33話 新しい武具(熊獣人編)
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
眠りから覚めた俺は、一人で宿の裏手にある井戸へ向かい、汲み上げた冷水を頭から豪快に被った。
(ふぅ……さっぱりした……)
毎晩、お湯を含ませた布で身体や髪を拭くだけの生活には、流石に限界がある。湯船にゆっくり浸かりたいという贅沢な欲望は、この異世界に召喚されてからの十日あまりで、日々強まるばかりだった。
食堂へ向かい、皆と揃って朝食を食べる。このルーティンもすっかり身体に馴染んできた。
「昨晩も話したが、今日は朝食を済ませたらすぐにククルの店へ向かおうと思う」
俺の目の前に座る熊獣人が全員を見渡しながら告げ、木製の大きなコップに注がれた水を一気に飲み干した。
「私たちの装備を預けてから、もう一週間経ったものね〜。どんな風に生まれ変わっているのか、本当に楽しみだわぁ〜」
隣に座る女エルフが、少女のように目を輝かせてワクワクしている。
「あたしは……お借りしていた短槍を戦闘で壊してしまったので、まずは謝罪しないと……」
熊獣人の隣で、狐獣人が獣耳をペタンと寝かせて酷く落ち込んでいた。
「ボクたちを守るために戦って壊れちゃったんですから、もしククルさんが怒りそうなら、ボクからもちゃんと説明します……っ!!」
健気な少女が、拳を握りしめて全力で励ましている。
「ま、オレたちの我が儘な戦闘スタイルに合わせて調整してくれてんだ。多少の小言を食らったって構わねぇよ」
一足早く食事を終えた女竜人が、ガサツに笑いながらカウンターへと食器を運んでいく。
「あとは……費用がどれだけかかるかが、俺としては一番心配かな」
俺の呟きに、その場にいる全員が深く頷いた。
「ネズミ討伐の報酬で多少は懐が潤ったし、狩り班が一週間毎日外に出て結構な数の獲物を仕留めてきてくれたお陰で、買い取りの儲けもある。刻印持ち区画の干し肉の値段が少し落ちるくらいには流通させられたけど、それでも武器の改修費となると高いのには変わりないからね」
俺はそう言いながら、食器を片付けるために立ち上がった。それに合わせるように皆も席を立ち、カウンターの奥で水瓶から水を注いで喉を潤している女竜人の元へと合流した。
──────────────────
人のまばらな宿を出た俺たちは、足早にククル鍛冶店へと向かった。
店へ至る道中、以前まで肌で感じていた「値踏みするような視線」は完全に消え失せていた。代わりに突き刺さるのは、避難民たちからの強い敬意と感謝の眼差しだった。
ククル鍛冶店に到着し、木製のドアを開ける。ドアに取り付けられたベルが、チリンと音を鳴らした。
トタトタトタ、と小気味よい足音が店の奥から響いてきて、すぐにククルちゃんが姿を現した。
「みなさん! おはようございますっ!」
元気いっぱいの声で挨拶をしたククルちゃんは、そのまま「こちらへどうぞ!」と小さな手で手招きし、店の裏手にある広場へと俺たちを案内してくれた。
そこは武器の試運転を行うための広い訓練場のようになっており、矢の刺さった的や、ボロボロの案山子、分厚い鉄板などが並んでいた。
「お預かりして改修・修理した皆さんの武具はこちらになります! 以前と大幅に形状が変わったものもありますが、それが皆さんの戦闘スタイルにピッタリ合った『正解』の形状だと自負していますよ!」
ククルちゃんは小さな身体を精一杯使い、「よいしょ、よいしょ」と声を上げながら、防具を着せられたマネキンや、新しい武器が整然と並べられた木製の台を押してきた。
「こりゃあ……」
「すげぇな……おい!」
熊獣人の感嘆の呟きに、女竜人が興奮気味の声を重ねる。二人は武器と防具の両方をフル改修に出していたため、劇的に変化した自分たちの武具に完全に目を奪われていた。
「では、皆さんの武具の解説をさせていただきますね!」
ククルちゃんの声に、俺と少女以外のメンバーが新しい武具から目を離し、真剣な表情で作戦会議さながらの姿勢を取った。
「まずは熊のおじさんから! 以前の大盾はダメージが完全に中心へ集中していて、盾の縁にある攻撃用の刃が滅多に使われていませんでした。どちらかと言えば、ガントレットの護身用の爪を多用しているような損耗の仕方でした。ですので……今回は『ガントレット』と『大盾』を完全に一体化させました!」
ククルちゃんが胸を張って指差した先には、異様な存在感を放つ籠手があった。
「大盾を左右二枚に分割し、それぞれでシールドバッシュなどの攻撃ができるよう、刃の部分を鋳造し直して頑強な『爪』の形状へと変更しました。さらに、熊のおじさんの得意な身体強化魔法に反応して強度が上がる術式を、鎧と盾の両方に刻ませていただきました! これにより、防御力と攻撃力の双方が大幅に向上しています!」
ククルちゃんの説明が終わるや否や、熊獣人は待ちきれないといった様子で借り物の鎧を脱ぎ捨て、新しくなった黒金色の鎧に袖を通した。
鎧自体は両腕のガントレットと色以外に大きな変化は見られないが、左右の腕に装着された「分割された大盾」を兼ねる分厚いガントレットの威圧感は凄まじかった。
熊獣人はゆっくりと身体を動かして馴染ませると、両腕を顔の前でガチンと合わせ、防御姿勢を取った。そして、ニヤリと好戦的に笑って女竜人に声をかける。
「08511番(女竜人)。全力で、俺に斬りかかってきてくれ」
「あん? いいのかよ? 手加減なしだ、どうなっても知らねぇぞ!」
熊獣人の提案に、女竜人は獰猛な肉食獣のような凶悪な笑みを浮かべた。一歩下がって十分な距離を取ると、腰を深く落として借り物の大剣を低く構える。
ふう、と深く息を吐き出した直後、彼女の足元が爆発したかのような錯覚を覚えた。猛スピードで突進した女竜人は、身体のバネをしならせ、遠心力と体重のすべてを乗せた渾身の一撃を、熊獣人のガントレット目掛けて振り下ろした。
ガギイイイイイイイイイイイッ!!!
訓練場に、鼓膜を震わせる金属の激突音が轟く。
あれほどの強烈な突撃を受けたというのに、熊獣人は足元の一歩すら崩さず、微動だにしていなかった。それどころか、あまりの硬さに衝撃を受け流されたのか、女竜人の手から大剣が弾き飛ばされ、クルクルと宙を舞って地面に突き刺さる。
「痛ってええええええ……っっ!?」
女竜人は痺れた両手を自分の身体で抱え込むようにしてその場にしゃがみ込み、涙目で悶絶していた。
「07241番、大丈夫!? 今のは流石にもの凄い衝撃だったけど……」
俺が恐る恐る声をかけると、熊獣人はゆっくりと防御姿勢を解き、自分の両腕を確かめるように見つめた。
「……全く問題ないな。問題ないどころか、ダメージの軽減効率が強力すぎて、自分でも恐ろしさを感じるほどだ」
そう語る彼の顔には、前衛の要としての、圧倒的に頼もしい笑みが浮かんでいた。
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