31話 救えた命と救えなかった命
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
陽が傾き始めた頃、俺たちはようやく生存者たちを引き連れて屋敷へと帰還した。
元は貴族の邸宅だったということもあり、五十名もの避難民を全員、安全な屋敷の中へ入れてあげることができた。
「……あの! ボク、怪我をしている人たちを治してあげたい、です!」
全員が門をくぐり、屋敷内へ収容されていくのを見届けていた時、少女がいてもたってもいられないといった様子で、そわそわしながら俺と女竜人を見上げて言った。
「14209番、どうする? オレとしては13882番(少女)に大賛成だ。助けてはい終わり、じゃあ寝覚めが悪いからな」
「俺も気持ちは二人と同じだよ。でも、傷薬や包帯も潤沢にあるわけじゃない。13882番の魔法に頼るにしても魔石の数も心もとないから……エリクさんたち王国兵の手伝いをする形なら、大丈夫だと思う」
「ボクはそれでも十分です! 行ってきますっ!」
俺の言葉に力強く頷くと、少女は怪我人の治療のために薬や包帯を運んでいる兵士の元へと駆け寄った。いくつか資材を分けてもらうと、治療所として一箇所に集められている怪我人たちの元へまっすぐに走っていく。
周囲の兵士に的確に声をかけ、怪我人を診ていく彼女の姿は、いつもの自信なさげな雰囲気とはまるで違っていた。俺の世界の言葉で言うなら、「立派な医者」という表現がこれ以上なくしっくりくる働きぶりだった。
「オレたちも行こうぜ。13882番の手伝いだ!」
女竜人は誇らしげに笑うと、少女の元へと歩き出していく。
俺は一歩遅れて、懸命に立ち働く二人と兵士たちの姿を眺めてから、少し離れた場所で手元の端末を操作しているエリクさんの方へと向かった。
「エリクさん。……俺たちが捜索で見つけた、新たな犠牲者の数はどれくらいになりますか?」
声をかけると、エリクさんは視線を端末に向けたまま、重苦しい口調で答えた。
「14209番……。今、魔族の侵攻から避難してきた人たちの記録を照合していてね。王国の名簿、死亡数、出生数までしっかり記録されているんだ。それで……君たちが今回の捜索任務で新たに発見した犠牲者の人数は、百六十一名さ」
「百、六十一名……ですか……」
俺は地面を見つめ、ただその一言を返すので精一杯だった。
あまりにも多すぎる。あの地下室で最初に見つけた犠牲者と合わせれば、この狭い区画だけでおよそ二百人近い命が失われたことになる。
「『アルビノ・グナッシャー・ラット』は、襲って殺した人間をその場で少し貪り、好みの獲物だけ新鮮な状態で地下室へ連れ去って食べた。今回見つかった犠牲者たちは、体の一部を無惨に齧られたまま、その場に放置されていた。……ヤツの口に、合わなかったんだろうね……」
犠牲者たちの状況を説明するエリクさんの鎧が、カタカタと小さく音を立てた。悔しさと、魔物への激しい怒りで、全身が小刻みに震えているように見えた。
「何にしても、君たちには感謝している。彼らを発見できたからこそ、こうして新しい犠牲者を弔うこともできるんだからね」
エリクさんは開け放たれた玄関の扉から、屋敷の中を見つめながらそう言った。
釣られて俺も中へ視線を向ける。そこでは、少女と女竜人が兵士たちと共に入り乱れ、必死に怪我人の治療にあたっていた。
凄惨な現実のすぐ隣に、確かに自分たちが「救えた命」が息づいている。その事実が、冷え込みそうだった俺の心を温め直してくれた。
「エリクさん。捜索期間中、食料の支援などを回していただき本当にありがとうございました。……俺も、皆の手伝いに行ってきます」
「ああ、頼んだよ」
俺はそう言って歩き出し、少女と女竜人の元へと合流した。怪我人の治療のサポートに入り、手が空いた時には、不安そうに身を寄せ合う子供たちの相手をした。
俺の不器用な手品や話に、小さな子供たちがほんの一瞬だけ見せてくれた笑顔。それを守れただけでも、この一週間の泥塗れの苦労には、確かに意味があったのだと信じたかった。
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