50話 予想外の事態
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
十体のスケルトンは、十分もしないうちに全滅した。
「やはり、俺達が今まで戦ってきたあの二体より弱く感じるな。動きも鈍く、近接武器を持った姿に変化したといっても、そこまでの脅威は感じねぇ」
熊獣人が、スケルトンの残骸を見下ろしつつそんな感想を漏らす。
「13882番(少女)の身体強化魔法がすごく身体に馴染んでくれたおかげです。体に振り回される感覚が一切なくて、とてもいい感じでした」
「そうねぇ〜。前より感覚が格段に鋭くなって、相手の攻撃を事前に察知できるようになったわ〜」
狐獣人の言葉に、女エルフが非戦闘モードのいつもの間延びした声で同意した。
「しかし、ここまで粉々に叩き潰してやったが、コイツら本当にまだ復活すんのかねぇ?」
「……すると思うよ。なんて言ったらいいか分からないけど、さっきから肌が粟立つような、妙な不快感が消えないんだ」
バラバラになったスケルトンの残骸を大剣の先で突つきながら疑問を呈する女竜人に、胸をザワザワと焦がす不安が残る俺は、地面の残骸を注視したままそう答えた。
その時だった。
「――きゃああああっ!!!」
警戒を解かずにいたはずの俺たちの背後――後方から、突如として少女の引き裂くような悲鳴が上がり、同時にバリバリと凄まじい音を立てて近くの木がドサリと倒れ込んだ。
「なんだっ!?」
熊獣人がすぐさま踵を返し、少女の元へ向けて凄まじい脚力で弾かれたように駆けた。
「11054番、14210番、08511番はこのままここでスケルトンの警戒をお願い! 俺と07241番で向かう!」
俺は先行した熊獣人を追う前に三人にそれだけ告げると、全速力で少女の元へと向かった。
少女を待機させていた場所までの距離はそこまで長くない。およそ五十メートルほどだ。
「どうした、13882番……!?」
「大丈夫!? ……って、なんだ、これ……っ!?」
少女の元へと到着した熊獣人が、尻もちをつく少女を背後に庇うようにして前に立ち、両腕の爪付きガントレットシールドを構える。少女へと声をかける俺たちだったが、その視界に飛び込んできた光景に、一瞬で言葉を失った。
──────俺たちが第28班を避難させた場所。そこを埋め尽くすように、新手のスケルトンが出現していた────────
数は、先ほど俺たちが相手にしていた十体の比ではない。
カタカタカタカタと骨の身体を不気味に鳴らしたスケルトンの群れが、第28班を完全に包囲している。さらに、俺たちの間に立ち塞がるスケルトンのうち、遠距離型に『成長』を遂げた一体が、真っ直ぐ少女へとその左腕を向けていた。
少女は尻もちをつく形にはなってしまったものの、間一髪でその遠距離型スケルトンからの骨弾を避けていた。外れた骨の弾丸が背後の木へと直撃し、それが先ほどの倒木の原因だったのだ。
第28班を避難させていた場所は、俺たちが出てきた地下通路の出口近くにそびえ立つ、巨大な木の洞の中だ。そこへ向けて、およそ五十体を超えるスケルトンの大群が出現し、完全な包囲網を敷いている。
しかも、第28班と俺たち第32班の間を遮るように出現したスケルトンのその全てが遠距離攻撃の特性を持っていた。最悪なことに、女エルフたち三人に警戒待機させていた場所のスケルトン十体も、完全に体の再構築を終えて復活してしまったようだ。
少女の前に立ち塞がって盾を構える熊獣人と、少女の背後を死守するように細剣を構える俺。その視線の先では、それぞれの地点で既に苛烈な戦闘が再開されていた。第28班のいる木の洞の方では、あの勇者が必死に戦っているのだろう、裂帛の気合いを上げる叫び声が響いてくる。
「完全に挟まれているな。だが、28班の方には一斉にスケルトンが襲いかかっている訳でもない。急ぐに越したことはねぇが、この数を正面突破するのはかなり骨が折れるぞ……。13882番、立てるか?」
「た、助けてくれてありがとうございますっ……! えと、その……こ、腰が抜けちゃって……。ごめんなさい……っ」
「いいから手を貸してあげる。ほら、掴まって!」
熊獣人が第28班と俺たちを遮るスケルトンの大群を睨みつけながら声をかけるが、少女は恐怖のあまり腰が抜けて立ち上がれずにいた。そのため、俺が優しく手を貸して上へと少女の身体を引っ張り上げて立たせると、改めて熊獣人と同じ方向を見据えた。
「後ろの十体と戦闘している三人をここに呼べば、突破自体はできそうだけど……問題はその先だよね」
「あぁ。28班の連中を全員回収して撤退に移ったとして、『アルビノ・グナッシャー・ラット』が空けたあの地下通路まで引き返すにも、絶えずスケルトンを倒しながら進まなければならない。それに、仮に首尾よく地下通路まで到達できたとしても、このスケルトンの大群が俺達の後を追って地下を通り、王都の内部へと一気になだれ込む可能性が非常に高い」
俺の言葉に頷いた熊獣人は、その先に待つ最悪の予測を苦い声で続けた。
俺は会話を交わしながらも、ひたすらに三人が蹴散らしているスケルトンと、第28班の勇者が必死に倒し続けているスケルトン達の挙動を、集中して観察し続けた。
――そして、気がついた。
少しずつではあるが、明らかにスケルトン達の再生速度が上がっている。
それだけではない。損傷の度合いによっては、女竜人たちに激しく吹き飛ばされ、宙に舞った状態のまま体を再生し始め、地面に着地した瞬間には既に元の姿で再度攻撃行動に移っている個体すら存在した。
だが、その再生の瞬間、骨の隙間から、わずかではあるが「きらめく何か」が光を放ち、それがまるで接着剤のようにスケルトンを瞬時に修復している光景が、俺の眼に確かに捉えられた。
「13882番。ここから、向こうの11054番達に声を届ける魔法とかは使えたりするかな?」
「あ、はい! 可能です!『リンク・ボイス』!……えっと、14209番、そのまま喋ってみてください……!」
「みんな、聞こえるかな!? 敵の再生に関して、少し気がついたことがあるんだ。そっちのスケルトンを一度倒し終えたら、すぐに俺たちと合流してほしい!」
俺は掴んだ違和感を共有するために一度全員を集めることに決め、少女へ声を届ける手段がないか問いかけると、彼女はすぐさま新しい魔法を発動してくれた。後に聞いた話だが、この魔法は少女の元の世界ではごく一般的なもので、魔力消費は極めてわずか。俺の世界でいうところの「電話」と同じ感覚で使える便利な術のようだった。
左右のガントレットシールドを再び大盾として合体させ、容赦なく飛んでくるスケルトンからの骨弾を完全に防ぎきってくれている熊獣人に前方の防御を任せ、しばらく凌いでいると――やがて、後方から女エルフ、狐獣人、女竜人の三人が俺たちの元へと合流を果たした。
「いきなり頭の中に14209番の声が聞こえてきて、めちゃくちゃ驚いたぜ……」
「それで、気がついたことって一体何かしら?」
俺の隣へと滑り込んだ女竜人がそう口にすると、それに重ねるように、戦闘モードを維持したままの女エルフが、その美しい翡翠色の瞳を真っ直ぐ俺へと向け、真剣な声音で問いかけてきた。
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