34話 新しい武具 (狐獣人編)
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
「この防御性能は本当に素晴らしいな。鎧も動きの邪魔にまったくならなくて最高だ」
熊獣人は満足げに頷くと、ククルちゃんに向かって親指を立ててサムズアップしてみせた。
「ご満足いただけて何よりです! では次は、狐のお姉さんの短槍なのですが……」
「あの、ククル。あたしの槍の紹介の前に、先に謝らなければいけないことがありまして……」
ククルちゃんが続いて狐獣人の武器改修について話そうとしたその時、狐獣人が申し訳なさそうに、両手に持っていた「真っ二つに折れた短槍」を差し出した。
「狐のお姉さん、これは……?」
「ごめんなさい。ククルからお借りしていた短槍を、戦闘の中で折ってしまいました……」
ククルちゃんが首をコテンと傾げる。綺麗な姿勢のまま深く頭を下げる狐獣人から、彼女は折れた短槍を受け取った。
「おがー、綺麗に両断されてますねぇ〜。狐のお姉さん、気にしないでください! その短槍はあくまで応急処置の間に合わせでしたから、激しい戦闘で破損するのは最初から織り込み済みですよ!」
ククルちゃんは受け取った短槍の切断面を観察しつつ、落ち込む狐獣人を優しく励ました。
「それにしても、あの貸し出し用もそれなりに強度は持たせてあったはずなんですけど……一体どんな魔物と戦ったんです?」
ククルちゃんが折れた短槍を近くの木箱に収めながら尋ねる。
「『アルビノ・グナッシャー・ラット』よ〜。ここから少し進んだ場所にある、避難民区画の屋敷の地下に住み着いていた巨大なネズミなの〜」
狐獣人の代わりに女エルフが答えると、ククルちゃんは目を丸くして驚愕の表情を浮かべた。
「え!? この王都の内部に、そんな魔物が住み着いていたんですか!?」
「そうなの〜。一年くらい前からずっと潜んでいたみたいね〜。このお店の外にいた彼らは、そこから逃げ出してきた避難者だったのよ〜。ククルちゃんに武具の修理を依頼した日、彼らに声をかけられて初めて知ったの〜」
「ついでに言っておくと、俺の借りていた大盾に凄まじい爪痕を残したのもそのアルビノ・グナッシャー・ラットだ。あそこに置かせてもらっているから、見て見るといい」
女エルフの言葉に続き、熊獣人が壁に立て掛けられたボロボロの貸出用大盾を指差す。
「はえー……。ククルが作った大盾にこれほどの傷を刻んだり、短槍を真っ二つに切ったりできる魔物ですか……。それほど危険な相手と戦うことになるのなら、皆さんの武具をしっかりと改修しておいて大正解でしたね! ――さあ、狐のお姉さんの新しい短槍はこちらです!」
ククルちゃんは鼻息を荒くしながら狐獣人を台の前へと案内し、一本の槍を手渡した。
「これが……あたしの、新しい槍……」
短槍を受け取った狐獣人は、広場の中央へと移動し、感触を確かめるように軽く振り回し始めた。
初めて見る彼女の本格的な槍捌きは、まるで洗練された美しい剣舞を見ているかのような錯覚を覚えさせる。
「……すごく、綺麗、です」
傍らで見ていた少女の言葉通り、本人はただの素振りのつもりなのだろうが、立ち位置を滑らかに変えながら、様々な角度から鋭い振り下ろし、刺突、引き戻しを繰り出していく。その一挙手一投足が、初めから完成された一つの舞踊であるかのように完璧だった。
「以前より柄が少し太くなって、格段に握りやすくなっていますね。穂先との重量バランスも絶妙ですが……少しだけ、穂先側が軽く感じられます。あたしが握るこの位置が太くなっているのには、何か理由があるのですか?」
狐獣人は一通りの素振りを終えると、ククルちゃんへ丁寧な感想と質問を投げかけた。
「ええ、よく気づいてくれました! お預かりした際、狐のお姉さんの元の短槍を見て気づいたんですが、握り手の部分に負荷が強くかかりすぎていたんです。おそらく、お姉さんの手の大きさと柄の細さが噛み合っておらず、無意識に必要以上の力で強く握りしめていた可能性がありまして。お姉さんの手の大きさに対して、これまでの柄は細すぎたんです。なので、握る位置の太さを最適に調整しました。――そして、そこにはちょっとした『仕掛け』もあります! その太くなっている箇所を、グッと捻ってみてください!」
狐獣人はふむふむと頷きながら話を聞き、言われた通りに自身の手元を鋭く捻った。
───カシャンッ!───
小気味よい音とともに、短槍の柄が瞬時に伸長した。厳密に言えば、魚突きで使う銛のように、穂先側が半分射出されるようにして間合いが伸びたのだ。
「これは……?」
手元で一瞬にして長槍へと変化した武器を眺め、狐獣人がククルちゃんへ問いかける。
「簡易的な魔法術式を組み込みました! 持ち手を捻ることで、一瞬で間合いを伸ばすことができます。この伸長する際の強烈な勢いを利用した、奇襲気味の刺突攻撃も可能ですよ! 試しに、あそこにある人形を突いてみてください。一般的な兵士が使う本物の鉄鎧を着せてありますので、強度は十分です! あ、長さを元に戻すときは、反対方向に捻ればすぐに引っ込みますので」
ククルちゃんが指差した先には、藁で形作られた人型に、ずっしりとした金属鎧を着せられた訓練用の人形が設置されていた。
狐獣人は指示通りに一度短槍の長さを戻すと、全開戦闘時のように、音もなく姿勢を深く低く沈めた。
「いきます……!」
言葉と同時に、彼女の身体が弾かれたように前方へ突進する。地面を蹴る足音がほとんど聞こえないほどの超高速。
「やぁっ!!!」
人形の手前、短槍を鋭く突き出す瞬間に持ち手を捻り、目にも留まらぬ速さで穂先を伸長させた。
───ドスンッ!!!───
重苦しい破壊音が響く。
短槍の刃は、頑強なはずの鉄鎧の胸部を容易く貫通し、背中側へと完全に突き抜けていた。
「……え?」
あまりの威力に、狐獣人自身が間抜けな声を漏らした。
自分の想定を遥かに超える破壊力で強固な鎧をブチ抜いてしまったからだろう。完全に固まっている狐獣人を見て、ククルちゃんは満足げに深く頷くと、「完璧な威力ですね!」と声を弾ませた。
「狐のお姉さん! 使い心地はどうですか!?」
ククルちゃんは瞳をキラキラと輝かせながら歩み寄り、彼女の顔を覗き込む。
「あたし自身……この威力にはすごく驚いています。でも、伸ばした瞬間の重量バランスが本当に素晴らしくて……。短い時は最高に振り回しやすく、伸ばした状態でも単純に扱いやすく感じます。……あたしの動きや癖に合わせて、このような素晴らしい形にしてくださり、本当にありがとうございます」
狐獣人は貫通した槍を引き抜いて納めると、ククルちゃんに対して深く頭を下げた。
「喜んでいただけて何よりですよ!」
ククルちゃんは、まるで弾ける太陽のような満面の笑みでそう答えたのだった。
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