25話 後処理
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
地下室から地上へ戻った俺は、狐獣人が戻ってくるまでの間、座り込んで体を休めていた。
「14209番〜、右腕の調子はどうかしら〜?」
戦闘中はあんなにキリッとしていた女エルフが、通常モードの間延びした声で話しかけてくる。
「んー、ククルちゃんの調律のおかげかな。ゴブリンの時みたいに全く動かないってことはないよ。ほら、少しだけなら」
俺は「こんな感じだ」と、右腕を動かして見せた。
「……本当に、少しだけですね」
少女が心配そうに覗き込む。実際、筋肉がピクリと反応する程度で、腕全体を自由に動かせるわけではない。それでも、自分の意志がわずかでも伝わっていることが、今の俺には嬉しかった。
「それにしてもこの細剣、本当に不思議よね〜。貴方が持った時だけ、まるで生き物みたいに動くんですもの〜」
女エルフは細剣を手に取ると、鞘から抜いて様々な角度から眺めた。
「あの……11054番は、学者さんだったのですか?」
少女の問いに、女エルフは細剣を俺の傍らに戻し、微笑みながら首を横に振った。
「いいえ〜、学者じゃないわ。ただ、この細剣に似た武器をどこかで見たことがあったかしらって思ったの。私はエルフで寿命も長いから。生きていく中で『知らないこと』を知りたいっていうのは、半分趣味みたいなものね〜」
そう語る彼女の横顔には、どこか遠くを見つめるような寂しさが混じっていた。
しばらく三人で話していると、遠くから悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
「うわあああああああああ!!!!」
声の主はエリクさんだった。狐獣人に脇に抱えられ、建物の屋根をピョンピョンと跳ねる超高速移動に巻き込まれている。
屋敷の門の前で着地した狐獣人は、エリクさんをそっと(?)下ろすと、スタスタと俺たちの元へ歩いてきて、満足げな表情で俺の傍らにしゃがみ込んだ。
「報告と説明を済ませました。他の兵士もこちらへ向かっています。エリクには地下の惨状の確認と、14209番の話を聞かせるために運んできました」
狐獣人の頭を撫でて労うと、俺は地面に膝をついて激しく深呼吸しているエリクさんへ歩み寄った。
「急ぎだったとはいえ、手荒な方法で申し訳ありません。動けるようなら、地下へ案内したいのですが……大丈夫ですか?」
エリクさんは青い顔で頷くと、消え入るような声で「……案内、お願いします」と言い、ふらつきながら立ち上がった。
地下室へ降りると、犠牲者の血で汚れたままの熊獣人と女竜人が気づいて歩み寄ってきた。
「14209番、もう動いて大丈夫なのか?」
「ああ。エリクも、来てくれてありがとう」
熊獣人は俺の無事を確認すると、エリクさんに向き直り、居住まいを正した。
「ここで巨大ネズミの犠牲になった人間はおよそ三十名。他にも犬や猫、家畜もいたようだ。……勝手ながら、彼らを地上へ運ぶために樽へ収容させてもらった。許してくれ」
女竜人が、遺体の収まった大小の樽を指差す。エリクさんはそれを見て唇を噛み、俺を見つめた。
「14210番(狐獣人)から聞きました。……ここで犠牲になった人々を『燃やす』というのは、一体どういう意図なのですか?」
エリクさんの声には、困惑と警戒が混じっていた。
「この国でも一般的なのは土葬でしょう。ですが、この人数を埋める土地をどこに確保するのか。それに、遺体はどれも欠損が激しく、誰が誰かも分からない状態です」
俺は静かに言葉を続けた。
「俺のいた国では、故人を火で焼いて弔う『火葬』という方法がありました。これは死者に苦痛を与えるためのものではありません。肉体という枷から魂を解き放ち、次の世界へ……新たな生へ向かわせるための儀式なんです」
エリクさんは俺の言葉を咀嚼するように「次の生へ……」と呟いた。
「……燃やした後に土に埋めるなら、結局は土葬と変わらないのではありませんか?」
「骨になった彼らを、壺や瓶に納めるんです。教会、あるいはこの屋敷の敷地内に慰霊碑を建ててそこに納めれば、場所も取らず、いつでも家族や友人が祈りを捧げに来られる」
エリクさんは手元の端末をしばらく操作していたが、やがて顔を上げた。
「なるほど。14209番の提案は、端末を通じて王へもお伝えしました。……王の返答は、『それで進めてくれ』とのことです。骨は教会へ安置し、慰霊碑はこの屋敷の入り口に建てるよう指示を受けました。……そして、第32班に王よりお言葉があります」
俺は地上にいる三人を呼び寄せた。ちょうど到着した兵士たちの協力も得て、全員が地下室の入り口に整列する。
エリクさんは深呼吸し、端末を俺たちの方へ向けた。
『第32班よ。このような形で言葉を届ける非礼を許して欲しい』
王の声は、端末越しに少しノイズ混じりではあったが、威厳と慈愛に満ちていた。
『私でも手が届かなかった事態を収束させてくれたこと、心より感謝する。犠牲者の弔いまで案じてくれた君たちの慈悲にもだ。……ゴブリン討伐に続き、君たちが成した功績は大きい。これからもこの国の人々のために、その力を貸してほしい。以上だ』
「よし! 彼らを地上へ上げるぞ!」
王の言葉が終わり、しばしの沈黙の後、熊獣人が号令をかけた。
俺たちは樽や籠を抱えて地上へ上がり、兵士たちは薪の組み上げや、討伐した巨大ネズミの運搬を分担した。
陽が完全に落ちた頃。組み上がった薪の上に犠牲者たちが安置され、油が撒かれた。
松明を手にしたエリクさんが、静かに火を放つ。
闇の中で、紅蓮の炎が勢いよく立ち上がった。
人の焼ける独特の匂いが漂う中、俺たちは誰からともなく祈りを捧げた。それは、炎が静まり、全てが燃え尽きるまで続いた。
夜空へと吸い込まれていく煙を眺めながら、俺は祈った。
巨大ネズミの犠牲になった彼らが、どうか次の世界では、穏やかな生を送れるようにと。
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