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42/59

42話 出発

登場人物の番号と種族

14209番(主人公)

14210番(狐獣人)

11054番(女エルフ)

13882番(人間・少女)

07241番(熊獣人)

08511番(女竜人)

「皆さん! 本当にお気をつけてっ!!」

「「「いってきます(くる)!」」」

 ククル鍛冶店の中で装備の最終確認を終えた俺たちは、心配のあまり今にも泣き出しそうな表情をしたククルちゃんに見送られ、全員で力強く応じて店を後にした。

 店外へ出ると、ククルちゃんの声を聞きつけた避難民の人々からも次々と温かい応援の声が飛んでくる。それぞれに手を振り返したり頷いたりと返事を返しながら進む俺たちの姿は、傍から見ればさながら本物の「英雄」の行進のように見えているかもしれない。

 

「第28班……。以前、私たちが宿に戻る途中にすれ違った人たちかもしれません」

 屋敷へと続く道中、何かを思い出すように青い空を見上げていた狐獣人が、ふとそんな言葉を口にした。

 その言葉をきっかけに俺も記憶の糸を辿る。避難民区画の生存者捜索と王都外での狩りについて役割分担の話し合いをしていたあの時だ。「屋敷の地下に新しい通路が見つかった、という任務について話している班とすれ違った」という報告を、確かに彼女から受けていた。俺は手を「ポン」と叩いた。

「あ! 思い出した。確か前に14210番が、屋敷の地下に現れた通路の調査任務について話していた勇者班とすれ違った、って言ってたやつだね」

「確かに、そんな話を聞いた覚えがあるな……」

「……よくそこまで思い出せましたね、14210番」

 俺の言葉で合点がいったのだろう。熊獣人が感心したように顎を撫で、少女が尊敬の眼差しを狐獣人へと向けた。

「それにしても、その28班の人達は無事かしらねぇ〜?」

「そうだよな。共同調査っつっても、あいつらは一週間とちょっと前から先行して調査を開始してるわけだろ? あの地下室の穴の先で、何事も起きていなけりゃいいんだがよ……」

「あの、巨大な『アルビノ・グナッシャー・ラット』が掘り進めてきたかもしれない穴……なんですもんね」

 第28班の身を案じる女エルフの呟きに、女竜人と少女も心配半分、不安半分といった様子で表情を曇らせた。

 

「……なんだか、やけに人が多くないか?」

 先ほどから、避難民区画と刻印持ち区画を隔てるようにそびえ立つ大きな門へ近づくにつれて、前方の過密状態が酷くなっていることに気がつき、俺は疑問を口にした。全員も同じ違和感を抱いたようで、無言のまま小さく首肯し合う。

 やがて門へと到着した俺たちは、押し寄せる人だかりの中心に見知った顔を見つけ、迷わず声をかけた。

「エリクさん! まだここに残っていてくれたんですね!」

「やぁ、君たちか……。いや、まだまだ『アルビノ・グナッシャー・ラット』による犠牲者の埋葬作業が終わっていなくてね」

 俺の声に気づいて手を振り返してくれたエリクさんだったが、その顔には濃い疲労が滲んでおり、少し元気がなさそうに見えた。

「そうですよね……。あれだけ膨大な人数ですから、たった数日で全ての犠牲者を埋葬するのは不可能です。……それにしてもエリクさん、この人だかりは一体? あの中には、以前あの屋敷の中で俺たちが治療を行った人たちの姿も見えますが……」

 エリクさんは、俺たちがククルちゃんの店で武具を整えていた数日間の間も、休むことなく巨大ネズミの犠牲になった人々の弔いを行っていたようだ。ふと視線を空へ向けると、遠くから何本もの煙が空高く立ち上っており、時折吹き付ける風からは、焦げ臭さに混じって、人が焼ける独特の重い匂いがうっすらと漂ってきていた。

「実は、僕たちは全員あそこから避難してきたのさ。君たちと協力してようやく見つけることのできた大切な避難民を、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないからね。君たちが生存者捜索を終えてからのこの一週間、屋敷にある件の地下穴は第28班が担当していたんだが……一昨日になって彼らから『調査の邪魔になるから今すぐ屋敷の敷地から出て行け』と一方的に追い出されてしまってね。今さっき、ようやく救出した人たち全員の避難がここまで完了したことを確認できたところなんだ」

 俺の質問に、エリクさんは深いため息を吐きながらそう答えると、手元にある四角い現代風の端末に視線を落として画面を操作し始めた。

「なるほど、君たちの次の任務は、彼らと合同での地下通路の調査か。見たところ装備も新調されたようだし、食料も持ち込むみたいだね」

「ああ、俺たちの装備は今朝ようやく最終調整を終えたばかりだ。食料も、手持ちの蓄えをすべて持ってきた」

「エリク、あたしたちの任務内容まで端末で確認できるようになったんですか?」

 エリクさんの視線に気づいた熊獣人が答えると、彼が俺たちの動向を把握していることに驚いた狐獣人が質問を投げかけた。

「君たち第32班の正式な『担当官』に任命されてから、新しく与えられた権限さ。任務の内容を事前に確認し、必要なサポートを行うこと。これが、君たちの担当になった僕の仕事だ。一応、君たち全員の生命状態もこの端末を通してリアルタイムで確認できるようになったんだけど……なんだか『監視官』の役割も押し付けられているようで、個人的にはあまり気が進まないんだよね。でも、君たちのサポートなら喜んで行うつもりだよ」

 エリクさんは狐獣人の質問に答えると、疲労を感じさせない、かつてのような力強い瞳で俺たちを真っ直ぐに見据えた。

「第28班は今回が彼らにとっての初任務ということもあって、かなりピリピリしている。中には少し口の悪い人間も混ざっているから、現地での不必要な揉め事などは極力避けてくれると嬉しいかな。……それに何より、君たち全員が無事に戻ってくることを心から祈っているよ」

「私たちに任せて〜。エリクもしっかり、避難民のみんなを助けてあげてね〜」

 第28班の現状を教えてくれた上で、真摯な激励をくれたエリクさんに、女エルフが頼もしい笑みを浮かべて応じた。それから彼女は、母親の胸に抱かれながら不安そうな顔でこちらを見つめていた幼い子供の前へと歩み寄り、目線を合わせるように屈み込んだ。

「大丈夫よ〜。お姉さんたちが、君たちのお家を必ず取り返してきてあげるからね〜」

 優しく微笑みかける女エルフの言葉に、子供の表情がパッと明るくなる。

「はは、本当に頼もしい限りだよ……。よし! 皆、道を開けろ! これより第32班が通るぞ!」

 エリクさんは俺たちの頼もしい姿を見て小さく笑うと、一転して真剣な表情になり、周囲の兵士や避難民全員に響き渡るような大声で指示を出した。

 その声に応じて、俺たちの前にひしめき合っていた人々がモーセの海のように左右へと綺麗に分かれ、真っ直ぐな道が拓かれる。

 俺たちは一歩、また一歩と足を進めた。

 すれ違う周囲の兵士たちの敬意に満ちた眼差しが、そして俺たちが命懸けで救い出した避難民たちの「頑張って」という温かい声が――俺の胸の奥底に、これから戦い抜くための、とてつもない勇気を与えてくれたような気がした。

今回も読んで頂きありがとうございます!(´▽`)

読者の皆様に、楽しんで頂けたら幸いです。

数日以内に次回を投稿する予定です!


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