36話 新しい武具 (女竜人編)
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
「ゴブリンの皮を、本当に撃ち抜くなんて……」
静まり返った広場に、矢を放った本人である女エルフの呆然とした声が響いた。
「俺たちの物理攻撃がまったく通じなかったというのに……なんという威力だ」
「……しかもこれ、ボクの身体強化魔法を纏っていない、素の状態の威力ですもんね」
その光景を目の当たりにした熊獣人と少女が、女エルフに続くように驚嘆の声を漏らす。
「ククル、ひとつ聞いてもいいですか?」
「はい! なんでしょーかっ!」
狐獣人がゴブリンの皮の張られた的を見つめながら、表情ひとつ変えずにククルちゃんに問いかけた。
「この大弓ですが、実際に生きているゴブリン相手なら、どこまで威力を発揮できますか?」
「うむむむ……。討伐されたゴブリンの死骸を細かく観察しましたが、彼らは筋肉と皮膚、それぞれにかなりの強度を持っています。ですので、この大弓が生きている個体にどこまで通用するかは、実際に戦ってみるまで予測の立てようがないですね……」
ククルちゃんは職人としてデータが足りないのが不満なのか、ものすごく悔しそうな顔で答えた。
「でもぉ〜、少なくともあの硬い皮を貫通する威力が出せることは証明されたわけでしょ〜? もし、普通の弓矢と同じ比率になるように、この大弓用の矢もさらに大型化してみたらどうかしら〜?」
女エルフは深く息を吐き出すと、手に持った大弓の重みを確かめながらそんな提案を口にした。
(なるほど。この世界は魔法で色々と解決できるから、矢の適切な長さ――いわゆる『矢束』の概念なんかは、あんまり深く考えられてこなかったのかな……?)
俺は地球の弓道の知識を頭に浮かべつつ、少し考えてから口を開いた。
「11054番(女エルフ)の使う矢の長さについては、俺に少しアイデアがあるんだ。ただククルちゃん、ひとまず先に08511番(女竜人)の武具の説明も頼めるかい? 見た感じ、鎧も大剣もかなり形が変わっているようだからさ」
「あ! はい! わかりました! では竜人のお姉さん、こちらへ来てください!」
「やーっとオレの装備の番かぁ! 待ちくたびれたぜ!」
女竜人は両手をプラプラと振りながら、嬉しそうにククルちゃんの元へ向かう。
(……まだ手の痛み、引いてなかったんだな)
先程、熊獣人のガントレットの大盾に全力の一撃を叩き込んで悶絶していた女竜人は、まだ少し手が痺れていそうだったが、新しくなった自身の武具を前に、その瞳を少年のように輝かせていた。
「では、竜人のお姉さんの鎧から紹介させていただきますね! といっても、基本構成は熊のおじさんと同様です。鎧の内側に、身体強化魔法をより強力にする術式と、消費魔力を軽減する術式の二つを刻みました。ちなみに、お姉さんの身体強化魔法の特性に合わせて、防御強化の術式も同時に展開する『複合術式』として仕上げてあります!」
ククルちゃんの説明を聴きながら、女竜人はそれまで着ていた借り物の鎧を脱ぎ、インナーだけの姿になる。
「なるほどなぁ。07241番(熊獣人)の鎧に刻まれた術式とは、また少し方向性が違うのか」
「はい! 竜人のお姉さんはおじさんと違って盾をお持ちではないので、鎧そのものに身体強化と防御強化を同時発動させ、前衛としての防御力の底上げを狙ってみました!」
「ん? この世界の竜人がどうかは知らねぇが、元の世界じゃオレたち竜人は身体強化を使うと自然と防御力も上がってんだよな。ってことは、この鎧を着て身体強化を使えば、さらに固くなるってことか?」
良かれと思って解説していたククルちゃんは、女竜人の言葉を聞いた瞬間に目を丸くした。
「え? そうだったのですか!? こちらの世界にいる竜人族の皆さんは、身体強化で防御力までは上がらなかったので、それを前提に構築していました……。そうですよね、同じ種族とはいえ世界が違うということは、魔法の効果や肉体の特性も違う可能性があることを頭に入れておくべきでした。……リサーチ不足ですみません!」
「いや、いいんだよ気にすんな! ククルが刻んでくれた術式が、オレ本来の身体強化と掛け算で組み合わさるってんなら、オレとしては何の文句もねぇさ!」
女竜人はククルちゃんの謝罪をまったく気にした様子もなく、マネキンから黒鉄の鎧を外して手際よく着込んでいった。最後に腕鎧をはめると、手のひらをグーパーと力強く握って感触を確かめる。
「なぁククル、この腕鎧についてるヒレみたいな突起は何だ?」
「あ、それですね! お預かりしたお姉さんの元の鎧を観察していたところ、なぜか腕鎧ばかりが酷く損耗していたんです。おそらく、狭い場所での戦闘や、大剣の間合いの内側に入り込まれた際、モンスターを腕の甲で直接殴りつけていたんだろうな、と推測しまして。ですので、腕鎧にヒレ状の『副刃』を付けさせていただきました! 大剣を振るえない超至近距離でも、致命傷を繰り出せるようにです!」
ククルちゃんはフットワークを刻みながら、「シュッシュッ!」と短い腕を振り回してボクシングのような仕草をしてみせる。
「ハハッ、コイツ単体でも武器になるのか、ありがてぇな! 確かにククルの言う通りだ、大剣が振れねぇ狭い室内じゃ、よく敵の顔面をぶん殴ってたよ! ……んで、そっちの台に鎮座してるのが、オレの新しい大剣か?」
女竜人は鎧をすべて着用し終えると、頭の後ろで手を組んで不敵に笑った。
「前の大剣と、だいぶ形が変わりましたね……」
「俺の大盾と同じくらい、劇的な変化だな」
「この大剣には、一体どんなギミックが仕込まれているのかしら〜?」
少女の呟きに熊獣人が応じ、女エルフが興味津々で首を傾げる。
「竜人のお姉さん。どうぞ、その大剣を手に取ってみてください!」
ククルちゃんの言葉に従い、女竜人は台から新しい大剣を引き抜いた。
「ははっ! 以前よりずっしりと重さが増してるな……。だが、持ち上がらないわけじゃねぇ。むしろ、オレの手に最高に馴染む重さだ」
女竜人は嬉しそうにその大剣を数度振り回すと、ピタッと静止して美しい構えを取った。改修前は両刃だった大剣は、洗練された「片刃の大剣」へと姿を変えている。
「その大剣にも、もちろん最高のギミックを仕込んでありますよ! 持ち手の上部にある、その小さなスイッチを押してみてください!」
女竜人が柄へと目を落とすと、大剣を握った際に右親指のすぐ近くにくる位置に、金属製のスイッチがあるのを見つけた。彼女は躊躇なく、それを親指で押し込む。
───ガチャリッ!───
重厚な機械音とともに、大剣の分厚い刃の一部が滑るようにスライドし、内部からもう一本の隠された「持ち手」が露出した。女竜人はそれを左手で掴み、慎重に左右へと引き剥がす。
「こいつは……!」
「スイッチを押すことで、形状を『大小二振りの双剣』へと分離させることができますっ!」
ククルちゃんが誇らしげに叫ぶ。そう、彼女の大剣は、修理前の一振りの大剣から、戦闘状況に応じて瞬時に二刀流へと移行できる可変式の特製大剣へと生まれ変わっていたのだ。
「より攻撃的で、隙のない構成になりましたね」
隣に立つ狐獣人が、二振りの剣を構える女竜人を見つめながら静かに呟く。
「確かにね。防御性能が数段上がった07241番(熊獣人)と、手数と攻撃力が跳ね上がった08511番(女竜人)。これで、俺たちの前衛はかなり強力になった気がするよ」
狐獣人の言葉に、俺も深く同意した。
「さて、と……」
女竜人は自信に満ち溢れた獰猛な笑みを俺たちに向けると、「よーく見てろよ!」と一言だけ告げた。
次の瞬間、彼女の身体が動いた。大剣を振り回しているとは思えないほど軽々しく、しかし一撃一撃に空間を引き裂くような風切り音を伴う圧倒的な力強さで、流麗な型を繰り出していく。
さらに二刀の状態へと移行すると、まるで荒れ狂う嵐の舞を踊るかのように刃を交錯させた。
彼女は、先ほど狐獣人が短槍で貫通させた、鉄鎧着用の藁人形へと一瞬で肉薄する。
二振りの剣で鎧の隙間を瞬く間に斬り裂いた直後、流れるような動作で再び一振りの大剣へと結合。そのまま身体を半転させ、遠心力のすべてを乗せて大剣を脳天から全力で振り下ろした。
───ドッゴォォォンッ!!!───
訓練場に激しい衝撃音が響き渡り、大量の砂煙が激しく舞い上がる。
やがて風が吹き抜け、白く煙る砂塵が綺麗に消え去ったとき――そこには、無残に切り刻まれ散らばる鎧の破片と鉄鎧ごと完全に真っ二つになって地面に転がっている藁人形の残骸があった。
「さいっこうだッッ!!! ククル、お前天才だな!」
女竜人は大剣を肩に担ぎ、この上なく晴れやかで、野性味溢れる笑顔で豪快に笑ったのだった。
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