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55/59

55話 トレント

登場人物の番号と種族

14209番(主人公)

14210番(狐獣人)

11054番(女エルフ)

13882番(人間・少女)

07241番(熊獣人)

08511番(女竜人)

 勇者が膝から崩れ落ちる。

「な...なんでだ...」

 勇者の口から漏れたその言葉は風の中へ溶けていく。

 熊獣人が片手で盾を構え、もう片方で膝まづく勇者の首元をむんずと掴み上げ、そのまま荷物のように第28班と俺たちの方へ向けて放り投げた。

 放物線を描いたその身体を受け止める者は誰もおらず、勇者は地面へと全身を打ち付けるように転がった。彼は立ち上がることもなく、ただ土に塗れたまま放心している。

 俺が近づいて様子を見てみると、彼はひたすらにぶつぶつと独り言を呟いていた。自身の一撃がなんのダメージも与えられず、さらに聖剣が崩れさった現実が、余程堪えているように見えた。

「リーダーはウチらで様子見とくよ」

 第28班の魔法使いが、呆れたような目で勇者を眺めながら言う。そして、その隣に立つ魔法使いの弟が、俺たちを見据えながら告げた。

「行ってください」

「分かりました。勇者の面倒はちゃんと見ててくださいね。...では、行きましょうか、07241番と08511番にどやされる前に」

 狐獣人が魔法使い達へ言葉を返すと、俺たちへと言葉をかける。俺たちは第28班へ背を向け、通路の入口でスケルトンの攻撃を防ぎ続けている二人の元へ向かった。

 

「28班の勇者の様子はどうだ?」

 盾を構える熊獣人の元へ着くと、熊獣人から俺へ向けて声が掛かる。

「攻撃が通らなかったからか、聖剣を失ったのが堪えたのか、独り言を呟いて放心状態だったよ」

 返す俺の言葉を聞いた熊獣人は、視線を前方に固定したまま「そうか」とひと言だけ言った。

「スケルトンからの攻撃はどう?」

「散発的だな。ある一定のラインから俺たちへ攻撃が行われているが、今のところ遠距離型は見当たらない」

「しかも奴ら、オレたちが出てきた途端後ろへ下がりやがった。今はほぼ睨み合いだ」

 俺の質問に、熊獣人と女竜人がそれぞれスケルトンからの攻撃を防ぎながら答える。

 二人の言葉を聞きながら、スケルトンの群れへと視線を向ける。確かに奴らは、ある一定の距離を保ったまま俺たちへの派手な攻撃を仕掛けてこない。散発的に、武器を持たない素手のスケルトンが、足元の石ころを投げつけてくるだけだった。

「本体が...俺たちとの境界線を作っているのか…?」

 スケルトンたちの投石も、明確な殺意を孕んだ攻撃というよりかは、まるで民間人が怯えて石ころを投げているような、一種の威嚇行動に見える。

「とにかく、そのラインに入ってみるしかありませんね」

 俺の独り言を聞いていたのだろう、狐獣人が不敵に俺へ視線を向けると、一瞬の踏み込みでスケルトンの群れへと単身突撃した。

 ところどころ巨大な木の根が浮かび上がり、デコボコとした地面。そこを狐獣人は器用に走り抜け、スケルトンへと一気に距離を詰める。

 彼女が一際大きくせり出した木の根を越えた、その瞬間だった。

 それまで大人しかったスケルトン達が一斉に凶暴な反応を示した。その中から、自身の骨の手の形状を鋭い剣へと変化させ、ボロボロの鎧を身に纏う『兵士型』のスケルトンが、狐獣人へと飛びかかった。

 狐獣人はその一撃を避け、短槍で捌く。そして、せり出す木の根に引っかからないよう、器用なバックステップを繰り出し、俺たちのもとへと戻ってくると息を整えて口を開いた。

「という感じで、一際目立つ根がスケルトンの攻撃ラインのようです。巨木へと近づくのはかなり危険で大変ですね」

「それなら〜、これはどうかしら?」

 狐獣人の報告を聞いた女エルフが、それまでの間延びした口調から一転、鋭い声へと変化させた。彼女は手に持つ大弓を力強く構え、大矢を番えると、弦を引き絞る。

 ――ビュンッ!!!

 重い風切り音を周囲に轟かせ、大弓から大矢が放たれた。空気を切り裂き、真っ直ぐに巨木へと向けて飛んでいく矢は、その巨大な幹へと突き刺さるかに見えた。

 だが、その矢が巨木へと突き立つ直前、幹に巻き付いていた太い蔓が生き物のように跳ね伸び、飛来した矢を容赦なく叩き落とした。

「蔦、蔓、骨。あの巨木...トレントが操るの、多いですね...」

 その防衛能力を目の当たりにした少女は、そう呟くと自身の小さな手をモジモジと動かした。

「どうかしたか?13882番」

「…いえ、あんな大きなトレントをボクたちでも倒せるのかなって...近づくとスケルトンが襲ってきて、倒すと再生されて、遠くから攻撃しても蔓で対応される。どうやればいいんでしょう…」

 少女の異変に気づいた熊獣人が声をかけると、彼女は顔を俯かせて弱気な言葉を口にした。正直、その行き詰まり感は俺自身の頭にもよぎったものではあるが、あえて口にはしなかった言葉だ。

「たしかに、決め手が見つからないが、あのトレントにも弱点はあるはずだ。だから、まだそんな言葉を吐いてる場合じゃないぞ」

 熊獣人は、スケルトンから執拗に投げ込まれる石を爪付きガントレットシールドで無造作に弾きながら、少女へと諭すように優しく声をかけた。

「ご、ごめんなさい...」

「謝らなくても大丈夫ですよ。あたし達はもう二度もこの世界のモンスターを倒しました。きっと、三度目も倒せます」

咄嗟に謝る少女に対し、狐獣人がその頭を優しく撫でながら励ます。幸い、スケルトン達からの全力の攻撃は、あの一定のラインを超えなければ行われないため、こちらにはまだ多少の思考の余裕がある。

「もう少し情報が欲しいな…」

 俺の口からぽつりと漏れ出た言葉に、その場の全員の視線が注目した。

「何かあるのか?」

 その中で、代表として熊獣人が俺に声をかける。

「うん、ある。けど、それが可能かわからないから巨木...トレントの蔦が欲しい」

「ツタっていうと、スケルトンを再生させてるやつか?」

 俺の突飛な要求に、女竜人が怪訝そうに反応した。

「そうそれ。それとトレントの視界を知りたいよね」

「視界…?」

「みんなの世界のトレントがどういうのか知らないけど、俺が知ってるのは木に顔がついてるんだ。それで、目で見て対象と会話をしたりするモンスター、なんだけどもしかしたらこのトレントにも見えてる世界があるのかなって思って」

 女竜人の確認するかのような言葉に頷きながら答え、さらに続けた俺の言葉に少女が不思議そうに首を傾げた。そのため、俺は全員に向けて、元の世界で俺が知る『トレント』の概念を説明した。

「なるほどな。モンスターの存在しない14209番の世界だからこそのトレントのあり方か」

「それなら、もう一度乱戦に持ち込んでスケルトンを再生させるしかないようね」

 熊獣人が納得したように深く頷き、女エルフはすでに大弓を握り直して、俺の欲しいものを絶対に得てやると言わんばかりの力強い笑みを浮かべた。

今回も読んで頂きありがとうございます!(´▽`)

読者の皆様に、楽しんで頂けたら幸いです。

数日以内に次回を投稿する予定です!


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