だ、敵は全滅した!!』


 その声を合図にイメージを解き、一気に刀身を手元へと収束させる。縮んでいく金属の隙間から、全身の毛皮を血に染め、無数の傷を負った熊獣人が姿を現した。


「……怪我、大丈夫か……?」

「はっ! こんなもの、ただのかすり傷だ!」


 熊獣人は不敵に笑うと、限界を迎えた俺の身体を軽々と抱え上げ、安全圏である通路の入り口へと向かって一気に駆け出した。

 

「14209番! ツタを確保してきたわ! 次はどうするの!?」


 地下通路へと退避してきた俺たちの元へ、女エルフが息を切らせて駆け寄ってくる。その手には、植物の粘液が滴るツタが握られていた。


「……ぐっ、……そのツタの、粘液に……火がつくか、確かめてくれ……」


 異常に熱を持ち、ジンジンと脈打つ右腕の激痛に耐えながら、朦朧とする意識をどうにか繋ぎ止めて答える。


「ウチがやるよ」


 聞き覚えのある声──第28班の魔法使いが、一歩前へ出た。彼女が魔法で、女エルフの持つツタの先端へ小さな火球を近づける。

 じわじわと熱が伝わり、次の瞬間、ツタは黒煙を上げながら勢いよく燃え上がった。


(やっぱり、植物系モンスターの可燃性は生きてる……!)


 自身の確信が狂っていなかったことに深く安堵し、俺は途切れがちな声を絞り出して最後の指示を出した。


「火はつく……。なら、11054番の大弓の鏃に、その粘液を染み込ませた布を巻き付けて……火を点けてくれ。それを、トレントの『真上』の空中へ向けて放物線を描くように射るんだ。何本か同じように曲射して、確実に上空の死角から火を落とす……」

「そんなんで、あのトレントを倒せるわけねぇだろ……」


 通路の隅にいた28班の勇者が、自嘲気味に、吐き捨てるように呟いた。だが、俺たちの班のメンバーは誰一人としてその言葉を相手にせず、即座に矢の準備に取り掛かった。勇者の班の仲間たちも、静かに動き出す。


「こんな感じでいいかしら?」


 布を巻き付け、赤く燃える油量十分の大矢を番えた女エルフが、俺に視線を向けた。

「完璧だ」と、俺は震える親指を立てて笑ってみせる。


「それじゃあ、始めようか」


 俺の合図とともに、女エルフと魔法使いが通路の遮蔽から一瞬だけ身を乗り出した。トレントの視界に入らない角度、その真上へと向けて、深々と引き絞られた大弓から、赤い炎の尾を引いた矢が曲射で放たれた。

 放物線を描き、トレントの頭上から吸い込まれるように落下していく火矢。


「ほら見ろ。何も起きやしねぇ──」


 諦めきった勇者の言葉を、隣にいた狐獣人が凍りつくような冷徹な眼差しで遮った。


「黙って、よく見ていてください」


 二本、三本と、炎を纏った大矢がトレントの頭上へと正確に降り注ぎ、その鬱蒼と繁る葉の奥深くへと消えていく。

 数十秒の静寂の後──トレントの巨体から、突如として激しい黒煙が噴き出した。直後、爆発的に燃え広がった真っ赤な烈火が、蔓や幹を、真上から一気に包み込んでいく。


「これで、ひとまずは大丈夫、かな……」


 燃え盛る大樹の光を網膜に焼き付けながら、俺の意識は深い闇の底へと落ちていった。

今回も読んで頂きありがとうございます!(´▽`)

読者の皆様に、楽しんで頂けたら幸いです。

数日以内に次回を投稿する予定です!


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