57話 トレントの視界
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
「よし、行くぞっ!」
熊獣人の掛け声を合図に、俺たちはトレントへ向けて一斉に駆け出した。
前方から迫るスケルトンたちの攻撃は、まだ牽制の投石程度だ。
「そろそろですよ! 警戒を!」
並走する狐獣人が、スケルトンの攻撃ラインが近いことを鋭く告げる。
先頭を走る熊獣人が、左右の爪付きガントレットシールドを構え。彼が障害物となっている木の根を飛び越えた、その瞬間。
前方で待ち構えていたスケルトンたちが一斉に骨鳴りを響かせ、こちらへ向けて雪崩を打って駆けてきた。兵士型が先頭を、その背後から通常個体である素手のスケルトンが群れを成して追随する。
「11054番、14210番はラインの外からトレントへ向け攻撃開始!!」
剣状に尖った骨の腕を振りかざした兵士型の猛攻を、ガントレットシールドでガチリと受け止めた熊獣人が、太く鋭い声を飛ばした。指示を受けた女エルフと狐獣人の二人は、木の根のギリギリ外周を維持しながら、ターゲットであるトレント本体への攻撃へと移行する。
「三人とも気を付けて!」
女エルフが俺たち前衛に視線を向けながら、手にした大弓を引き絞る。
「こちらは安心して任せてください!」
彼女の背後で、狐獣人が身体強化を行った手で地面の石を掴み、トレントへ向けて凄まじい勢いで投擲した。
風を切り裂く音を立てて肉薄する矢と石弾。だが、それらはトレントの蔓によって、容易く叩き落とされた。
「『グオオオオオォッ!!!!』」
前線では、熊獣人が兵士型の刃を押し返しながら、群れのヘイトを自身へと集中させる咆哮を上げた。
「攻撃はお前たち二人に任せるぞっ!」
「任せときな!!」
女竜人が凶暴な笑みを浮かべて地面を蹴った。驚異的な脚力でスケルトンたちの頭上を飛び越え、背後へと着地する。熊獣人と挟み込む形での挟撃。俺の位置からは背後の乱戦は見えないが、骨が派手に砕け散る凄まじい破壊音が、彼女が攻撃していることを物語っていた。
俺は細剣を順手に握り直し、熊獣人と背中を合わせる形でその死角を埋める。
「くっ……!」
素手のスケルトンとはいえ、その指先はナイフのように鋭く、動作も狂いがない。細剣の刃で爪を受け流し、隙を突いて腹を蹴り飛ばす。体勢の崩れた頭部へ向けて、上段から一気に切り下ろした。
カタカタと音を立てて崩れ去り、物言わぬ骨の山へと戻る個体。俺はすぐに息を整え、次の一体へと視線を走らせた。
『現在、倒されたスケルトンに再生の兆候はありません……! 11054番、14210番は変わらずトレントへの攻撃・検証を継続しています』
脳内に直接、少女の澄んだ声が響く。『リンクボイス』による会話網だ。耳を介さず頭に直接届く感覚には奇妙な違和感があるが、後方から懸命に周囲を見渡してくれている彼女の報告は、乱戦の中で何よりも心強かった。
「ヌンッ!!」
熊獣人が迫る刃をシールドの面で弾き、その衝撃を逃がさず前方に指向性を持たせて叩きつける。衝撃で怯んだスケルトンへ、もう片方のシールドから伸びる爪を突き立て、その胴体を一文字に真っ二つへと引き裂いた。
熊獣人が引き受けた圧倒的なヘイトのおかげで、俺たちを囲んでいた敵の数は瞬く間に減っていく。最初に俺が倒した個体も含め、なぜか今回のスケルトンは一切再生する気配を見せない。
そのまましばらく剣を振り続けていると、やがて約五十体ほどいたスケルトンの群れは完全にその姿を残骸へと変えた。
女竜人が土埃に塗れた自身の鎧をはたきながら、大剣を肩に担いで俺たちの元へと歩み寄ってくる。
「今回はやけにすんなり全滅できたな。一体も復活する気配がねぇ」
「だからこそ不気味だ。何か仕掛けてくるつもりだろうな」
女竜人の怪訝な呟きに、熊獣人は一切の警戒を解くことなく、鋭い視線で周囲を油断なく睨み据えた。
『11054番、14210番の両名がそちらへ合流します』
少女の報告の直後、女エルフと狐獣人が姿を現した。
「あら、貴方達の方のスケルトンも再生していないのね」
戦闘モード特有の引き締まった表情と声の女エルフが、散らばる骨の残骸を見回しながら近づいてくる。その背後では、狐獣人が長い耳を様々な方向へ小刻みに動かし、周囲の微細な音を拾いながら警戒を崩さずに歩いていた。
「トレントの視界は、どれくらいだった?」
俺は細剣を構えたまま、戻ってきた二人に問いかけた。
「二人でそれぞれ位置を変えて死角になりそうな場所から攻撃を行いましたが……いずれも完璧なタイミングで蔓により防がれました」
「前後左右、全て叩き落とされたわ」
狐獣人が検証結果を報告し、女エルフが忌々しげに全方向がカバーされている事実を告げる。
「前後左右……地面と水平方向に360度がトレントの知覚範囲か。わかった。ありがとう、二人とも」
俺は二人から受けた報告を頭の中でまとめ、短く感謝を口にした。
「それにしても、妙だな。スケルトンの再生が全くないのは、本当に何故だ……?」
熊獣人が顎に手を当てて思考を巡らせ、一歩、スケルトンの残骸を踏みしめた──その瞬間だった。
『07241番! 足元が──っ!!』
脳内を突き刺すような少女の悲鳴混じりの警告。
直後、熊獣人の足元に散らばっていた無数の骨屑が、生き物のように異常な速度で組み換わり、彼の巨体を地面へと縫い付ける強固な『骨の枷』となってその脚へ獰猛に食い込んだ。
「なにっ……!? くそ、動かん……!」
『きゃああああああっ!? 』
熊獣人の驚愕の呻きとほぼ同時に、後方から、少女の引き裂かれたような悲鳴が『リンクボイス』を伝って俺たちの脳内へと直接響き渡った。
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