46話 暗闇を歩く
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
周囲の暗闇に、自分たちの地面を踏みしめる足音だけが重く響き渡る。
体感的には、もう一時間以上は歩き続けているのではないだろうか。先を急いだ第28班の足跡を辿っているが、正面には熊獣人が持つ松明の灯り以外、一切の光が見えないのが肉体的にも精神的にも堪えた。
いつまた『シャドウ・イミテーション』のような魔物の急襲があるかも分からない空間を進むのは、想像以上に精神の消耗が激しい。
俺が肩を貸している28班の魔法使いの息遣いは、先ほどから荒いままだ。それでも、彼女の「先へ進む」という強い意思が痛いほど伝わってくるからこそ、俺たちはその歩みを止めずに前へと進む。
さらに黙々と一時間ほど歩き続けた頃、ようやく正面の闇の奥に、うっすらとした光が見え始めてきた。
「……外の光、でしょうか?」
「ようやくこの暗い穴から抜け出せるぜ……」
暗闇の先に微かな希望を見出した少女の呟きに、心底気が滅入っていたと言わんばかりの、女竜人のダルそうな声が重なった。
「11054番(女エルフ)、14210番(狐獣人)。あの先から、何か感じるか?」
先頭を歩く熊獣人が声をかけると、優れた索敵能力を持つ二人がすぐに耳や鼻を澄ませた。
「うーん……今のところは、特に何も感じないわねぇ〜」
「私も11054番と同じく、不審な物音や臭いは感知できません」
(俺たち第32班の中でも、抜きんでて目と鼻が利く二人が何も感じないなんて……。本当にただの出口?)
俺はほんの少しの違和感を覚えた。探索のエキスパートとも言える彼女たちが「何も見えない、感じない」と言うのはむしろ逆に不気味だった。
「あの光の先に、ウチの……あっ! ──が、ああぁっ……!!」
「10089番(魔法使い)!?」
隣を歩いていた彼女がいきなり胸を掻きむしるようにして激しく苦しみ出し、俺は驚いてその身体を強く支えた。おそらく、この先にいるであろう双子の弟の本名を口にしようとしたのだろう。
「───はぁっ、はぁ……っ。もう、大丈夫。ごめん……」
やがて喉を焼くような激痛が引いたのか、魔法使いは青ざめた顔で俺を見上げ、ボソリと小さく謝罪した。
「謝らなくてもいいよ。この先に大切な家族がいるかもしれないって思ったら、誰だって名前のひとつやふたつ、呼びたくもなるさ」
「……俺たちに刻まれた『罪人の刻印』。つくづく、忌々しい呪いだな。家族の名前を呼ぶことすら許さない。どこまでも犯罪者は『人』ではなく『道具』なのだと、徹底的に教られている気分だ……」
魔法使いへの俺の返答に続くように、熊獣人がぽつりと言葉を落とした。こちらを振り返ることはなかったが、前方を行く彼の大きな背中は、刻印への静かな怒りで微かに震えているように見えた。
「魔王の討伐を果たす、その日まで……か」
「それまではお互いの本名すら呼べない。……まるで、勇者とは名ばかりの道具のようですね」
俺の口から不意に漏れた呟きに、狐獣人が皮肉を重ねる。
その言葉を聞いた瞬間、俺たちは誰からともなく、小さく乾いた笑声を漏らしてしまった。
本当に、心からそう思ったからだ。悲しむでもなく、涙が出るでもなく、ただおかしさが込み上げてきた。これは決して面白いから笑ったんじゃない。この理不尽な刻印への怒りで色んな感情を通り越した末に、出てきた唯一の感情が「笑い」だったのだ。
「――魔法使いさん。これからは、キミのことをそう呼んでもいいかな?」
ひとしきり笑った後、俺は隣の28班の魔法使いへと話しかけた。
「……構わないよ。ウチのジョブはその通りだしね」
「ありがとう。第28班のみんなのことも、これからずっと番号で呼ぶってなると、俺の頭が爆発しそうだったんだ。ジョブで呼べば、君たちのパーティーの誰を指しているかもすぐに分かりやすいしね」
「魔法使いさんも〜、私たちのことは好きに呼んでいいからね〜?」
俺たちの会話を聞いていた女エルフが、魔法使いの正面へと回り込み、歩調を合わせて歩きながら微笑みかけた。松明の逆光で少し陰になっていたが、その眼差しは、とても優しいものだった。
だんだんと正面の光が大きくなり、肌を撫でる風が、地下特有のジメッとした湿気から、地上のような心地のいいサラッとしたものへと変わり始めた、その時だった。
「――戦闘音です!」
狐獣人が、それまでの静寂を切り裂くような鋭い声を響かせた。
「急ぐぞッ!!!」
熊獣人の怒号が通路に木霊する。狐獣人と女竜人がほぼ同時に光の先へと地を蹴り加速する。
怪我を負った魔法使いの足では、この速度には絶対に追いつけない。
「ちょっと失礼するよ!」
「えっ、あ――!?」
俺は一言断るや否や、彼女の華奢な身体を横から強引に、お姫様抱っこの形で腕の中へと抱え上げると光の差し込む通路の出口へと向かって、仲間たちの背中を全力で追いかけた。
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