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37話 支払いと価値

登場人物の番号と種族

14209番(主人公)

14210番(狐獣人)

11054番(女エルフ)

13882番(人間・少女)

07241番(熊獣人)

08511番(女竜人)

 女竜人は大きな片刃の大剣を肩に担いだまま、最高に満足そうな表情で俺に近づいてきた。

「14209番。ありがとうな。アンタがオレの装備を見直したいって言い出してくれたおかげで、このパーティーをこれまで以上にもっと支えることができそうだ! オレはこの恩を絶対に忘れねぇ」

 俺より少し身長の高い女竜人はそう言うと、俺の頭を子供のようにガシガシと撫で回したあと、肩をポンと軽く叩いた。

「さ、待たせたな。11054番(女エルフ)の矢のことで、なんかアイデアがあるんだろ? 忘れないうちに話してくれよ」

 その言葉を皮切りに、全員の視線が俺へと集まる。

「いや、まぁ、そこまで大層なものじゃないんだけどさ。11054番、普段使っている矢の長さってどれくらいだい?」

「えっと〜、これくらいかしら〜?」

「なるほど。じゃあちょっと言った通りの姿勢をとってみて。顔を正面に向けて胸を張って、左腕を地面と水平に、指先まで真っ直ぐ伸ばしてみて」

 女エルフから手渡された矢を一本預かりつつ、俺は彼女にそう指示を出した。

「こうかしら?」

 女エルフは指示通りに背筋をピンと伸ばして胸を張ると、正面を見据えたまま、しなやかな左腕を真っ直ぐ水平に突き出した。

「そのままじっとしていてね」

 俺は女エルフの喉仏(咽頭)の中心に矢のはずを当て、彼女の左腕に添わせるようにして先端を測る。

(うーん、やっぱり。今の矢の長さは、彼女の指先にギリギリ届くかどうかってところか……)

「14209番、一体何をしているんだ?」

 俺の行動を不思議に思った熊獣人が尋ねてくる。

「この世界でどこまで意味があるかは分からないけれど、俺の世界ではこうやって『矢束やづか』という個人の体格に合わせた長さを測って、最適な矢を使うんだ。弓道っていう武道があってね。――ククルちゃん、長さをしっかり測れる道具ってないかな?」

 俺の問いかけに、ククルちゃんが「ありますよ!」と細かなメモリが刻まれた金属製の定規のような物を手渡してくれた。

「やっぱり11054番の矢は、彼女のポテンシャルに対して少し短いね。ククルちゃん、女エルフの指先から、さらにこのメモリからここのメモリまでのやつを、数種類用意することはできるかい?」

「間に合わせのテスト用でいいなら、すぐに用意できますよ!」

 ククルちゃんはそう言うと、矢の軸になる細長い木棒を数本手に取り、フフンと楽しげに鼻歌を歌い始めた。すると、彼女の魔力に呼応するように、ククルちゃんの周囲に浮かび上がった四本の木棒が、それぞれ長さの異なる矢へと瞬時に形作られていく。

「ふぅ……精霊さん、ありがとうございますっ!」

「……精霊さんがその場で矢を作るなんて、ボ、ボク、初めて見ました……!」

 精霊の力を借りて一瞬で矢の作成を行う様子を目の当たりにし、少女が鼻息を荒くして興奮していた。

「お兄さん! こんな感じでどうでしょうか?」

「ありがとう、助かるよククルちゃん。……それじゃあ11054番。今作った長いやつから順番に番えて、あの的を射てみてくれないかな?」

「ええ。わかったわ〜」

 ククルちゃんから試作用の矢を受け取り、長さの異なる五本の矢を女エルフに手渡した。

 静まり返った広場に、次々と矢が的に突き刺さる乾いた音が響く。

 すべての矢を撃ち終えた女エルフは、何かを確かめるように、何度も反復して弦を引く予備動作を繰り返した。それぞれの矢をさらに数回ずつ撃ち比べ、一本、また一本と使う矢を絞り込んでいく。

 最終的に、彼女は指先から十二センチほど突き出た長さの矢を手に取り、「これが一番、弦を引き絞りやすくて使いやすかったわ〜」と、俺に向けて嬉しそうに報告してくれた。

「そっか。それならククルちゃん、今選ばれた長さの矢で、彼女の矢筒の中身をすべて総入れ替えしてもらうことはできる?」

「はい! お安い御用です!」

 俺がククルちゃんに生産をお願いすると、彼女は元気よく頷いた。

「――さて、それじゃあ一番重要な、支払いをしようか」

「……これが、一番ドキドキしますね……」

「あぁ。この一週間、多少は稼げているとはいえな……」

「オレはゴブリン討伐できてないから、そんなに手持ちがねぇんだよな……」

 俺が切り出した「支払い」という単語に、狐獣人、熊獣人、女竜人が一気に表情を強張らせ、緊張した面持ちで囁き合う。

「あ! お支払いでしたら、あの台の上に置いてある大きな天秤に、リブラを乗せていってください! 天秤がちょうどピッタリ水平になれば、今回の修理や改修にかかった費用と『等価』という扱いになります! 片方の皿が極端に重くなるような細工は一切していませんので、どちら側にリブラを乗せていただいても構いませんよ!」

 ククルちゃんが指し示した先には、重厚で大きな天秤が鎮座していた。

 まずは俺が、手持ちのリブラを全て左側の皿の上に乗せてみる。チャリン、と硬貨の音が響き、天秤がゆっくりと動き出したが、水平には程遠い位置で止まった。

「14209番の所持金を全額乗せて、まだこの傾きか……」

 熊獣人が渋い表情で呟くと、自身の財布をひっくり返して全財産を皿へと追加した。再び天秤が動くが、それでもまだ水平のラインは遠い。

「あたしたちも、全部乗せてみましょう……!」

 緊張のあまりゴクリと喉を鳴らした狐獣人が先導し、少女、女竜人、女エルフも手持ちのリブラをすべて皿へと注ぎ込んだ。

 これにより、俺たち全員の所持金は完全に底をつき、文字通り「ゼロ」となった。

 だが――天秤が完全な水平を保つには、明らかに重量が足りていなかった。

「うぅーん……まだ少し足りませんが、どうなさいますか?」

 ククルちゃんが申し訳なさそうに、困った表情でこちらを見つめてくる。

 俺はふと頭に浮かんだ疑問を、彼女にぶつけてみた。

「ねぇククルちゃん。この価値を測る天秤って、対象はリブラだけなのかな?」

「いえ! 『価値のあるもの』であれば、リブラ以外の物品でもしっかりと反応しますよ? ただ、この世界においてリブラ以外の物品で、これだけの改修費と等価になるような物を用意するのは大変難しいのですが……」

「価値のあるものなら、何でもいい」

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中である考えが浮かんだ。

「ならさ、これはどうだろう?」

 俺は自身の左手首から、ずっと身につけていた『それ』を取り外し、リブラが山積みになった皿の上へと静かに乗せた。

 その瞬間、ガタガタと音を立てて天秤が激しく揺れ動いた。そして――ピタッと微動だにせず、完璧な水平の状態で停止したのだ。

「お兄さん……。これは、一体何ですか?」

 ククルちゃんを含め、全員が天秤の皿に乗せられた小さな金属の物体を凝視し、不思議そうに首を傾げた。

「『時計』っていう、俺の世界で時間を正確に測るための道具だよ。魔法が存在しない俺の世界の、純粋な技術だけで作られたものなんだ」

「そんな貴重なものを……本当にいいのか、14209番!?」

 俺の説明を聞いた熊獣人が、驚きを隠せない表情で身を乗り出してきた。

「いいも何も、この世界の時間がよくわからないから使えなかったしね。それに、もし元の世界に戻れたら、その時にまた新しく買い直せばいいさ」

 俺のあっけらかんとした言葉に、さらに衝撃が走ったように周囲がザワつき始める。

「え〜っと、14209番? それって、国に一つあるかないかレベルの『時間を測る魔道具』と同じ役割なのよね〜? すごーく高価なものなんじゃないかしら〜?」

「いや、俺の世界では子供から大人まで、誰でも普通に持っているような品だよ。品質が極上のなら目玉が飛び出るほど高いけど、これはそこまでのやつじゃないから大丈夫。それにほら、天秤がピッタリ水平になったでしょ? ククルちゃん、これで支払いの代わりにできるかい?」

「は、はい……! もちろん可能です! 天秤が……完全に水平を示していますので……っ!!」

 これまでにも色々な世界から勇者がやってきていたはずだが、俺の世界のような工業文明から召喚された人間は稀だったのだろう。ククルちゃんは、リブラ以外の物品で天秤が綺麗に釣り合う光景を初めて見たようで、信じられないものを見る目で時計を見つめ、緊張で小さな手を震わせていた。

 何はともあれ、これで支払いは無事に完了した。

 熊獣人、狐獣人、女エルフ、女竜人の装備の修理と大幅な改修。

 俺は、借りていた鎧をそのまま買い取る形で新調。

 少女は前回の来店時にすでに腕輪の調整を終えているため、これで、第32班の全員の装備が完璧に整った。

 俺は、手持ちの食料などの物資が次の任務で尽きないことを祈りつつ装備が新しくなった事を喜んだ。

今回も読んで頂きありがとうございます!(´▽`)

読者の皆様に、楽しんで頂けたら幸いです。

数日以内に次回を投稿する予定です!


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