56話 女竜人の怒り
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
書き方を試行錯誤中なので、前回までと違うテイストになっているかと思いますが、ご了承ください
「目標の確認だ。今から俺達はスケルトンの群れを抜け、トレントとの近接戦闘に入る。狙いは討伐じゃなく、ツタの入手、及びトレントの視界の確認だ。トレントの蔦はスケルトンの破壊後、再生を行う際に出現することが確認されている。狙い目はスケルトンの再生中だろう。再生中に再度攻撃を行い入手する。
視界の確認に関しては11054番、14210番に一任する。ただし、無理は禁物だ。いいな? 13882番は魔力の温存のためサポートに徹してくれ。『リンクボイス』で俺達の間の会話網を築いて、キミから確認できたことも逐一報告して欲しい。俺、14209番、08511番はトレントのツタを狙うぞ。恐らくここが一番大変なところだろうが、やり遂げるぞ」
熊獣人が静かに目標の確認と共有を行った。
トレントの視界の確認は女エルフと狐獣人。トレントのツタの入手は俺、熊獣人、女竜人で行い、魔法職の少女は魔力温存のために『リンクボイス』を使用。その後はトレントとスケルトンの様子を確認し、前線の俺たちに報告する等のサポートに回ってもらう作戦だ。
「「「了解!(しました)」」」
俺たちが力強く頷き、熊獣人の合図を待とうとしたその時──フラフラとしたおぼつかない足取りで、28班の勇者が近づいてきた。
「なんだ? お前に構っている暇はない」
「熊……お前たちは毎回、そんなやり取りをしているのか?」
俺たちの作戦前のブリーフィングを聞いていたのだろう。勇者は熊獣人に向けて、信じられないものを見るような目を向けた。
「俺は防衛隊の隊長だった。領土と班の仲間を守るのが職務だ」
「あいにく〜? 私たちのメンバーに勇者様はいないからね〜。間違っても未知の敵相手に、油断はしないようにしてるの〜」
熊獣人が鋭い視線で自身の役目を語ると、女エルフが目を細め、おちょくるように言葉を投げた。
「未知……だと? お前らの世界にはスケルトンもいなかったのか!?」
勇者が驚愕に目を見開く。
「そうじゃありません。スケルトンはあたし達の世界にもいましたよ。ただし、各々の世界においての強さなどは異なります。だから『未知』と表現したのです」
「スケルトンなんて、雑魚だろ! なんでそこまで慎重になる必要があるんだ!! さっさと──ぶはっ!?」
狐獣人の呆れたような説明を遮り、怒鳴り散らそうとした勇者の顔面を、女竜人の拳が容赦なく殴りつけた。
鈍い音が響く。それだけに留まらず、二度、三度。激しい怒りを宿した拳が叩き込まれ、四度目の拳が振り下ろされる直前で、ようやく熊獣人がその手首を掴んで止めた。
「08511番。よせ、やりすぎだ」
「テメェの武器が失くなっても、まだそんな寝言を言いやがるか……!」
熊獣人に腕を抑えられた女竜人は、地面に倒れた勇者を殺気混じりに睨みつける。
「勇者よお。今のお前と同じように、ゴブリン一体を舐めて挑んだ班がいた。その結果、どうなったか分かるか?」
「ゴブリン一体くらい、瞬殺だろ……っ!? がはっ!」
吐き捨てた勇者の身体を、今度はスケルトンを容易く砕く強靭な尾が容赦なく薙ぎ払った。加減はしているようだが、地面を転がる勇者はまともに息ができていない。女竜人の怒りは、それほど本物だった。
「オレ以外、全滅だよ……!」
「……貴女以外、全滅……?」
地下通路の奥から響く怒声に気づいたのか、駆けつけてきた聖女が驚愕の声を漏らした。その後ろからは28班のサイ獣人と魔法使いも続いていたが、いずれも目を見開いて硬直している。ただ一人、魔法使いの弟だけが、床で悶える勇者を冷ややかな目で見下ろしていた。
「コイツらとは、最初は違う班だったんだよ」
「ボクたちは……08511番の居た班と、偶然にも目標が同じだったんです。戦闘音が聞こえて向かった先に、彼女たちとゴブリンが戦っていました……」
「その時はまだ、08511番ともう一名の生存者がいたのですが」
女竜人の言葉を引き継ぐように、少女と狐獣人が静かに語る。
「あぁ、そのもう一人は逃走して、すぐに刻印が発動して処刑された。オレらに刻まれた罪人の刻印がハッタリでも何でもねぇってことを、ソイツが身をもって証明した形さ」
勇者は「ゴブリンにビビって逃げた」という言葉に薄らと嘲笑を浮かべようとしたが、続く女竜人の冷酷な事実に、28班全員の表情が凍りついた。
「魔法使いの魔法が上手く発動しなかったんだ。その隙を突いたゴブリンに飛びかかられ、容易く首をねじ切られた。あっという間だったさ。すぐに斥候が麻痺ナイフを投げつけたが、奴の皮膚に弾かれた。ゴブリンはそのナイフを拾うと、逆に斥候へ向けて投げ返したんだ。片足を切断され、地面でのたうち回る斥候の胸に、奴は容赦なく手を突き刺し心臓を貫いた……。リーダーの重戦士が気を引こうとしたが、呆気なく壁に投げ飛ばされ、笑いながらボロ雑巾みたいに殴り殺されたよ。オレは何度も、何度もゴブリンに斬りかかった。だが奴は、嘲笑うかのようにオレの方を見もせず、片手で羽虫みたいに振り払いやがった……! 心が折れそうだった。たかがゴブリンに、手も足も出ないという現実に……!」
女竜人は、今なお消えない悔しさと後悔を滲ませ、28班へ向けて残酷な現実を突きつけた。
「魔法が、上手く発動しない……? 私と、同じ……」
「ナイフが刺さらない、ゴブリンだと……?」
聖女は女竜人の言葉にハッとし、勇者はただ驚愕に震えている。
──ゴブリンにビビって逃げた。その事実を、俺は否定できない。
正直、俺だってあの場に居合わせなければ「ゴブリンなんて雑魚だ」と高を括っていただろう。ゲームの中じゃスライムと並ぶ最弱の代名詞だったのだから。だが、あの初陣の絶望を知った今では、もしあの初任務がなければ、真っ先に死んでいたのは俺の方だったと確信できる。
「聖女の驚きもわかるわ〜。私も、13882番も、上手く魔法が発動しなくて本当に驚いたもの〜」
女エルフがかつての戦闘を思い出すように斜め上を見上げて喋り、少女が静かに頷く。
「……この世界では、ボクたち魔法使いは魔法の発動が阻害されているんです。この世界を満たす、魔力によって。無理をすれば発動させることは可能かもしれませんが……やらない方がいいです。魔力の回復もできませんから……」
「魔力の回復ができない……だと……っ!?」
「そうですよ。あたし達はこの世界では魔力の自然回復は行われません。ちなみに、14209番には最初から魔力はありません」
少女の追い打ちのような発言に、勇者の表情がいよいよ絶望に染まっていく。狐獣人は俺の腕をそっと握りながら、俺が魔力を持たない身体であることを淡々と補足した。
「な……、そんな……」
「さぁ、お喋りはここまでだ。08511番、その怒りはトレントにぶつけよう。今の俺達は、確かに前進しているんだ」
勇者が絶句する絶望の最中、熊獣人が一言で場の空気を張り詰めさせた。
「あぁ。そうだな」
女竜人は頭を振り、自分の頬をパンッ! と叩いて力強く頷く。その瞳には、かつての絶望ではなく、戦う者の鋭い光が戻っていた。
──よし、俺も気合いを入れてツタを入手しないとな。
俺たちは前方のトレントへと視線を向けた。
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