53話 本体
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
「『ロック・ウォール!』」
「『ライト!』」
第28班の負傷したメンバーを全員、屋敷へと繋がる地下通路へ退避させた直後、少女が魔法を唱えて入り口を岩壁で閉鎖、28班の魔法使いがすぐさま光を灯す魔法を使用し周囲を照らした。
その瞬間、第28班のリーダーを務める勇者が、血相を変えて俺の胸ぐらへと激しく掴みかかってきた。
「おい、俺達を通路に押し込めてどうしようっていうんだ!? お前達、あの骸骨どもを全部自分達で倒して、手柄にするつもりだな!!」
「ほんとに、自分のことしか見えてないのねぇ〜」
「んだと、耳長族風情がっ!!」
俺に掴みかかる勇者を見ていた女エルフが、心底呆れたように冷たく呟いた独り言にすら、勇者は過剰に反応した。
「やめてよっ、リーダー!!」
勇者の後ろから、第28班のヒーラーを務める聖女が、その腕にしがみつきながら彼を制止しようとする。
「うるせえ! 元はといえば、お前の回復魔法がまるで役に立たないからこんな状況になったんだろうが!!」
「リーダーがみんなの話を少しでも聞いていれば、こんなことにはそもそもならなかったのよっ! 32班の人たちを待ってから動こうってみんな言ってたじゃない!!」
勇者が聖女の手を乱暴に振りほどきながら怒鳴りつけると、負けじと聖女も言葉を激しく言い返す。
(32班が合流する前に、さっさとウチらだけで終わらせるぞ)
魔法使いから聞いた言葉が脳裏をよぎる。あの時、彼女が言った言葉は、何一つ間違っていなかったようだ。この男は、最初から仲間を顧みてなどいない。
「あの、もういいですか? ここで貴方の癇癪に付き合っている暇は、アタシ達にはないんです」
28班の勇者と聖女の言い合いが続くなか、狐獣人が酷く冷めきった声で勇者へと声をかけた。
「この狐……!? ──ガハッ!!」
怒りで顔を真っ赤に染めた勇者が狐獣人の言葉に色めき立ち、彼女へと詰め寄ろうとした、その時だった。突如として勇者が短く呻き、その場に崩れ落ちるように膝を突いた。
「いい加減にしてください」
続いて、ハスキーな少年のような声音が静かに響き、フラフラとした危うい足取りのまま、魔法使いに肩を貸された人影が近づいてきた。
勇者の動きを止めたのは、魔法使いの双子の弟──28班において斥候を務める、水精族の彼だった。彼の手には小さな石ころが握られており、指弾の要領で勇者の首へ撃ち込んだのだろう。その顔つきは姉の魔法使いと瓜二つだったが、左目の下にある小さな泣きぼくろが印象的だった。
「貴方の勝手な暴走も、それを止められずに付き合ってしまった僕たちにも非はあります。ですが、リーダー。貴方のその聖剣には、もう何の『力』も残っていないことを、いい加減自覚してください」
そう言い放った魔法使いの弟は、手の中の石ころを地面に捨てると、右手で勇者の腰元を指さした。
その指先を追って、勇者の左腰に下げられた剣を全員の視線が貫く。本来であれば煌びやかな装飾が施されているはずの鞘は、銅色の錆に包まれて酷くくすんでおり、鞘の隙間から僅かに覗く聖剣の刀身も、至る所が錆びついていた。とてもではないが、聖剣には見えない無惨な有様だった。
「それが……聖剣、ですって?」
信じられないといった声を漏らしたのは、女エルフだった。いつもの間延びした声ではなく、悲痛と怒りの両方に塗れた複雑な表情を浮かべた彼女は、地面で悶える勇者へと歩み寄ると、その聖剣の柄にそっと手を触れた。
「───……っ」
柄に触れた瞬間、女エルフは驚愕に目を見開き、それから深く苦しげに目を伏せた。
「エルフの貴女も、気が付きましたか」
魔法使いの弟は女エルフに短く声をかけると、肩を貸す姉と共に勇者を無理やり立ち上がらせ、俺たちの前に突き出すように一歩前に進ませた。
「32班の皆さん。リーダーはどうしてもこの任務で自らの力を示したいようですので、どうかその実力を見てやってください。──リーダーも、本気の一撃をスケルトンに与えてください」
「───言われなくても、やってやるよ……!!」
魔法使いの弟の言葉に、首を押さえながら勇者が忌々しげに答える。その様子を見届けた熊獣人が、俺へと向き直って声をかけてきた。
「それで、14209番。何に気がついたんだ?」
熊獣人の問いかけに、俺は周囲の全員にはっきりと聞こえる声で答えた。
「28班のみんなにも共有させてほしい。……スケルトンが破壊されてから再生する、その瞬間。骨の隙間で光る糸のようなものが見えたんだ。この糸が、バラバラになったスケルトンの骨同士をくっつけて再生させていた。だから俺は最初、スケルトンの中にそういう特殊な再生能力を持つ特殊な個体──『本体』がいて、そいつが周囲を操っているんだと考えた」
「そこまでは、オレ達もさっき聞いた内容だな」
「その他にも、何か見えたんでしょ〜?」
俺の言葉に女竜人が腕を組みながら頷き、女エルフが非戦闘モードの間延びしたいつもの声で、話の続きを促した。
「11054番の言う通り。さっき28班のみんなを助けに行く時、08511番に正面の道を切り開いてもらったでしょ? その時に破壊された一体が、凄まじい速度で体を再構築していくのが見えて、その時、光る糸の『本当の正体』を見ることができたんだ」
「……糸の正体、ですか?」
俺の言葉に、狐獣人が不思議そうに耳を傾けて首を傾げる。
「『ツタ』だ。粘液が周囲の光に反射していただけだった。その粘液に塗れた植物のツタが、スケルトンの残骸同士を引き寄せ、結合させていたんだ」
「……もしかしてそのツタの発生源が……」
俺の言葉の先にある事実に気がついた少女が、自身の肩を僅かに震わせながら声を漏らした。
「そう。28班を今まで避難させていた、あの大きな木だ。あの巨木の周辺にいるスケルトンだけ、他とは比べ物にならないほど異様に再生速度が早かった。だから、倒すべき本体はスケルトンじゃない。あの『巨木』そのものだ」
「スケルトンを操る……トレント……」
俺の導き出した答えに、熊獣人は信じられないといった表情を浮かべ、驚愕の声を絞り出した。
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